(前略)
全国一律サービスの維持論に象徴されるように「便利な今の仕組みを残すべきだ」という議論には落とし穴がある。
便利で身近な郵政事業はその裏で、官業ゆえの非効率を抱え、民間への資金の流れを阻み財政規律を働かなくさせるなど、
将来の国民負担を膨らます元凶である。
素朴な議論の形をとりながら、その実、自民党の政治家が特定郵便局長とその関係者の票に期待して、
また民主党の政治家が同党を支持する郵政公社職員の組合に配慮して民営化に反対するのは論外だ。
しかし、これらの政治家の議論に比べて一見、積極的な改革案に見える政府の基本方針も、
国民の利益にかなう真の改革案とは言い難い。
問題が多い基本方針の中でも、とりわけ懸念されるのは、
民営化会社の中核に位置する「窓口ネットワーク会社」が政治の要請に沿って郵便局網や職員を温存する役割を果たす点だ。
物販から各種サービスの提供まで幅広く扱う窓口会社は現常勤職員の6割超の「約18万人を擁し」(政府高官)、
郵便、貯金、保険3社の窓口業務や集金業務を受託するという。
もし3社が窓口会社を使わざるを得ない状態が続くと、3社は事業の手足を縛られ独立した経営ができない恐れが強まる。
そうなれば、貯金や保険の新会社は、今後とも実質的な国債引受機関にとどまり、経営効率の改善も期待できない。
政府が3分の1超の株式を保有する持ち株会社の完全子会社となる郵便と窓口会社には政府の関与が残る。
貯金と保険会社が持ち株会社から完全に独立するのかどうか基本方針ではなおあいまいだが、
もし持ち株会社の傘下からきれいに抜け出せなければ郵政3事業の一体経営が続くことになる。
実質的に郵政公社が窓口会社に変わるのにとどまらず、
これを民営化といって業務範囲の拡大を認めれば、官業の民業圧迫以外の何ものでもない。
民業圧迫は郵便小包でのコンビニエンスストアとの提携で現実の問題になっている。
形だけの民営化は国民の利益にならない。
真の改革のため政府は郵便局網や雇用の維持にこだわらず、完全民営化にかじを切り直すべきだ。
(2004年10月7日付日本経済新聞社『社説1 郵政民営化を真の改革にするために』より)
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