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民営化の論点

注意

 本文章はSROM様から御投稿を頂いた『民営化の論点』という題名のショートコラムです。背景が薄い水色となっている部分(コラム本体)の著作権はSROM様にあります。予め、御了承下さい。


 最近の日本経済新聞の社説で、郵政民営化が良く取り上げられている。郵政三事業に限らず、新聞の論調は、民営化支持一色である。

 *なお、2004年9月27日に発足した第二次小泉内閣は、より郵政民営化実現を視野に入れた人事シフトになっているらしい。

 結構前の日本経済新聞の社説に、民営化に関して述べたものがあったのだが、かいつまんで言うと……

  競争原理の働かない、国に保護された企業(公共の会社)には、客(国民)が何を望んでいるのか分かっていない。
  民営化すればサービスが良くなり、経営効率化も進んで国民にも日本経済にもプラスになる。
  規制産業など無いに越した事は無い。民間企業の活力を利用する為に、あらゆる公益の事業を民間に開放すべきだ。


……と、民間に出来ることはどんどん民間にやらせろという内容だった。他の新聞は読んでいないのだが、大体どのマスコミも、民営化支持という立場を取っているようだ。

 民営化して、成功した事例もあるようなので(JRなど)、日本経済にプラスとなる面はあるのかも知れない。郵便貯金のATMと、銀行のATMの使い勝手一つを見ても、官と民のサービスの差は確かに歴然である(りそな銀行のATMでは、紙幣の両替や取引伝票作成の有無などを選ぶ事が出来る。実に使い勝手が良い)。

 しかし実際の所、公益の事業を民間に任せてよいのかは、もう少し慎重に考えるべきでは無いだろうか?

 小学校で習った知識をそのまま使うと、そもそも公益の事業というのはその名の通り、「公共性の高い事業」である。水道など、生活する上で基盤となる産業を、国が競争原理から隔離して、国民に安定したサービスを提供するのがその存在理由だとも聞いている。つまり公益の事業は、国から保護を受ける必要があるという判断から生まれているのであり、それを扱う会社の経営に無駄があろうが、きちんとした理由があって存在しているという事である。
 仮に公益の事業を民間企業に開放したとしても、公共性の高い事業であるということにかわりはない。例えば水道事業で、ある地域の収益が悪いからといって撤退する(水を止める)などと言う事は出来ない。全国民に滞りなくサービスを提供する義務がある。問題は、このような縛りのある中で、本当に民間企業が持ち前の活力を利用して経営効率化など行っていけるのかという事である。

 また、公共の会社と民間企業では、経営の基本的な目的が違う。
 民間企業の究極の目的は、自社の利益を確保することである。マスコミがうたう「客へのサービスを良くする」というのは、利益を得る為の一手段に過ぎない。悪く言えば、自分の事しか考えないのが民間企業である。自社の収益が悪いなどの理由で、事業から撤退したりするのがそのいい例で、実際にはそのサービスを必要とする客の都合などまったくお構いなしである事も多い。
 一方公益の事業に従事する会社など──公益事業体は、安定したサービスを客に提供することを目的としている。収益が悪くなるような時でも、サービスを滞りなく供給させる事を優先する。マスコミは、経営状態だけで公共の会社を批判しているようだが、「客への安定したサービスの提供」という意味では十分によくやっているのではないか。民間企業は、自社の利益を多少棒に振ってでも社会的責任を優先させる程の高いモラルを持ち合わせていない限り、公益の事業など扱えないように思える。

 民間企業の悪口ばかり書いているように見られても仕方ないが、別に民間企業の在り方を否定するつもりは無い。国の後ろ盾が無く、競争に勝たなければ生き残れないのだから、自社の利益をひたすら追求し続けるのも仕方無い事である。ただだからこそ、民間企業が携わってはいけない産業も厳然としてある事を言いたいのである。

 そもそも日経新聞は、自社の社説で民営化を扱う時に、ひたすら「経営効率化」「経済へのプラス効果」をうたうだけで、その公益の事業が、何故「公共性の高い事業」であると判断されているのかという事については全く触れていない。民営化支持の論調を展開するのなら、まずはその公益の事業に民間企業が携わっても問題が無い(サービスの供給面で安全)という根拠を示した上でなければ、その後の議論など意味を持たない。順番が違うような気がするのだが・・・。
 *まあ日本「経済新聞」なので、このあたりは仕方ないのかも知れないが。

 もちろん、道路公団等の杜撰な経営を放置しておけなどと言うつもりはない。何らかの手は打たなければならないのだろう。
 ただその改善策として、「民営化」が有効なのかは良く議論すべきだと思う。

 あまりにも取り留めの無い文章で申し訳ないので、結論として

民営化を議論する際には、経済効果やサービスの向上という面よりも、民間企業がその公益の事業の持つ社会的責任を負う事ができるのかを争点とすべきでは無いか?

と述べておきたい。


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