密月(前編)
カオス・コントン
その日、オレ――カオス・コントンは素晴らしく上機嫌だった。ようやく何かとウルサイ病院暮らしを抜け出せたというのもあるけど、それ以上に……
「快気祝いか…エヴェリーナさん家に行くのも久しぶりだなぁ」
そう、今日は退院祝いをしようとエヴェリーナの自宅に呼ばれているのだ。
それも入院中のお見舞いのような仕事の合間に慌しく会っていたのとは違う――まぁ、それはそれでかなり嬉しかったけど――ともかくモンレッドに出陣して以来、およそ半年ぶりに二人きりでゆっくりと過ごせるのだ。もう朝からその事で頭がいっぱいで、考えるたびに胸が熱くなってくる。
「と……いかんいかん。もちょっとピシッとしないと…」
知らぬ間にニヤけそうになる顔をピシャピシャと軽く叩いて引き締め、呼び鈴を鳴らす。
ややあって、扉が内側から開かれた。
「カオスさん…いらっしゃい。お待ちしてましたよ」
「エヴェリーナさ〜ん♪ こばん……て、ぷぅッ!?」
いつもの如く、顔を覗かせたエヴェリーナさんを抱きしめ……ようとして、思わず仰け反る。
ひらひらと舞う飾り布、動くたびにシャラシャラと鳴子の快い音が耳を打つ。
んがっ、それより何より目を引くのが、普段の水着ルックよりさらに過激なビキニ状の胸当て。そしてそれと対になった申し訳程度に大事な部分を覆う腰当てに、完全に目を釘付けにされる。
「あら……うふふ♪ そういう反応があると、こちらも準備した甲斐がありますね〜」
「そりはどーも…( ̄▽ ̄; けど何でまた踊り子の服なんて?」
「いえ、衣装箱を探っていたら出てきまして…快気祝いですし、少し派手なのもいいかと思って」
そうだった……なんでも大学のサークルでマジックをやってたらしいけど、そこの部長が変なシュミでやたら衣装持ちだったとか何とか…。まぁそれをしっかり保管してるエヴェリーナさんもエヴェリーナさんだけど。
「………カオスさん?」
「はいッ!? な、なんでしょ〜(^^;」
「この衣装…気に入りませんでした? いつも通りの方が良かったかしら…」
「あっ、いや、トンでもない。 とってもよくお似合いですよ〜。
もう似合いすぎてて目のやり場に困るくらい……ハッハッハ(^▽^; 」
「ありがとうございます〜♪ と…いつまでも玄関口で話すのも何ですし、取りあえず上がってください。すぐにお食事にしますからね」
改めてオレを家の中に迎え入れると、華やかな笑顔を残しエヴェリーナさんは台所へ消えていく。 取りあえず変なこと考えてたのはバレなかったかな…。
にしても少しの間とはいえ、あのカッコのエヴェリーナさんを前に過ごすのかぁ………耐えられるのか、オレ(大汗)
そして答えはすぐに出た。 ムリ!てゆーか、生きヂゴクだッ!!
いやまぁエヴェリーナさんの手料理は本当に嬉しかったしおいしかったし幸せいっぱいだった。
食事の後に紅茶をもらいながらお互いの周りであった事なんかを話している時も、今まで会えなかった時間を補い合い埋めてゆくような充足感に包まれて心が安らいだ。
(このままゆったりと過ごすのも悪くないなぁ…)
そんな考えさえ浮かんでくるような、それくらい穏やかで幸せな時間だった。
BUT! しかしッ! あの衣装がッ……普段なら手放しで喜ぶだけの際どい衣装が、今はどんな拷問より強烈にオレの心を責め立てる。 チラチラ覗くまぶしい太股、布一枚で際どく隠された豊満な胸、真っ白なうなじ、くびれたウエストにキュッとしまった足首…etc,etc。
これだけのゴチソウ前に落ちつけって方がどうかしてるだろ!?
とーぜん答えはYES! て訳でさっきから何度も誘おうとしているものの、その度にグッタイミングで話が逸れたり紅茶のお代わりもらったり……てか、ゼッタイ狙ってやってるなコレ。 今もこそっと含み笑いなんかしてるし(−−#
「……しかし、ここであからさまに『したい』ってーのも何かしてやられた感じとゆーか、悔しいとゆーか…【ブツブツ】」
「そんなにガマンできませんか?」
「そりゃあもう、あのエッチな身体であんなカッコされた日にゃあ………て、いつからエスパーにッ!?煤i ̄□ ̄;」
「ふふっ…それくらい、心を覗かなくたって分かりますよ。 それよりも…」
クスクス笑っていたエヴェリーナさんが急にマジメな顔になってにじり寄ってくる。テーブルに腕をついて乗り出す形で、ただでさえステキな胸の谷間がさらに強調されて目にまぶしい……て、イカン。ますますリミッターがもたなく…
「どうしてそんなに頑張るんです? 私の事…嫌いになってしまったのかしら【潤んだ瞳で上目づかい】」
ごっはぁぁッ!?【吐血】 こっ……これはもう、辛抱たまらーーーーーんッ!!
ハメられてようが何だろーが、そんなもんどうでもいい。今までのミョーな意地なんかキレイに消し飛び、ただ衝動のままに抱き寄せ唇をむさぼる。
「んンッ!?……ぁ、むッ……ぅん…」
くちゅ…ピチュ……音が立つのも構わず激しく舐めまわすと、始めは戸惑っていたエヴェリーナさんもすぐに応え始めた。
ゆっくりとくすぐるように、時に深く舌を絡め合い、お互いの混ざり合った唾液をすする。
でも…足りない、ぜんぜん収まらない。 もっと…オレは、もっともっと………
「……エヴェリーナさんが、欲しい…」
かあぁっ! エヴェリーナさんの頬が朱に染まる。恥ずかしそうに長い睫毛を伏せ、それでも小さく頷き返してくる姿が愛おしい。 もう一度だけ口付けてそっと抱き上げると、はやる気持ちを押さえて寝室へと向かった。
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