争奪戦
朝霧 水菜
「―と、まあ、こういうわけなんだニャ」
話し終えて、紫苑が新しい書類を一枚、水菜の前に器用に差し出す。
部隊の再編成を終えて、決戦のために兵力を結集させるべく、
ハルバートに赴いて、そこに駐屯していた兵士達の移動指示を行っていた「紅月夜」。
その執務室でメイリィの事務を手伝いながら、水菜は紫苑から、
時間がなかったので聞けなかった、前の偵察の報告を聞いていたのだ。
「はぁ・・・・それがこの前の部隊の指揮官の方なんですか?」
出された書類をサラサラ、と書き終えて、今度は自分で紙を取り出す。
「そういう事だニャ・・・アタシにはメイドのどこがいいかわからないんだけどニャ」
皮肉でも何でもなく、心底理解できないといった風に紫苑がぼやく。
そんな紫苑には構わず、楽しげな様子で書類を書いている水菜を見て、
「ところで・・・今度は何を書いてるんだニャ?」
何気ない動作で、紫苑が覗き込んだ、その紙面には・・・
拝啓 コマ・スペンギルドさんへ
聖都決戦が近づいてきましたが、いかがお過ごしでしょうか?
どうやら、私の部隊の副官・メイリィさんにご好意を持たれているようで・・・。
つきましては、その決意のほど、1度、お伺いしたく存じ上げます。
帝国第7部隊指揮官:朝霧 水菜
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「・・・・・・・・・・・・・・」
「どうかしましたか、紫苑・・・?」
紙面を見た格好で硬直した紫苑に、その手紙を封筒に入れながら水菜が問う。
「いや、何でもないニャ・・・・」
何か、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、
弱々しく頭を振って、紫苑は1つ―既に習慣のように―溜息をついた・・・
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