ファイブ・ストリートの怪人

カーチャ・ボルジア

中秋の名月が共和国の夜空を飾った頃、首都ガイ・アヴェリのファイブ・ストリート
には甲高い女の悲鳴が上がっていた。
叫び声はダクス川にかかるストリ−トの橋付近から聞こえてきている。
おお! 見よ! 全裸のうら若き乙女がストリートから走り去って行こうとして
いるではないか。
その後ろでは修行僧らしき服装をした大柄な男が名月に照らされて笑い声
を立てていた。
「これで998人目。大願成就まで残りは二人。アラーも菩薩も我に力を貸しておるぞ。」

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「ゴーヤ飴事件」で兵士の殆どを失ったカーチャ部隊は首都への一時撤退を
余儀なくされていた。カーチャはラヴェリアの元へ戦況報告に出かけていき、
お叱りを受けていたために、兵士の再調達はアメリアがレディスの元へ赴いて
行わなくてはいけなかった。レディスからも苦言を宿されたアメリアではあるが、
飴を仕入れたのはカーチャである。アメリアには苦言以上のお咎めはなく、
部隊編成の交渉は無事に進み、その後はシリスも含めて会食となった。
アメリアは今は前線で戦っているとはいえ、本来は評議議員の一員である。
評議会の仲間との食事である。盛り上がらないはずはなく、アメリアが帰路に
着いたのは、もう月が南中しようという時間であった。さすがに一人で帰宅させ
ることに不安を感じたレディスは公邸に宿泊することを勧めたが、部隊を一晩
空にすることに躊躇いを感じたアメリアは帰営することにした。戦時下とはいえ、
首都の治安が乱れてはいない。決して戦闘能力の高いアメリアではなかったが、
自国の首都にいることが彼女を安心させていた。

評議会公邸から第8部隊屯営地までは馬で1時間程度である。メインストリート
からファイブ・ストリートへ折れてダクス川を渡り、更に北西の山へ向かう道へ
入れば辿り着ける。夜半過ぎには屯営に着こうと馬を早歩きさせながら、ダクス
川を渡り終わった時である。ふいに馬が嘶き、バッタリと倒れた。
慌てて馬から飛び降りるアメリア。危うく馬に押し潰される所であった。
見ると愛馬の右脚が切り取られて皮一枚でつながっているだけでないか。
戦場でも、馬がこれほどの傷を追うことは殆ど無い。いったい何が?
状況をすぐには出来ないままにアメリアは周囲を見廻した。よく見れば橋の
たもとに身長2mはある大男が立ち尽くしているのに気が付いた。
気配は全く無かった。故意に気配を消してたのだとすればかなりの武芸者で
ある。灰色の法衣を頭から被っている様子はどうやら都の修道院にいる修行僧
のようであった。しかし、背中に大きな籠を背負い、武器らしきものを何本も刺し
ているのが僧にしては不自然である。右手には巨大な薙刀を構えている。
どうやらこの得物でアメリアの馬を切り裂いたらしい。

いったい、この男は誰?
アメリアが思うまもなく、武器を刺叉に持ち替えた男に身体を地面に押さえつけら
れた。胸を締め付けられては逃げることも出来ない。
「お前は何者? アタシを共和国評議委員のアメリアと知っての狼藉なの?」
「はっはっは。評議会の委員様とはな。俺の修行に持って来いの相手を天は授け
てくれたようだ。」
「修行?」
「我が名はフライアー・ベンケー。ドラゴン修道院の僧兵なり。今は修行の身だがな。」
「修行僧なら、このような愚行を慎むが良い。評議委員相手に蛮行は許されんぞ。」
だが、アメリアには分かっていた。共和国では政府と寺院は独立した行政を行って
いる。カトリックにおける寺院の力には、如何に評議委員でも内政に口を出すことは
出来ないのである。更にドラゴン修道院は東洋やイスラムの考えまでも取り入れよ
うとしているこの国の寺院では異色の存在であった。独自の軍隊を寺院の中に持つ
宗教騎士団は共和国正規軍ですら脅威の存在であり、評議委員の力すらも通用しな
い世界なのである。

「ドラゴンではな、一人前の僧兵になった証を自ら申告し、証拠を届けぬ限りは出世は
出来ぬのだ。俺もそのための修行中だ。お主は999人目の修行相手ということだな。」
「つまり、1000人の者と決闘して勝ちを得るという事か?」
何故か、ベンケーは哄笑した。
「何が可笑しい?」
「俺のはもっと趣味に走っている。俺の修行は1000人の乙女から下着を剥ぎ取ることだ。」
答えを聞いた途端にアメリアの顔色が変わった。
「それは犯すということだな?」
「場合によってはな。夕刻の娘は服を剥ぎ取ってから下着を奪い、ついでに味見をさせて
もらった。だが、アンタのような上物には更に屈辱を味わってもらう。俺の修行のためにもな。」

