切れた友情…

アメージュ・ラズリ

「今日も…見つからない…ラスケ……」
アメラは自分の部屋の机でラスケートの発見の知らせを待っていた。
アメラはあの時の事を思い出していた…。

前方の兵が帝国の兵に次々と殺されていった…。
まさに前方の状態は地獄絵図そのものだった……。
アメラにはもう分かってしまった。
この戦いは自分たちが負けるという事を…。
だけど逃げれない…アメラにも将軍という意地があるのだ。
(逃げられない……何がなんとしてでも…でも……)
どうすればいいか悩んでいる隣でラスケートはアメラに話しかけた。
「将軍…逃げてください……」
「ラ…ラスケ……今なんて…?」
ラスケートの今の言葉がアメラには信じられなかった。
「将軍……お願いですから逃げてください…」
ラスケートはもう一度同じ事を言った。
「駄目…駄目だよ……逃げたら…あたしが逃げたら他の兵士達が…」
「兵達は私が何とか致します…だから…逃げて……アメラ」
ラスケートは副将としてではなく友として頼んだ…。
(でも…でも……でも………)
アメラは悩み続けた……。
「「「「オオオオォォォォォォオオオオーーーっ!!!!!」」」」
敵が兵が段々と怒涛の勢いで襲ってきた。
「まだ、気づかれていません…速く…速くっ!!」
ラスケートはアメラの乗っていた馬の尻を杖で叩いた。
馬はけたたましく吠えてアメラを乗せて走り去った。
「……絶対っ! 絶対帰ってきますから!! 約束しますっ!!!」
ラスケートは走り去るアメラに向けて叫んだ。


そして3日経ったがラスケートは帰ってこなかった…。

(ん……あれ…? 寝てたの…?)
どうやらアメラは思い出そうとして眠っていたらしい…。
眠くなるのも当たり前だ…あの日から一睡もする気が無いのだから。
「ふぁ……手紙?」
アメラの机の上には手紙が一通届けられていた。
アメラは手紙を開いた。

ラスケートフクショウハッケンサレタシ ゲンザイマチハズレノビョウインニスグコラレタシ。

「ラスケが…見つかった!!」
アメラはとても嬉しい気持ちで一杯になった。
(生きていた…生きていたんだ……ラスケ…)
アメラは直ぐにラスケのいる病院に向かおうと部屋を出た。
ラスケートに会いたい…!
その気持ちが心を殆ど占めていたのでアメラは走った。
詰め所を抜け…。
街中を抜けようとした…がアメラの目に真っ赤な薔薇が見えた。
(そうだっ♪…ラスケちゃんにお見舞いの華として持っていこう)
そう思いアメラは店先の薔薇を花束で買った。
まるで本当に鮮血のような色をした真っ赤な薔薇だった。

アメラは病院の前に着いた。
その場所は病院というよりもまるで何かを繋ぎ止めるような収容所だった。
「本当に……ここにラスケが…?」
アメラは心配になった。
(と…取り合えず入ろう……)
そう思いながらアメラは入っていった…。
中は殆ど廃墟に近いような場所であった。
今にも崩れそうな板…。
少しコケのついた壁……。
人気の無い埃だらけの入り口……。
不安になりながらもアメラは奥へと進んでいった。
ギシッ…ギシッ……と床は軋みをあげた…。
ラスケートの場所を知らないアメラは一つ一つ部屋を覗いた。
殆どの部屋では人が呻きを発しているものや暴れているものばかりであった。
(ラスケちゃん…どうなっちゃったの……一体…)
アメラはまだ会えないラスケートにどうしようもない不安を感じずにはいられなかった…。
そして遂に最後の部屋に着いた。
アメラは恐る恐る中を見た…。
木のベッドがあった…。
その上にラスケートがいた。
アメラはラスケートの姿を確認して直ぐに入った。
「ラスケッ!!」
アメラは早足でラスケートの横まで行った。
「ラスケ…無事だったんだね…ラスケ……?」
アメラは少し浮かれていた為にラスケートの最初の異変に気づかなかった…。
だが、近くに来て、近くで見ればよく分かった……。
アメラが羨ましがっていた長い髪が……。
アメラが褒めていた綺麗な白い肌が……。
アメラを何時も見ていた綺麗な瞳が……。
総て変わっていた……。
長かった髪は……短くなっており…。
白い肌の所々には…痣がつけられており…。
瞳に宿っていた光はもうなくなっていた……。
「う…そ…ね…ねえ…ラスケ……返事…してよ……アメラって呼んでよ…」
アメラはまだ信じられなかった……。
「そうだ…お見舞いに何ももってこなかったって思って怒ってるだけでしょ……?」
そういいながらアメラは手に持っていた花束を出した…。
「ほら…お華を持ってきてるんだよ……何か…何か言ってよ……ねえ…?」
アメラは華をラスケのひざに乗せて肩を揺すった。
「ねえ…あっ……華が…ゴメンねラスケ…直ぐに取るからね…」
揺すっている振動で華が床に落ちた。
辺りに散った花弁はまるで血飛沫のようだった…。
それを見ているのか見ていないのか分からないラスケートにも変化があった…。
「う……あ…ぅ……あ…あぁ……」
「ラスケ…? ねえ…しっかりしてよ」
びっくりしたアメラはラスケに触れようとした……が。
「い…いやっ!! 来ないで……来ないで…!! 助けて……助けてよ…
アメラ…アメラ…アメラアメラアメラアメラアメラアメラアメラアメラアメラアメラアメラアメラ…
うぁ…うぁあ……ああぁぁぁぁぁぁぁああああああーーーーーーーっ!!!!!!!」
ラスケは叫んだ後、狂ったように叫び始めた…。
「こんなの……こんなのラスケじゃない……」
アメラはこの狂ったような場所から直ぐに離れたい…。
その気持ちが心を占領した。
そしてアメラは……逃げた…。

翌日、アメラは捜索隊に聞いた…。
発見されたときのラスケートの状態を…。
血まみれで性的暴行を大きく与えられたということを…。
そして周りには大量の兵士の死体と噎せ返るくらいの精液の臭い…大量の死臭…。
そんな状態の中ラスケートはずっと居た……。
そう聞かされたアメラは後悔した…。
何故自分があの時、戻らなかったのか…そうすればラスケートを助けることが出来たかもしれないのに……。
そして噂も聞いた…。
ラスケートの両親がラスケートを勘当した…という噂を……。

アメラは独り部屋に閉じ篭っていた…。
(あたしが壊したんだ……ラスケの未来を…総てを……あたしが…あたしが……壊したんだ…あたしじゃなくてラスケが…
あたしの変わりに……あたしがなればよかったのに…あたしが壊れればよかったのに……あたしが…壊れれば……
ラスケが…壊れなかったのに……壊したんだ…あたしが…あたしが…あたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしが
あたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしが
あたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしが
あたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしがあたしが……壊したんだ…)

アメラはラスケの前に立っていた……。
「ラスケ…あたし……これから一生貴女の世話をするね……だって…これが今のあたしに出来る…罪滅ぼしだから…」

(2002.11.30)


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