悲しい一夜
アメージュ・ラズリ
アメラは雨の中カサを差さずにトボトボ歩いていた。
昨日の夜の情事の断片がコマ送りに頭の中に叩きつけられる…。
ラスケートの部屋…。
自分に助けを求めているラスケート…。
それを踏みにじる自分…。
艶のある顔をするラスケート……。
涙を流すラスケート……。
アメラにはそれが耐えられなかった…。
総てはこの龍の原因だ……。
だけど、あの時……アメラ自信の意識は残っていた……。
(それなのに……それなのに………)
アメラは腕を組み体を震えさせた。
(友達の……寿命までも奪ってしまった……)
アメラの抵抗で死は免れた…が。
ラスケートの寿命は長くて10年…短くて3年になっていた…。
認めたくなかった……。
だが…認めなくてはならない……自分が……命を奪うものと…。
「………寒い…」
アメラは寒さに少し震えた。
兵舎に戻るべきだろう…だけど、戻る気にはなれなかった……。
(戻ったら……ラスケと顔を会わせる事になるから戻りたくないな…)
そう思いながらアメラはまた歩き始めた…。
・
・
・
そして、夜になった…。
だけどアメラは帰る気も無くただ浮浪者の様に歩き彷徨っていた…。
ドンッ!
「あ……」
男にぶつかった…。
「邪魔だ! 気をつけやがれッ!!」
そう言って男は人ごみに消えていった。
アメラはぶつかって倒れたまま立ち上がる気がしなかった…。
泥水が冷たかった……。
アメラの体をより冷たくした……。
クゥ〜〜
お腹の虫が小さく鳴った…。
(お腹……空いたな……)
そう思いながら横を見た……。
酒場があった……。
賑やかだった…。
(あそこに……行けば…皆が……いる…………だけど)
そう思いながらアメラは虚ろになっている目を閉じた…。
「ったく、セグの奴……なんか最近、蹴り入るのが多くないか……?」
そう呟きながらカオスが体を冷やす為に外に出た。
「はぁ、涼しい〜♪ ……お?」
酒場の丁度向いの所に何か黒い物体が落ちているのにカオスは気づいた。
「何だろ? も少し近くに…」
スタコラサッサ…
「ん〜、泥の塊かなぁ? …お…」
辺りは暗いので上手く分からなかったがカオスにはあるものを見つけた。
それは……微妙な膨らみだった…。
「ん〜、何だろこれ……」
フニョ…ムニュ……
「この柔らかい感触は…胸? て、行き倒れか!?」
そう言ってカオスは行き倒れ?を抱き上げて酒場に戻った。
「お〜い、行き倒れだ! 誰か手を貸して……って、アメラちゃん!? 何でこんな…」
カオスがアメラを抱えて酒場に入ると周りで酒を飲んだり話している将軍達がその場に駆け寄った。
泥水を吸って汚くなった服…。
紫になった唇…。
震える体…。
「お……おい……大丈夫なのかよ?」
側に寄って来た1人……ショウがカオスに聞いてきた。
「わかんないけど……ちょとヤバイかなぁ。エヴェリーナさん、お願いします」
そう言ってエヴェリーナにアメラを渡した。
「わかりました、体温は……非常に冷たい……誰かお風呂沸かしてください」
「分かったわ!」
そう言ってカーチャがお風呂場に突っ走っていった。
カコーン…ピチョン……
(……温かい…?)
体に温かさが甦る中アメラは目を覚ました。
「此処は……お風呂?」
目が覚めると人一人の入れるくらいの小さい風呂にアメラは入れられていた。
動く気力も無いのでアメラはこのまま、湯船に使っていた。
「大丈夫? アメラちゃん」
扉を開けてカーチャが入ってきた。
「………して…」
「え? よく聞こえないわ?」
「どうして……どうして助けたんですか!!」
アメラはやり場の無い怒りをカーチャに向けた。
「ど…どうしたのよ……?何時ものアメラちゃんらしくないわよ?」
(何時もの……?何時ものって……何も分からないくせに……分かってくれる気も無いくせに…)
そう思いながらアメラは湯船から出た。
「それに、助けたのはアタシじゃなくてカオスくんよ」
カオスの一言を聞いてアメラの胸は少し痛かった。
「服は泥だらけだったから女将さんに洗ってもらっているから……これでも着てて」
そう言ってカーチャは大き目の浴衣を渡した。
「………分かりました…」
「じゃあ、アタシは皆のところで待ってるわね」
そう言ってカーチャは部屋を出た。
……シュル…シュルシュル…
上手く着る気がせずアメラは前を肌蹴させた格好で扉を開けた。
……ガチャ…
「あ、アメラちゃん。ダイジョブ……って、なんてカッコしてんすかー!?煤i ̄□ ̄; 」
カオスが真っ赤になりながらアメラの服を少しきれいにした。
「………ありがと…」
「何言ってるんです。オレたち、仲間じゃないですか…」
カオスは笑いながらそう言った。
「仲間……そうですよね………」
アメラは何故か悲しそうに呟く様に言った。
「ぬ・・・どしたんすか? 元気ないですねぇ……そーいや何時もの様にロンとか飛んでこないし…」
その直後アメラは凍りついた……。
「ロ……ン………あ……あ…あ………」
昨日の情事を思い出し始めてしまった……。
ピシッ……!
