Blood lust
ベルンハルト・フォン・ルーデル
………血が、騒ぐ。
帝都の病室から空に浮かぶ月を見上げ、男は心の中でそう呟いた。
室内に入り込んだ月光が、サイドテーブルに置かれたボトルと、
その横に置かれたグラスを照らし出す。
男は何も言わずにグラスを傾け、戦場に思いを馳せた。
レヴァイア私兵軍との戦いで受けた傷も半ばは癒え、現在は日常
生活にさほどの支障は無い。
戦場へ帰る日も、そう遠いことではないだろう。
彼の愛する女性は、遠く離れた戦場で戦っているはずだった。
だが、今男の心を占めるのは別の戦場。そして別の人物。
キロール・シャルンホスト。
並ぶ者なき、共和国最高の勇将。
その人物が、男の心を捉えて放さない。
以前から、噂は聞いていた。
『帝国の宿将』モリス・D・カーライルと激戦を展開し、『若き
軍師』ユーディス・ロンドと死闘を演じ、そして今、モンレッド
で帝国軍の侵攻を防ぎ止める、共和国の壁。
その男と、心ゆくまで戦いたい。
勝利も、敗北も、生や死すらも気にせずに。
約束も、忠誠も、愛すべき恋人すらも、全て心から追い出して。
………我ながら、救いがたいな………。
そう思い、男は僅かに微笑した。
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