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SROM様による『CLANNAD』レビュー

注意

 本文章はSROM様から御投稿を頂いた『CLANNAD』(Windows)レビューです。ですので、背景が黄緑色となっている部分(レビュー本体)の著作権はSROM様にあります。予め、御了承下さい。


SROM様による『下級生2』レビュー
項目評価
操作性6
音楽10
画像8
システム4
設定10
人物10
脚本10
主観評価30
合計88



 2004年4月に発表されたKEYの新作『CLANNAD』のレビューを試みた。ネタばれを含むのでご注意頂きたい。


<概要>

 主人公である岡崎朋也が、学園へ向かう途中の坂で、古川渚と出会う所から話が始まる。
 基本的には、選択肢を選びながらストーリーを進めるオーソドックスなADVゲームである。


キャラクター紹介:

岡崎朋也
 本作品の主人公。町一番の進学校に通う3年生で、父親の直幸との2人暮し。元々スポーツ特待生(バスケ部)として入学したが、直幸との喧嘩が原因で肩を痛めてしまい、退部している。遅刻が多いなど生活態度は悪く、学園内では不良として通っている。良くクラスメイトの春原陽平と行動を共にする。なお、喧嘩をして以来、直幸との関係は希薄になっており、家の中でもほとんど会話をしなくなっている。

古川渚
 メインヒロイン。主人公と同じ学園に在学している3年生であるが、病気で長期に渡り休学してしまい、留年したため、年齢は主人公より一つ上である。父秋夫と母早苗との3人暮らし。学園内では、友達がおらず孤立している。主人公と出会った後、廃部になった演劇部を復活させようと努力する。

藤林杏
 メインヒロインの1人。主人公と同じ学園に通う3年生。双子の妹の涼が同じ学園に通っている。非常に明るい性格で、不良である主人公にも気軽に声を掛ける。妹の涼が主人公に恋心を抱いており、杏はそれを応援する立場を取るが、実は杏もひそかに主人公に対し想いを寄せている。

坂上智代
 メインヒロインの1人。主人公と同じ学園に通う2年生。別の学園から転校してきている。喧嘩が強く、前の学園で様々な武勇伝を持っているが、転校後は普通の女子生徒として生活するように努めている。ある目的を果たす為、生徒会へ入ろうと考えている。

一之瀬ことみ
 メインヒロインの1人。主人公と同じ学園に通う3年生。学園一の秀才。両親は優秀な学者であったが、事故により他界している。学園にいる間はほとんど図書館で本を読んでいる。浮世離れた言動が目立つ。

伊吹風子
 メインヒロインの1人。主人公と同じ学園に通う1年生であるが、2年前に交通事故に逢って以来、意識が戻っておらず、ゲーム開始時点でも入院中。本人の霊体のようなものが学園内を徘徊しており、空き教室でヒトデ型の木彫りを彫っている。3年前まで、姉の公子が同学園の教師をしていた。

 この他にサブキャラクターとして、宮沢有紀寧(同学園2年生。資料室に篭っている)、藤林涼(杏の妹。主人公のクラスメイト)、春原陽平(主人公のクラスメイト。元サッカー部)、春原芽衣(春原の妹。中学2年生)、古川秋夫(渚の父。パン屋を経営)、古川早苗(渚の母。パン屋の手伝いと共に、家庭教師をしている)、相楽美佐枝(春原が暮らす寮の寮母)、柊勝平(町内を徘徊する少年)、芳野祐介(電気工事士)、伊吹公子(風子の姉)、幸村俊夫(同学園の教師。公子の恩師でもある)、岡崎直幸(主人公の父)が登場する。


ストーリーの流れ:

 『CLANNAD』のシナリオは大きく<学園編>と<AFTER STORY>の2つに分類される(ネーミングは私が勝手につけたものである)。

 <学園編>は、文字通り主人公が通う学園を舞台に、登場するヒロイン達との交流を深めていく(基本的には)典型的な学園物恋愛ゲームである。メインヒロイン5人を始め、様々なキャラクターとの交流が描かれる。
 <AFTER STORY>は、学園編で渚シナリオのHAPPYENDを迎えたその後の話であり、主に渚との同棲生活(ただし渚は更に一年留年しており、まだ学生である)、結婚、娘の出産と、渚が母親になる話が描かれる。なお、渚シナリオでの行動によりAFTERSTORYのシナリオが変化する。

