愛しい人よ
コマ・スペルンギルド
拝啓 コマ・スペンギルドさんへ
聖都決戦が近づいてきましたが、いかがお過ごしでしょうか?
どうやら、私の部隊の副官・メイリィさんにご好意を持たれているようで・・・。
つきましては、その決意のほど、1度、お伺いしたく存じ上げます。
帝国第7部隊指揮官:朝霧 水菜
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「・・・ふーむ・・・・・・」
今しがた届けられた手紙を見て、僕は考え込んだ。
帝国の朝霧さん、ね・・・。
間違いなくこれは僕に対しての1対1のお誘いだろう。
僕がメイリィさんに相応しい人間かどうか図るつもりか・・・。
わざわざこんなものを送ってきたという事は、罠とかではあるまいて。
まぁ罠だったら罠だったで、なんとかしてみせるつもりだが。
「さてっと・・・」
机に向かい、筆を取り出す。
そしてさらさらと書状をしたためていく。
寂寥感で文字がにじまないよう、気をつけながら。
あ、こいつはわざわざご丁寧にどうも。
クレアのコマ・スペルンギルドでゴザイマス。
お話の方、了解いたしました。
聖都は寒いので、メイリィさんにお風邪などお引きにならないよう、
宜しくお伝えくださいませ。
それでは、適当な所でお待ちしております。
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「・・・っと」
そこまで書いて、僕は筆を置いた。
窓の外では、穏やかに小雪が降っている。
この厳寒の地で、あの人と見える事になるのか・・・。
ホントに風邪など引かねばいいけれど・・・。
・・・そう言えば、僕は法術部隊の司令官の推薦が来ていたんだったっけ。
こんなタイマンを受けるとなれば、そのような責任ある地位につくわけにはいかないだろう。
「は〜、他の将軍達はどうやって言いくるめようかなぁ・・・」
聖都決戦に向けて、残った将軍は総動員される予定である。
それなのに自分だけこんな私的な戦いに赴こうとは・・・何か申し訳ない気がする。
ただでさえこちらは戦力不足で悩んでいるというのに。
気がつくと、今したためた手紙の字も乾ききっていた。
僕は手紙を丁寧に折りたたんで、静かに部屋を後にする。
後に残されたのは、愛用の筆が一つだけ。
朝霧さんといえば・・・開戦当初に、ウチのエアード兄さんと死闘を演じた人だったか。
あの時は、僅差とはいえ朝霧さんが勝った。
部隊戦闘でも一騎打ちでもエアード兄さんを倒したそんな人を相手に、
僕は果たして勝てるのだろうか・・・。
窓の外では、変わらず穏やかな雪がしんしんと聖都クレアの地に降り積もっていた。
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