割れる……何が?
ピシピシッ……!!
本当の自分を隠すために被った心の仮面が……。
ピシッ……パリンッ!!
「あ………あ……あ……イヤ……あたしは……あたしは…っ!!」
皆が心配そうにアメラを見た…。
「い……いや…見ないで……見ないで!!」
(皆があたしを見つめている……蔑む様に…殺人者を見るように……)
自分を精神的に追い詰めたアメラには既に周りは見えてなくしまっていた。
「っと…どしたんすか、一体?」
カオスは驚いた顔でアメラの肩に触れようとした。
「…いや…来ないで……触らないで!!」
パシッ!……バタン!
アメラはカオスの手を払いのけて2階に上がっていった。
「ふぅ……ホントどうしちゃったんだろ」
カオスは不思議そうにそれを見送った。
ポンポン…
「は? 何…て、ぐはぁ!?」
ドガスッバキスッ!ボコス!!
「い、いきなり何を……」
「「「この変態!!」」」
全員が声をそろえてカオスに向かって叫んだ。
「って…なぁんでイキナリ変態呼ばわりされにゃならんのですかっ!?」
「え?だってお前、アメラちゃんの胸を掴んでたじゃないか」
と、セグトラが…。
「アタシには襲って服を肌蹴させたのを見たわ」
と、カーチャが…。
「毎度の事ながら今回は完璧に怒ったな…」
と、ゲイルが…。
「懲りないな…」
と、ショウが…。
「女性を泣かすのは最低ですよ…カオスくん」
と、エヴェリーナが…。
「だからちがーーーーう!! と…それより今日のアメラちゃん、何かおかしくないですか?」
「……そういえば…何か思いつめたような顔だったな…」
ショウが言った。
「ですよね…一体どうしたんすかねぇ……」
カオスが言った。
「「「なら……」」」
「へ……?」
「「「とっとと、連れ戻して来い!!」」」
全員がまた声をそろえた。
「な…何でオレが〜?!」
と、言いつつもカオスは2階に上がっていった。
2階の個室にアメラはうずくまる様に隅に座っていた。
「いや……誰も…あたしも信じたくない……それに会いたくない……」
アメラは殆ど訳の分からないことを呟いていた。
「死にたい……」
アメラは呟いた…。
(死んだら……この苦しみから解き放たれるのかな……)
何時ものアメラならこんな考えは思いつかなかっただろう…。
だが、もう時間は無かった……。
(うん……解き放たれるよ…)
そう自分に言い聞かせながら鏡を割った。
パリンッ!!
アメラは割れて散らばった鏡の破片の大きいものを手に取った。
そして…もう一方の手首に押し付けた。
ピッ………プッ……
少し切ると小さい血の珠が出てきた…。
(もっと……深く…)
そう思いながらもっと深く押した。
プッ……プシャーーーーー!!
アメラの手首から紅くて……熱い…血が噴出した…。
(綺麗……)
飛び散る血をアメラは見ていた…。
コンコン……ガチャ…
誰かがドアを叩いた…そして入ってきた。
「あの〜、アメラちゃん? ちょと話が……って、アメラちゃん! 何を…?!」
アメラは首だけを動かしてカオスを見た。
「あ〜……カオスくんだぁ……ねぇ? 綺麗でしょ〜?…」
そう言いながらアメラは自分の血で濡らしている床に倒れた。
カオスが誰かを呼びに行ったのを見ながらアメラは目を閉じた…。
続
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