シチルの攻防−開戦−

朝霧 水菜

予想通りというか、何と言うか、それが始まったのは本当に直ぐだった。
「敵第2部隊『蒼風』が接近、待機していた我が部隊と交戦を開始しました」
陣の奥で戦況を見つめていた私に、兵士の報告が届く。
既に、両軍の兵士のぶつかり合う、地鳴りにも似た音は私の耳にも届いている。
「こちらに向かっているのは『蒼風』だけですか?」
その兵士に問い返す声は、自分でも驚くぐらい、落ち着いていた。
じきに本格的な交戦が始まれば、こんなやり取りをしている余裕もないだろう。
だからこそ、それは今の内に確認しておくべきだった。
「はい。それと・・・これは、個人的な感想なのですが・・・・」
頷いてから、兵士はその先の言葉を続けるのに、幾許かの躊躇いを見せる。
「以前、交戦した時と比べ、『蒼風』の攻撃が苛烈になっているように思われます」
まあ、前哨戦の様な感じだった前回と比べ、今回が激しくなるのはわかるが、
それでも、わざわざ上官に報告するぐらい、というのは些か奇妙だった。
(そういえば・・・確か、前回の交戦後の報告書に、
 フォルクスさんが女性の副官を捕虜にした、とありましたね・・・)
前回、トドメこそ譲りはしたものの、やはり本格的に交戦したのは私の部隊だ。
その事で、エアードさんが報復に来るというのであれば、当然、それは私の部隊だろう。
「本当に、ここが因縁の地となってしまいましたね・・・」
それは、いつ決まった事なのだろう。
半年前のあの時から? この前、私が一騎打ちを挑んだ時から?
微苦笑を漏らして、かぶりを振り、過ぎった思考を打ち消す。
「後ろの法術2部隊及び『WINGS』に早馬を。
ここは私の部隊に任せて、シチル突破を最優先に、と」
伝令兵に指示を飛ばしながら、私も敵兵を迎え撃つべく、狭霧を持ち直す。
「それと、私の部隊に通達。態勢を立て直し次第、敵に突撃を仕掛けます」

―結局、こういう方法でしたか、私は相手の意図を確かめられないのかもしれない。

(2002.10.02)


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