見えない連携〜落とし穴にて〜

料理長

「……………なんなんだ、これは………」
アームズは困惑した表情で周囲を見回しつつ、被害があったとされる地を見まわっている。


「ここですぅぅ…助けてくださぁぁい!」
「腹減ったよ〜」
あちらこちらの地底から悲鳴が上がっている。
「やっほう………やっほう………やっほう………」
アームズは穴の開いている足場ぎりぎりから、眼下のブラックホールに向けて叫んだ。
「……………深っ」


「足がっ! 足がぁっ!」
その一角の兵士達の足元からには皆、鉄製の歯が噛み付いていた。
「いや、これは見えるもんじゃないのかよ…」
「隊長、あれを」
バンダムが枝からのびたその看板に指を向ける。
『頭上注意』
「助けて下さいっ! 痛いっ、痛いですぅ!」
(痛いのか………動き止めるだけで良いのにな……残酷だな…)


「コックさぁん! 助けてぇ! こっちですよぉ!」
今にも泣き出しそうな声がどこからか聞こえてくる。
「…………大漁だな………」
周囲に繁る大木の枝から生えている網に数十人もの兵士が強引に丸めあげられ、吊るされていた。


「ひぃぃぃぃっ! …………ひぃぃぃぃっ!」
途切れ途切れの悲鳴がした方を見ると、城壁に貼り付いた兵士がクルクルと回転していた。その兵士の景色は帝都の城外と城内を転々としているのだろう。
点々と存在する回転扉ならぬ回転城壁は、いずれも絶え間無く回転していた。
「いや、体重かけてるから回ってんだろ…」


地面で倒れている兵士もいる。
「まともに襲われた奴もいるようだな。おい、医療斑を呼………」
その兵士の横に転がっている凶器と思われる物質、金ダライを見てアームズはこれ以上言葉を紡ぐ事を諦めた。


数分後。
「確認が終わり、報告に入ります。今朝方、城壁周辺において訓練を行っていた数小隊が敵の工作によって損害を被った模様です。」
バンダムがいつものように淡々と報告する。
「損害………これだけか? 帝都内の異変は無いのか?」
「今の所、確認はされておりません。軍事施設等も至って問題なく稼動している様子です。」

(回転城壁作れるのに…なんで侵入しないんだよ………)

「報告は以上です。これにより待機兵の損害、国力低下に見舞われた模様です。」

(…………国には影響しないだろ、国には…)


「おそらく敵国の謀略…我々の奇襲に対するクレアムーンの報復の可能性が高いかと…」
「………そ、そうか。そうでない事を祈りたいな…これでは行動が予測できんよ。」
「しかし、相当な実力者だと思われます。」
二人は改めて点々と存在するトラップを見回す。疑問点は有り過ぎるが、帝国兵達が自力では脱出できないトラップの数々は確かにそこに存在している。それも、こちらの本陣、帝都でだ。

「我々の奇襲と同じく、時間も人員もそこまではかけていないはずです。」
「だろうな、大部隊ならシチルに向かった軍に見つかるだろうしなぁ。」

「それで、この数々か…」
今一度、アームズはため息をついた。
「引き続き、警戒を怠るな。次は帝都に侵入してくるはずだからな(そうなんだろうか…)」
「了解しました。それと、我々が呼ばれた本題ですが。」
「あぁ、当面脱出できそうにない穴に落ちた兵士に食料だっけか。」
「はい、相当に深いゆえ、固形物は危険かと。」
「そうだな………」
しばしアームズは腕を組んで考えた。


「こんにゃくでも落としておけばいいんじゃないか。あれなら安全だろ。」
「さすが隊長、名案です。」

かくして、落とし穴に大量のこんにゃくが投下される事となった。


謀略戦、それは見えない相手との戦い。

(2002.09.11)


『叢雲、帝都に現る』へ

年表一覧を見る
キャラクター一覧を見る
●SS一覧を見る(最新帝国共和国クレア王国
設定情報一覧を見る
イラストを見る
扉ページへ戻る

『Elegy III』オフィシャルサイトへ移動する