こうなっては、地面に横たわっている訳にもいかない。自由な左手で腰の短剣を抜き取る
とベンケーめがけて投げつけた。
ベンケーは楽々と短剣をかわす。これは計算の内である。刺叉からベンケーの手が離れ
たのを見て取ると、その隙に呪縛から逃れて立ち上がった。決して戦闘能力が高いとは
いえないアメリアである。踵を返して、この場は逃げることにした。
まさに走り出した時である。ベンケーが差し出した棒が背中に当たった。決して強い当た
りではない。随分と弱い攻撃だと思った刹那である。アメリアは胸元が楽になったのを感じた。
「えっ! ブラが・・・」
「ブラジャーがきついと健康に悪いぞ。お前のためにホックを外してやった。」
先ほどの棒は正確にブラジャーのホックを横に動かして、二つのホックを同時に外していた
のである。タートルネックの半袖シャツの上にノースリーブの上着を着ているので、決して
ブラのラインは外観からは分からない。にもかかわらず一撃でホックを外されるとは信じる
事が出来なかった。
ふと気が付けば、右手を丸い輪が先端に付けてある武器で絡め取られて逃げれなくなっていた。
「ふっふっふ。ここからが本番だ。」
単に右手に金属の輪が架けられているだけでる。身体を左に捻れば抜け出せる。
そう思って半身を捻ったところで、小型の鳶口がシャツの袖から入り込んできた。
「な、何!?」
腕を斬られると思い、右手を輪と鳶口から引き抜こうとした時である。肘からオレンジのスト
リップが抜けるのが見えた。
「えっえ・・・」
アメリアはこの日は3/4ワイヤーブラをしていた。フルサイズよりは肩紐は長い。とは言っても、
着衣の上から片側のストリップが引き抜かれるとは思ってもいなかった。
「俺は下着は破ることなく集めることにしているんだ。肩紐を切って剥ぎ取ったりするのは邪道
なんでな。乙女に対しては立派なエチケットだろう。」
「下着を剥ぐのにエチケットなんてあるか!」
気丈夫に言い返しては見るが、シャツの袖からブラジャーがはみ出しているのは恥ずかしかった。
上着の下に隠そうとして隙を見せた所に、今度は投げ縄が飛んできてアメリアの首を締め付けた。
このままでは危ない。両手を縄を掴んで呼吸を止められないようにしようとする。
両腕を上げたために、脇が甘くなった。
この機をベンケーが見逃す筈が無い。
先ほどの鳶口が差し出されると、シャツの左袖の差し入れられた。あっと思って、腕を縄から外
したのが悪かった。左のストリップを絡めた鳶口はアメリアの左袖からブラジャーを丸ごと抜き
取っていた。涼しさを感じた胸元を両手で抑えつつ、羞恥心で真っ赤になってベンケーを睨み
付ける。その前にはオレンジ色の刺繍が入ったアメリアのブラジャーを脱ぎしめたベンケーが
勝ち誇った顔で立ち尽くしていた。
「さすがに評議委員様は良い物をお召しになっておられる。ワイヤー入りで3/4カップ。これなら形
も良くなるだろう。そう言えばさっきよりも、バストが小さくなったんじゃないか。」
「お、おのれ。返せ!」
「まだ下があるのを忘れているじゃないか。」
「えっえ!」

とても勝ち目がない相手であった。だが、首には縄がかけられていて逃げ出せない。
なんとしてもショーツだけは守りたかった。
右手で縄を掴みながら左手でスカートを抑えた。脚には赤い網目のストッキングを付けて、
それを水色のサテンリボンレッグハンガーで吊っている。ガーターを外されない限りは
ショーツは取られない。
そんなアメリアの想いは簡単に打ち破られた。
ベンケーはブラジャーのホックを外した棒でレッグハンガーのクリップを狙って攻めてきた。
アメリアもストッキングを止めているクリップを外されないように、左手で防戦した。
だが、ベンケーの棒術を防ぐには左手しか使うことが出来ない。
右手を縄から離せば、容赦なく縄が首を締めて来る。この状態ではガーターを棒から守り
切ることが出来るはずがなかった。何合かの攻撃に合う間にまず、右のクリップが、続い
て左のクリップがストッキングから抜き取られていた。後にはレッグハンガーがブラリとぶら
下がっているだけである。
なんとか、ストッキングを元に戻そうと身を屈める瞬間を見計らうようにして、今度は鳶口
がタートルネックの首元に架けられた。襟が大きく開かれる。胸元が丸見えになった。
「着痩せするタイプのようだな。意外と大きな乳房じゃねえか。」
「えっ!」
ピンク色の乳首までが顕にされたのに気が付いて慌ててアメリアは身体を起こした。
今度は鳶口がスカートを捲ろうとする。鳶口から逃れようと身を捻るアメリア。
次は脇の下に隙が出来る。左の袖から鳶口が入り込み、乳首が撫でられた。
上半身を捻って脇の下から鳶口を外せば、今度はスカートが狙われた。
必死でもがくアメリアだが、首に縄が巻きついている以上はベンケーの間合いから逃れ
られないままである。

