序章・決意

御神楽 薙

詰め所に拘留されてはや三日目・・・。(といっても詰め所に到着すると同時に丸2
日間爆睡してしまったらしいから、尋問は初日)
「で? そろそろ喋ってくれんかね? こっちもそれほど暇じゃあないんだ。」
目の前で厳ついお兄さんが厳つい表情でオレを睨んでおります。怖いです。
オレも喋れることは早く喋って事態を進展させたいところなのですが・・・。
「・・・・・・・・いや、喋れといわれましても。」
何を喋れというんですか・・・・・。
あのバカ親父の行動なんて18年間一緒にいる筈のオレでもわかりません・・・。
「なんであんなことをしたのかっ、て聞いてるんだ。」
・・・・・・・・。どう説明しよう・・・・・。(前回参照)
「間諜か? それとも要人の暗殺か?」
・・・・・・そんなことしようとする人があんなこと(前回参照)を国境付近でしな
いと思います。
「それとも、お前らはその陽動かなにかか?」
・・・・・・だとしたら大成功だったんだろうなぁ・・・・。あの追撃はすごかった
し・・・。
「・・・・・・・なんとか言わんか!」
(ドンッ!)
目の前で厳ついお兄さんが机を思いっきり叩いております。かなり怖いです。
「・・・・・・、まあ何も言わないよりはましかなぁ。」
「ん? 喋る気になったか?」

・・・・・・とりあえずありのままに喋ってみよう。・・・・・・・・・・・・・・
・無駄だろうけど。


とりあえず説明を試みること数分・・・。


「・・・・・・貴様、馬鹿にしとるのか?」
・・・・・・ほら無駄だった。
でもこのお兄さん、いい人だなぁ。最後までちゃんと聞いてくれたし。
「いや、でもこうとしか説明が出来ないもので・・・。」
とりあえず弁明しながらも、いや〜な汗が背中を・・・。
「ジュシュア殿の頼みだからいきなり拷問をかますのだけは止めておいたのだが・・
・。」
あ、本格的にやばい・・・・・・。無駄どころか、事態が悪化している。おもわず背
中の汗の量も増加・・・。
・・・・・・どうしよう、逃げようか?
でも、この尋問部屋の周囲からかなりのプレッシャーを感じるんだよなぁ・・・。
かなり訓練された人間が沢山いる・・・・。
これを素手で突破するのは無理だろうなぁ・・・。武器があれば何とかなるかもしれ
ないけど・・・。
かといって・・・。
(「オレの武器、返してもらえませんか?」「はい、どうぞ♪」)
なんてことあるわけないしなぁ・・・・。
「・・・・貴様、聞いとるのか!!」
・・・・・・・・・・・・・現実逃避、強制終了。マジでどうしよう・・・・・・。


(がちゃり)


ん? だれか入ってきた? ・・・・・・・・拷問官か? いやだなぁ・・・。
「すみません、この間の方が目を覚ましたと聞いて来たのですが・・・。」
あ、この間の・・・。ええと、確か・・・。
「これは、ジョシュア殿。ようこそお出でくださいました。」
そうそう、ジョシュアさんっていったっけ。
「こんにちわ、この間はありがとうございました。・・・ええと、」
「あ、薙といいます。御神楽 薙」
「はい、薙さんですね。・・・・。それで、尋問係の方、進展はどうですか?」
「はあ、こいつが非協力的なもので、あまり進んでいません・・・。」
これ以上ないくらい協力的なんですけど・・・。暴れてもいないし、喋れることは全
部喋ったんですけど・・・。
「とりあえずわかったことは・・・」

名前:御神楽 薙(みかぐら なぎ)
年齢:18
性別:男
出身地:不明
現住所:不定
家族:仁(じん)【関係:父親】

「ということだけです。なお、国境侵犯を働いたときの片割れは父親であるようで
す。」
いや、片割れっていうか・・・。ほとんど全部、親父が悪いんですけど・・・。
それに・・・。
「あの、オレ、国境侵犯のあたりの事情も洗いざらい喋ったんですけど・・・。」
「あんなものを調書に出来るか! 馬鹿者!」
・・・・・・。ごもっともです・・・・・・。
「・・・・・・? どういうことですか?」
ジョシュアさんが首をひねっている。
「いえ、こいつがあんまりふざけたことを言うもので・・・。」
だから、これ以上ないっていうくらい真面目なんですけど・・・。
「おい貴様、もう一度あれを言う勇気と度胸はあるか?」
「わかりました・・・。もう一度ご説明します・・・。」
もう、ヤケ・・・・。


