攻勢
ユーディス・ロンド
「いくぞっ! 全軍、俺に続けぇ!」
キロール・シャルンホストの負傷を知り、ユーディスはすかさず全軍に攻撃を命じた。
一方ならぬ指揮官を一時的にでも失った軍を間をおかずに叩くのは、そう悪い選択肢ではない。
政治的才覚、また人間としてもまだまだ甘さが残るユーディスだが、少なくとも軍事的才覚だけは人並みにあったようだ。
「将軍に続けっ!」
「帝国軍、ばんざーーーーい!」
ユーディスの先ほどの一騎打ちの効果か、今まで以上に兵の士気も高い。
あるいは、本当にこのまま世紀の番狂わせが起こるのではないか・・・そう思わせるほどの勢いだった。
だが、なぜキロール率いる Legion が『共和国最強』と呼ばれているのか?
部隊を率いるキロールが、並外れた指揮能力と武勇を誇るから?
そうではないことを、ラピス・ローズ本隊の面々は思い知ることとなった。
「将軍、敵本陣への道、切り開けません!」
「目前の部隊が撤退していきます! 変わって10時方向から新手がっ!」
「くそ〜! 何なんだ、この動き!? ぜんっぜん乱れてないじゃないかっ!」
焦りと戸惑いの色を濃くしたユーディスの嘆きが戦場にこだまする。
自ら率いる直属の前衛部隊は勢いにのって敵を押し込むものの、決定打を与える前にすっと引いてしまう。
しかも撤退に乗じて攻勢に拍車をかけないよう、微妙に角度をずらした部隊が牽制に入る芸の細かさだ。
部隊を全体を見ると、やや帝国軍が有利、といった程度で戦局は推移しているに過ぎない。
「くそっ・・・兵も部下も百戦錬磨って事なのか・・・」
「ユーディス将軍、いかがしますか!?」
副官の呼びかけに、一瞬だけ考え込む。
だが、ユーディスはいくつも選択肢をもっている訳ではなかった。
「・・・このまま攻勢を掛ける! 相手もキツいはずだ!」
「ははっ!」
その後も一進一退の攻防が続き・・・再び、死神が戦線へ舞い戻る。
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