叢雲、帝都に再び現る・前編
御剣 叢雲
夜…暗闇に家も川も例外なく包まれる。
多くの人たちがそして動物たちが夢の中で目覚めるときを待っている時間…
夜陰の中、再び帝都へと向かう集団があった。
「やっぱでっかいね〜…」
叢雲たちは前回と違った場所に罠を仕掛けることにした。
「じゃあ…今回の行動内容だけど…前回と同じ!!」
「…だろうと思った」
一度成功したことで自信を持っているのか、意気揚々と宣言する叢雲の横で白峰蛍があきらめ気味に頭を抑えた。
「じゃあ…買い物行ってきます…」
罠の設置に動き出した集団の中で綾音がまたふらふらと出かけていったのを知っていたのは叢雲だけだった。
蛍の元に現場を監督する兵士からの報告が届く。それに叢雲が真剣な顔で返事をしているのを蛍はぼーっと眺めていた。
たとえば
「落とし穴、完了しました」
「藁と油は忘れないでね。確実に落ちるけど怪我はしない程度にしたいから」
とか
「べあ・とらっぷ、設置完了です」
「頭上注意の看板の位置には気をつけてね」
他にも
「回転城壁、十基作成しました」
「う〜ん…時間があるから後少し増やして…それからその足元にもべあ・とらっぷ置いてみて…多分壁に密着させて砂でもかぶせといたらばれないから」
それからも網や金ダライ、挙句の果てには下剤入りの握り飯まで、さまざまな報告が届き、叢雲の指示を仰いで去っていった。
「お姉ちゃん…この人ど〜にかして…」
蛍は机に突っ伏してそうつぶやいた。
一連の作業も終了し、朝がやってきた。
叢雲はさっさと綾音を迎えにいくと蛍に先に帰るように伝えてから帝都の中に侵入してしまっている。
しかし蛍はあの人たちを放っておくとロクな事が無いと、緋和に後を任せて自分も帝都の中に入って行くのだった。
叢雲はまたふらふらと歩き回っていた。本当に綾音を探しているのか少し疑問だ。第一その手にはどうやって手に入れたか不明のコーヒーが握られていたりする。
刀まで持って堂々と敵国の将軍が都の中を歩いていると言うのに普通の通行人と同化しすぎているからだろうか、気づく人はほとんどいなかった。
「う〜ん…コレなら牛乳飲めるかも…」
手に持ったコーヒーを飲みながら近くにあったベンチに腰を下ろす。勿論コーヒーには砂糖とミルクが大量に入っている。
「あの店のおじさん…怒ってないかな…ま、いいか」
もう一度コーヒーを口に入れる。
「そ〜いえば綾音ちゃん…どこかな…」
「どこってここにいるけど…」
「あ、何だそこに…って綾音ちゃん!?」
叢雲の隣には買い物袋を大量に抱えてジュースを飲んでいる綾音と
「お、嬢ちゃん。また会うたなぁ」
と、笑顔で綾音の荷物の一部を持っている空が座っていた。
「どこ行っちゃったんだろう…前と同じで買い物だと思うんだけど…」
さまざまな商店が軒を並べる通りを蛍はきょろきょろしながら歩いていた。
「おろ、お嬢ちゃんまた来たのかい?」
と、突然蛍は背後から話しかけられた。『自分のことを知っている人?…周りにバレないようにしないと』と考えをめぐらせながら『人違いであってほしい』と願いながら蛍は声の主へと振り返った。
「どうだ? お腹すいてるか?」
そこにはいくらかの食材を抱えたアームズが立っていた。
「しっかし嬢ちゃんらは毎回はぐれとるのー」
「毎回って…コレで二回目です…」
「せやけど『二度あることは三度ある』ってゆ〜やろ?」
「うっ……」
「何や、図星かいな」
叢雲と空が喋っている間、綾音は我関せずといった表情でそれを眺めていた。
「ほいで、嬢ちゃんらはこれから何ぞ用事でもあるんかいの?」
「買いも…」
「別に何も無いけど〜ね、綾音ちゃん」
『買い物』と言おうとしたであろう綾音の口を無理矢理抑えて叢雲が言う。気がつくと空も一緒になってその口を押さえていた。どうやら買い物につき合わされるのは懲りたらしい。
「そ〜いえば、何で空さんはまた綾音ちゃんと一緒なんですか?」
「ん? そのことかいな。オレが歩いとったら後ろからついてきとったんよ。ところで今からどっか行くんけ?」
「それで…なんでまたここに来たんだい?」
オムライスを上機嫌に食べている蛍を見ながらアームズは問いかけた。
「人を探しに…来たんですけど…まだ見つからなくて…困ってるんです」
「…焦って食べないでもいいよ」
「あ、はいっ」
心からの笑顔を浮かべてオムライスを食べる蛍を見ているアームズの目はどこまでも優しかった。
「…意外ときれいなんですね…空さんの部屋って」
「一応ほめ言葉として受けとっとこか」
「んで、ココで何するんですか?」
「あん? まあ、可愛い嬢ちゃんが二人も居るんやけぇ、少しは接待したらんとな」
「あ、ありがと〜ございます」
「気にせんでええって、それより嬢ちゃんらいける口かいな?」
といいながらグラスと酒を用意する空。
「まあ、ちょっと飲まへん?」
「大体特徴はこんな感じですね…」
帝都の通りを歩きながら蛍が叢雲と綾音の特徴をかいつまんでアームズに説明する。
「でもすいません、つき合わせちゃって…」
「まあ、それは全然大丈夫なんだけど…これだけ広い場所でその二人を探すのは大分大変かもしれないね…」
「そうですね…だけどあの二人を放っておくと何が起こるかわからないので…そっちのほうが怖いです」
「はは、お嬢ちゃんも大変だね」
「また子ども扱いする…」
微笑ましい問答を繰り広げながら二人はのんびりと通りを歩いていった。
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