 また、『CLANNAD』には、幻想世界という、『ONE』の「えいえんのせかい」に似たような世界が登場する。主人公は、夢の中でこの世界を垣間見るのだが、その世界には一人の少女が住んでいる。幻想世界での主人公は、ガラクタで作ったロボットとして存在しており、少女と共に幻想世界で暮らしている。各シナリオでの幸せが、光という形となって幻想世界に集まるらしい。最後にはその集まった光がある奇跡を引き起こす。
 ただし、私自身幻想世界については分からない事だらけの為、これ以上詳しく説明する事が出来ない。現実世界と幻想世界が並行して進む形を取っているという事はこの場で説明しておきたい。


ゲームシステム:

 今作ではシステムが一新されている。「オートモード」や「(使い易い)履歴モード」「一つ前の選択肢に戻る」など、今時のADVでは常識と言えるような機能は、一通り装備している。セーブデータが100個ある点も便利である。特筆すべき点は、今作はゲームを起動するのにディスクをセットする必要が無いと言う事だろう。無精者の自分にとって、いちいち入れ替えを行う手間を省けるのは実に有難い。


<雑感>

1. ゲーム性重視の姿勢
 各キャラクター(サブキャラ含め)を攻略完了する毎に、「光の玉」を手に入れる。これを合計8つ(正確には1つ消えてしまうので7つ)集める事により、AFTERシナリオに進む事が出来る。しかし中には、単純に攻略するだけでなく、その後で別のキャラクターのシナリオを進めて行く途中で取得するケースもあり、全部を集めるには一筋縄では行かない。また、他のキャラとの同時攻略を要するキャラや、ある特定のキャラクターを先に攻略しないと攻略出来ない(光の玉が取得できない)キャラもいるなど、前2作に比べADVとしての難易度が格段に高くなっている。  また攻略という観点では意味は無いが、主人公の行動次第でシナリオの展開が微妙に変化したり、意外なキャラクターが関わってきたりなど、シーンのバリエーションが非常に多く、更には攻略するのに必要無い草野球シナリオや、シナリオの進め方でHIT数が変わる智代コンボ等、完全に遊び目的で作られたシナリオやシーンが見受けられる事からも、ADVとして出来る限りゲーム性を高めようとする姿勢が『CLANNAD』から伺える。
 これは、前作『AIR』での、「ゲーム性が低い」という非難の声に呼応した処置では無いかと思う(ただし、ゲーム性の低さが『AIR』の欠点だという意見には賛成出来ないが)。

2. 男性キャラクターの存在感
 大きく5人のシナリオがメインとしてある他、CG数等は少ないものの、サブキャラの多くに専用のストーリーがあり、それを含めると非常に多くのシナリオがあるのが特徴。更に、今作では立ち絵のある男性キャラが多く登場する上、それぞれの出番や見せ場も多く、彼らにも専用のシナリオが用意されている。更に今作で親子愛を描写する場合、母性だけが強調されてきたこれまでの作品と違い、父性がメインとして描写されている感がある。何にせよ、この手の作品には珍しく、男性キャラクターがかなり厚遇されているのは間違いない。
 男性キャラクターの中で一番気に入っているのが春原陽平である。全てのシナリオにサブキャラクターとしてそこそこ深く関わる上、出番も多く、彼自身も専用のシナリオを持つ。日常会話での笑いの部分の半分以上をこのキャラクターが担っていると言っても過言では無いと思う。KEYのゲームに何よりも笑いを求める私個人としては、春原は5人のメインヒロインに匹敵するほどの重要人物である。
 逆に同じく男性キャラであり主人公の・岡崎朋也であるが、彼は少々癖があるというか、感情移入の対象としては少し難があるかも知れない。一部のシナリオでは結構なヘタレぶりを発揮している。前作の主人公国崎往人のような人物ではなく、『君が望む永遠』の主人公・鳴海孝之のような人物を思い起こさせるようなキャラクターである(あそこまではひどくないが)。またこれは私の主観だが、岡崎朋也にとって春原陽平は親友であると言えるが、春原にとって朋也を親友と言えるかどうかは正直微妙である(春原の視点で朋也の行動を観察すれば、それが良く分かると思う)。

