すれ違い<前編>

ベルンハルト・フォン・ルーデル

レヴァイア私兵軍との戦闘が小康状態を迎え、軽く一息ついたルーデルに伝令兵が駆け寄る。
「閣下……。大変です……!」
指示を出す手を止め、ルーデルは軽く頷いて続きを促した。
「それが……白峰将軍が……投降した敵軍の捕虜を、片端から斬っています。」
伝令兵の言葉が終わるか終わらぬかのうちに、ルーデルは駆け出していた。

カルカシアの街に程近い草原。
無くなった首から血飛沫を上げながら、また一つ死体が転がる。
「…君達がルーデル君を斬る前に、コロしてあげるよ……」
そう呟いたナギサの手に握られた刀は、既に大量の血を吸って赤く染まっていた。
「恨むなら恨みなよ。私をあの世から呪い殺せばいいさ。」
続いて引き出された兵にそう呟きながら、ナギサは刀を振り上げる。
その手首が横から伸びた手によって掴まれたのは、まさに刀が振り下ろされようとした瞬間だった。
「ルーデル君……?」
困惑するナギサに、ルーデルはもうよせ…と言わんばかりに首を振った。
静かに。しかし瞳には悲しげな色を湛えて。
「なんで……?」
ナギサの手から刀が落ち、鈍い音を立てて地面に転がった。
その目から涙が零れ落ちる。
「なんで、止めるのさ……?」
「なんで、喜ばないのさ……?」
「私を…否定するの…?」
「う…あぁあぁあっっ!」
そのまま泣きながら走り去るナギサを、ルーデルは止めることが出来なかった。
折悪しく、前線から伝令が届く。
「レヴァイア私兵軍、前方に展開中…! 閣下、ご指示を…!」
軽く舌打ちし、ルーデルは愛馬に飛び乗って前線に駆け戻る。
この戦闘が終われば、ゆっくり話をする機会はあるはずだった。
だから、今ナギサの事を考えるべきではない。
戦場では、迷いのある者から死んでいくのだから。
軽く頭を振って、ルーデルはナギサのことを頭から締め出した。
……否、そのつもりだった。

……ナギサのもとに、ルーデル直属の第三騎士団がレヴァイア私兵軍と相打ちの形で全滅し、ルーデルが重傷を負ったという報告が入ったのは、その数日後のことである。

(2002.10.27)


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