或る戦線の光景
御剣 叢雲
「この部隊で戦線出るとは思わなかったなぁ…」
叢雲はシチルの北にいた。川を越えればシチルの街にたどり着くのだが、その川を挟んで帝国軍との戦いが繰り広げられている。
「…ま、小難しいこと考えてても始まらないよね」
「んで…今は法術部隊だからいいんだけど…もし騎兵部隊だったときは叢雲ちゃんはどうすんの?」
「…って言うかその前に何で私の布団占領してお酒飲んでるんですか?」
野営地での夜を迎えることになった叢雲は周囲を一通り歩き回って近辺の地理を頭に叩き込んできたところだった。
「ん〜? まあ、細かいことは気にしない気にしない」
酒を飲みながら緋和が叢雲に向かって手をぱたぱたと振る。
「で、本題に戻るんだけど叢雲ちゃんって馬嫌いだよね?」
「そ〜ですよ」
「じゃあ騎兵部隊なんか相手にしたり指揮したりする時はど〜すんの?」
しばらく叢雲が首を傾けて考え込む。
「そ〜いわれればそうですね…馬と一対一の状態じゃなかったら大丈夫…とかそんなんだと思うんですけど…」
「……何よそれ」
よくわからない答え方をする叢雲に緋和があきれた様に言葉を返す。
「でも緋和さんだってそうじゃないんですか?」
「え? 何が?」
緋和が驚いたように叢雲を見据える。
「えあーどさんがいる時にそうなるんですよ緋和さん…気づいてなかったんですか?」
少しいたずらっぽく叢雲が笑う。
「えっ!? ほ、本当に!?」
「だって緋和さんえあーどさんと二人だけの時は早足で通り過ぎたり眼をそらしたり行く先変更するでしょ?」
「………」
緋和の額を冷や汗が流れ落ちる。確かに心当たりがあるのだがまさかよりにもよって叢雲に見られているとは思わなかったのだ。
「だけどいろんな人がいる中だと結構えあーどさんにいろいろしてるんですよね〜」
「……き、気のせいよ…気のせい」
「ほんとにそ〜なんですかぁ?」
下から冷や汗だらだらの緋和の顔を覗き上げるようにいたずらっぽい笑み満点の叢雲が緋和を徐々に追い詰める。
「…む、叢雲ちゃん…馬…」
「えっ!?」
緋和がそう言った途端にあせって後ろを振り向く叢雲。
「天誅!!」
そしてそのうなじに緋和の手刀が叩き込まれ、叢雲は気を失った。
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