3. 担当ライターを越えたキャラクターの共演
 また、『CLANNAD』の大きな特徴として、メイン、サブキャラ同士のストーリー上での関わり(横繋がり)が非常に多い事が挙げられる。
 『KANON』にせよ『AIR』にせよ、一人のキャラクターのシナリオに入ると、その他のキャラクターはほとんど関わってこないのが普通であったが、『CLANNAD』では、一人のキャラクターのシナリオに入っても、その他のメインヒロインやサブキャラが密接に関わって来るものが多い。
 しかも、今作ではメインとして3人のシナリオライターがいるが、3人の間での連携がしっかりなされている。一ノ瀬ことみシナリオでは、ヒロインのことみは涼元氏、サブキャラとして深く関わる渚は麻枝氏、藤林姉妹は魁氏と、担当しているライターがばらばらなキャラクター達が一つのシナリオの中に納まっている。ことみシナリオ自体を執筆したのは涼元氏なのだろうが、渚、藤林姉妹をシナリオに登場させる上で、他の2人のライターとキャラクターについての認識合わせがしっかり行われており、これは『KANON』と比較した上で、極めて大きな進歩と言えるのではないだろうか?

※『KANON』では、久弥、麻枝両氏がシナリオを担当しているのだが、2人の担当するキャラクター同士がほとんど関わっていないだけでなく、それぞれのヒロインを同一作品上で登場させる上での設定上の整合性すら取られていないように思える(例えば『KANON』のあゆシナリオと、真琴シナリオで触れられている主人公の初恋の相手が違う点など)。

4. 非常に優れた文章力
 他社のADVと比べ、圧倒的に優れていると思えるのが文章力である。特に日常会話のやり取りは芸術的である。プレイ時間が極めて長いにも関わらず、プレイしていて中弛みする部分が無く、ユーザーを常に引き付ける所はさすがKEYである。比較するなら、TYPEMOONから発表された『Fate/Stay night』というゲームも、シナリオと演出が非常に優れている作品なのだが、テキストの完成度という意味では、説明部分が多すぎる上に冗長気味で、見ていて疲れを感じさせてしまう。また日常会話部分でも少し荒さが目立っており、KEYのゲームには及ばないという印象を持つ。繰り返しになるが、KEYゲームの最大の武器は文章力であると思う。


<終わりに>

 以上、『CLANNAD』をプレイして、自分の感じた事を述べて見たが、『CLANNAD』という作品について、上手く伝えられたか非常に不安である。
 『CLANNAD』は、1人でも多くのユーザーを楽しませようとしているような姿勢が見受けられる。サイトでの評価をざっと見ても、好意的な意見が多いように思えるのは、『AIR』のようにストーリーは美しいが、限られたユーザーしか受け入れないような閉鎖的な作品とは違い、様々なシナリオやキャラクターを用意し、多様なユーザーのニーズに応えている事が理由ではないだろうか。つまり『CLANNAD』は、『AIR』に比べると万人向けのゲームであると言える。本作から18禁要素を一切排除し、全年齢版1本でリリースしたのも、その一環だろうか(実を言うとこの部分には個人的に不満があるのだが・・・)?

 ゲームの概要など、説明不十分な点は多々あるかと思うので、是非他の『CLANNAD』レビューをご参照頂きたい。またプレイした事が無い方に対し、時間的、金銭的余裕があるのなら、是非一度プレイする事をお勧めしたい。作品としての完成度は文句無しだと思う。

※なお、(個人的に)今作に登場するメインヒロインの中で一押しなのは、「藤林杏」と「坂上智代」である。KEYゲームヒロインの定番とも言える「純真無垢なヒロイン」という枠にはまっていない、これまでにない大人びたタイプのヒロインで、中々新鮮味がある。

※肯定的な意見ばかりの為、疑われても仕方ないのかも知れないが、私はいわゆる「鍵っ子」ではない事はここで主張しておきたい。



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関連リンク

key(『CLANNAD』発売元)

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