ベンケーは単にアメリアを嬲っていただけではない。こうしてアメリアがもがく間にストッ
キングがずり下がっていたのである。もう、脹脛までストッキングは落ちていた。レッグ
ハンガーに付け直す事は何時の間にか出来なくされていたのである。
これで、アメリアの秘所を守る物はショーツのみになった。
なんとか、首縄が外れれば・・・ アメリアがそう思っていた矢先にベンケーの力が抜けて、
首が楽になったのに気が付いた。
今なら逃げられる。そう判断すると咄嗟に首輪を緩めて、縄を首から抜き取った。
これはベンケーの罠である。右手が縄を投げ捨てる瞬間を狙って、またも金属製の輪を
アメリアの腕に通してきた。これを抜こうと、身体をアメリアが捻る。
これでアメリアはベンケーに右半身を向けて横を向く体勢になった。
これをベンケーは狙っていたのである。即座に金属輪から鳶口に武器を持ち替えると、
アメリアのスカートの中にすり入れて、ショーツの右の紐を引っ掛けた。
あっと思う間もなく、今度は棒で両膝の裏に足払いをかけられた。
両足が揃った状態である。簡単に足をすくわれてアメリアの腰が砕ける。
右足が大地から離れるのと同時に鳶口がショーツを引き下げた。
ブーツが宙を飛ぶ。尻餅を付いた時には、右足からショーツは引き摺り下ろされていた。
オレンジ色でブラジャーと同じ柄の紐タイプのショーツは左足の踵に残っているだけである。
ブーツは両足とも、尻餅を着いた際に脱げていた。勿論、ベンケーはそこまで計算して
鳶口を操作している。

もうアメリアを守る下着は踵に残るショーツのみである。
しかもミニスカートを穿いているために、スカートを抑えなければ秘所が見えてしまう。
アメリアにとってはショーツよりも秘所の方が大事であった。
恥ずかしさを堪えながら、気丈にもベンケーを睨む。両手では、スカートを抑えているが、
もうショーツは無防備であった。
ベンケーはゆっくりと鳶口でショーツを巻き上げると、左足から戦利品を抜き取った。
まだ、温かみに残るショーツの匂いを嗅いでみせるベンケー。
アメリアはこの屈辱に耐える事が出来ず、目を逸らした。
「評議員様がノーパンノーブラで街を出歩いてもいいのかい。」
自分で剥ぎ取ったことを棚に上げて、アメリアを侮辱する言葉を放つベンケーである。
「へっへっへ。いい香りがしやがるぜ。この修行は勝利の醍醐味が忘れられない。
止められないぜ。」
こうねると修行なのか、趣味なのか、不明である。
「これで999人の下着セットが揃ったな。しかし、ラストワンにしてはあっけなさ過ぎた。
最後は戦い甲斐のある相手がいい。これでアンタを嬲るのを終わりにしてもいいんだが、
せっかくのエリート様だ。アンタには次の相手を誘き出す囮になってもらうぜ。」
はっと目を剥くアメリアであった。

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ダクス川の辺の松の木に後ろ手に縛られているアメリアが、捜索に出向いた親衛隊によっ
て発見されたのは朝方であった。ブラジャーは付けておらず、シャツが捲し上げられていた。
二つの可愛らしい乳房が衆人の目に丸出しにされたまま、アメリアは一晩を過ごしたので
ある。乳房に999の数字が朱書きされたいたのはベンケーの勝利宣言であろう。
本人は身体が冷えた程度で命に別状はなかったが、何があったかには親衛隊には多くを
語ろうとしない。親衛隊も上官がこのような姿で見せしめになっていたことが広まれば
指揮に影響するだろうと判断し、この件については口を閉ざすことにした。
そして1000人目を狙うベンケーの存在は共和国上層部のみに知られることになったのである。
いったい誰が最後に下着を奪われるのか? それともベンケーは最後に敗れるのか?
物語は更に続くのであった。
ちなみにアメリアはパンティーも付けていなかったが、貞操を奪われてはいなかった。
どうやら、ベンケーは下着のみに執着して、それ以上は求めない性癖の持ち主であるらしい。


作者注:中世ではまだブラジャーは発明されていないのですが、
コルセットでは色気がない上に脱がせるのが難しいので、ブラを登場させました。
ご理解下さい。


(2002.09.22)


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