数分後


「・・・・・・と、いうわけです。」
ああ、何度言っても、バカらしいことこの上ない・・・。恨むぞ、親父・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あ、ジョシュアさん、絶句してる。
「・・・・・・。からかっているわけ・・・、では・・・ないんですよね?」
「はい、嘘は言っていません。・・・・・・自分でも無茶苦茶だとは思うのです
が。」
自分で言ってて泣けてくる・・・。
「・・・・・・わかりました。信じます」
そうそう、もう拷問でも何でもしてください・・・。諦めました・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、え?
「「え?」」
あ、ハモった。
「信じますよ。悪い人だとは思えませんし。」

・・・・・・あ、綺麗な笑顔・・・・・・。思わず見惚れてしまう。

「ほ、本当ですか?」
おもわず聞き返してしまいます。
「ええ、でもあなたが既に犯した罪は消えませんし、私の独断であなたの釈放をする
こともできません。」
・・・・・・・・まあ、それはそうだろうなぁ。
「と、いうことで、この人は私の保護観察のもと仮釈放という訳にはいきませんか?」


数日後・・・


あ〜、空が青いなぁ・・・・。青空を見れるのは何日ぶりだろう・・・・。
「ん〜〜〜〜〜〜!」
肺一杯に息を吸い込む。
空気も美味い・・・・・・。やっぱりシャバはいいなぁ・・・・・・。
「もう、戻ってくるなよ。」
ここ数日で仲良くなった尋問官(今はオレの見張り)が言ってくれる。
「オレだって、もうここの飯は食いたくないですよ・・・。」
本気で美味しくなかった・・・・。冷や飯でも出ないよりはいいのだろうけど・・・
・・・。
それに、周りの人間が身体にモンモンのはいったおっさんや、見るからに凶悪犯って
顔してる連中ばかりだと、流石に怖い。
あと、妙に熱っぽい眼で見つめてくる男・・・・・・・・・・・・。
もう、絶対に戻ってきたくない・・・・・・。何があっても。
「なら、もうちょっと親父さんを抑えるんだな。」
「・・・・・・。そういえば、親父は捕まってないんですよね・・・・・・。」
「ああ、目撃情報すらない。」
「まあ、あの親父はそう簡単には捕まらないでしょうね・・・・・・。」


さて、お迎えは、と・・・。


「あ、薙さん。こっちです」
あ、ジョシュアさんが手を振ってくれてる。
「ほれ、いってこい。くれぐれも粗相のないようにな。」
「ガキですか・・・オレは。」
「あんなこと(前回参照)しでかしたやつの言えるセリフじゃねえやな。」
うぐ・・・・。確かに・・・・・・。
「じゃ、お世話になりました」
「おう、ジョシュア殿の善意を裏切るんじゃないぞ。」
「・・・・・・あんないい人、裏切れるほど器用じゃないですよ。」


「お待たせしました。さて、それでは私の勤め先にご案内しますね。」
「・・・・・・・・・・・あ、あの。なんでオレなんか引き取ってくれたんですか?」
「助けてもらったお礼・・・・ですね。後、やはり悪い人には見えなかったもの
で。」
・・・・・・・・・・・・・・・このひとはわかっていない。
たとえ根っからの善人でも、鉄の意思と確固たる信念さえあれば修羅にも蛇蠍にもな
る。オレは世界中でそれを見てきた・・・・・・。
・・・この人はなんだか危うい。・・・・・・・・・・・でも、不思議な魅力があ
る。
笑顔の奥に見え隠れする意思のようなもの・・・・・・・・。

「さ、行きましょう?」
「・・・・・・。その前に何か食べさせてもらえません? もう何日も冷や飯ばっか
りで・・・・・・美味いものが食いたいです・・・」
いや、本気で・・・・・・。酒だって飲めなかった・・・・・・。
「あら、そうですか? じゃあ、その辺の酒場にでもいきますか?」
「是非。」


・・・・・・・せめて、そばにいる間だけでも、この人を守っていこう。それがオレ
なりの、今回の件の恩返しだ。

(2002.09.09)


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