Flame Of Darkness「第二章」

キロール・シャルンホスト

燃え盛る戦場。
戦っているのは帝国軍同士。
本来ならば上手く言ったといえない事も無い・・・・だが。
「嵌めやがったな・・・・アレクシス!!」
テロリストは天に向って咆哮しクロスボウを炎に包まれつつある馬上の女に向けた。

Flame Of Darkness
第二章

ベルンハルト・フォン・ルーデルの死。
その影は第三騎士団に変革と言う名の影を落とした。
新たな団長は女帝セリーナに忠実な男で、ベルンハルト卿のような豪胆さも将としての器も無い。
だが、第三騎士団副長アレクシス・v・カイテルはいつもと変わらぬ笑顔で彼の指揮下にあった。

一方、反帝国主義を掲げる「レギオン」は、敗走に敗走を重ねていた。
結成まもなく鎮圧されかけた彼らを救ったのは・・・皮肉にも女帝セリーナであった。
ベルンハルト卿の死が追っ手・・・第三騎士団を退かせたのだ。
「・・・・」
闇に紛れて行動している暗き炎・・リック・ベルクルスは黙々と歩んでいた。
第三騎士団の撤退からもう1ヶ月が経とうとしていたがレギオン再建の目処が立っていない。
志半ばで倒れる・・・それは仕方ない。
だが、いまだに一矢報いていないのだ・・・・帝国に。
鬱々と考え込みながらも、まだ諦めては居ない。
この程度で諦めるのならば、彼の上司が死んだ時に共に死んでいたはずだ。
「・・・まあ、気長にやるさ・・・」
そう呟いたリックの視界に一つの人影が入る。
「・・・あれは・・・・」
帝国第三騎士団副長・・・アレクシス・v・カイテルであった。

アレクシスのもたらしたのは情報。
現在の帝国に不満を抱く貴族の所在地だった。
アレクシスは敵討ちがしたいのだという。
話が上手すぎるとリックは思った・・・
だが、帝国に一矢報いるチャンスでもある。
リックは、その貴族の元に向い・・・挙兵に成功した。
それは、あくまで秘密裏に行われていた。
そして、クーデター決行3日前。
新女帝の即位を祝い大規模な狩りを行うと言う名目で3千の兵を従えたその貴族と
僅かばかりの「レギオン」は帝都より西方20Kmの盆地に駐留していた。
そこで第三騎士団の一部と合流する手はずであった。
だが、現れたのは第三騎士団全軍。
掛けられた号令は今は亡きベルンハルト卿の好んだ「突撃せよ」であった。
号令を下したのは・・・・・アレクシス・v・カイテル。

数の劣勢を物ともせず、帝国軍の精鋭騎兵部隊は果敢に戦い抜く。
その戦い振りは見事なまでに第三騎士団そのものであった。
押されるクーデター軍。
「・・・豚じゃ狼には勝てんか・・・」
そう呟いたリック・ベルクルスは少数に同胞に声を掛けた。
火を用意しろと・・・・
そして、戦場は炎に包まれた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・


戦局は終わりに傾いていた。
帝国軍、クーデター軍共にホロコーストの嵐に巻き込まれていた。
だが、火勢は一向に止まない。
生き残りかけたアレクシスの周囲でもだ。
それでも、彼女は笑っていた。
クロスボウで彼女を射抜かんとしていたリックは・・・ある物を見た気がした。
天を見上げ、笑いながら涙を零す彼女を。
リックは一瞬引き金を引くのを躊躇った・・・
それが、命取りであった。
肩に走る鋭い痛み。
クロスボウの引き金を振り絞り、振り向くと帝国の忍びが居た。
「・・・・暁の・・・守人・・・」
よろりと後ずさりながらうめくリック。
逃げ場を探して左右を素早く見渡し・・・ある場所に向って走る。
ふと、馬上のアレクシスが見えた・・・が、すぐに炎に包まれてしまった。
クロスボウより放たれた矢が彼女を貫いたのか、否か・・・
もうどうでも良い事だ・・・
あの炎の中から生還はでないだろう。
それよりも、今は・・・・
そこで再び背中に灼熱が走った。
忍びが追いついて斬りつけたのだ。
だが、目的の場所はすぐ其処だった。
「あああああああああああああっっ!!!」
リックは、其処に向って力を振り絞って跳躍した。
彼が飛び込んだのは川。

 大河と言える川で、水面までかなりの高さがあった。
忍びは飛び込むことはせず、水面を見やる。
川にある岩に一本、腕が捕まっているのが見えた。
「生きているのか?」
忍がそう思った瞬間、その腕は不自然な動きで流れていった。
まるで死体の腕のように・・・・
その忍はまだ経験が浅かった。
ある可能性を考慮したが、特殊な訓練を行った事の無い者にそれが出来るとは思わなかった。
故に帰還した。
故に・・・見逃してしまった。
リック・ベルクレスは、腕を一本失いつつ生き残った。
暗い情熱を胸に。
<続>

(2003.04.23)


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