焦り
キロール・シャルンホスト
帝国の若き将ユーディスからの一騎打ちを受けたキロール。
だが、それは、過ちへの第一歩か。
結果はキロールが負傷し部隊はその場で待機を余儀なくされた。
だが、問題はそんな所には無かった。
勝負は水物、流れに乗ったものが勝ち、乗れなかったものが負ける。
キロールは一騎打ちに敗れたことをそう考えている。
「将来は有力な将になるか・・・」
将校用の天幕の中のベッドに横たわりキロールは誰とはなしに呟く。
天幕の外では、共和国軍第10部隊が陣を張って展開している。
独断専行で戦場に現れた第10部隊。
本来なれば戦場に一部隊取り残されてもおかしくない状況。
だが、共和国軍第4部隊「青嵐隊」が共に戦線を張るように陣を展開していた。
「・・・・カオスか・・・・奴も若かったな」
帝国の隻腕の猛将ルーデルは21と聞く。
「・・・私も老いるはずだ・・・」
老練の粋に達しきれず、若さと言う促進力の無い自分。
あるのは、軍人としての意地のみ・・・
そんな事をつらつらと考えていたキロールの元に斥候から一報が届いた。
少数の帝国兵が村に向かって進んでいると。
部隊を移動させれば防げる地点に帝国兵がいた。
だが、今は動けない・・・・だが。
「・・・・・・・」
キロールは右手を持ち上げる。
痛みが走り抜ける・・・だが、動く。
上体を起こすとギシギシとアバラが軋む。
だが、動ける。
向かわねばならない。
共和国軍人として生を全うする為に。
打ち滅ぼさねばならない。
共和国民の生活を脅かす外敵を。
狩り取らねばならない・・・・
帝国の兵士達の夢と希望を・・・・・
キロール・シャルンホストがキロール・シャルンホストであるために・・・・
武具を纏わんとしたキロールが部下に取り押さえられたのはそれからすぐの事。
キロールの狂乱振りは凄まじかった・・・
だが今は、傷が開き再びベッドに横たわっている。
それは、斥候からの報告を聞く前の天幕の情景に戻ったようだった。
天幕の天井を見上げるキロールのその双眸が焦燥と怒りと屈辱とで
ギラギラと獣のように輝いている以外は。
<了>
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