奇襲(カルスケートにて)
御神楽 薙
カルスケート西部
「そ、側面より敵襲! ヴェルヴェット将軍直属の部隊が交戦を開始した模様です!!」
天幕に突然伝令兵が駆け込んでくる。
「・・・ついに来ましたね」
そういってジョシュアさんが席を立つ。
「回り込んできた敵の規模は?」
「歩兵隊が約2000!」
ジョシュアの質問に伝令兵が素早く答える。
「少ないですね・・・・・・。正面のモリス将軍と戦闘中の敵部隊はどうなっていますか?」
「はっ、現在モリス将軍の鉄壁の守りにより敵は一兵たりとも防衛線を突破できておりません!」
「・・・・・・一兵たりとも? ・・・・・・敵は共和国軍きっての勇将キロール・シャルンホスト殿・・・。いかにモリス将軍といえど、それは・・・・・・。」
ジョシュアさんが何か考え込んでいる・・・。なにかあるんだろうか?
「・・・・・・前線に連絡! 正面の敵戦力を再度調査するように伝えてください!」
「はっ!」
伝令兵は素早く身を翻して出て行った。
「・・・・・・なにか、あるんですか?」
とりあえず判らないのでオレは素直に聞いてみることにする。
「後方撹乱が目的だと仮定しても敵兵が少なすぎるんです。この敵の兵数では各個撃破の機会を作るだけだと思うので・・・。」
「後少し、後方にいるのでは?」
「そうだと良いんですけど・・・。ひょっとしたらさらに大兵力の本隊が後方に控えている可能性も・・・。」
「まさか! そんなことなら今敵の正面にはわずかな兵しか残されていないことになります!」
「あの地点では少数でしか戦えないというのは敵も味方も同じです・・・。キロール将軍の部隊だけで闘うことも不可能ではありません・・・。その間にこちらを乱戦に出来れば兵数で勝る共和国軍のほうが有利に闘うことが出来ます・・・・・・。」
「でも、それなら回り込んでいる部隊を一気に投入してくるのでは?」
「あまり多すぎると敵の目にもつきやすいですし・・・。早期警戒をさせないためかもしれません。」
「モリス将軍より伝令! 『敵後陣に違和感あり、警戒せよ』とのことです!」
早い、まだ伝令を出して数分もたっていない、既にモリス将軍が伝令を出していてくれたみたいだな・・・。
流石は、といったところか。
「・・・・・・・・・・・・。」
報告を聞きジョシュアさんの表情が一層固くなる。
「・・・・・・全部隊に早馬を。側面からの攻撃に備えるように。」
「はっ!」
「・・・・・・つらいですね。」
最後にポツリと呟いた滅多に聞くことのないジョシュアさんの弱音がやけに耳に残った・・・。
降りしきる雨の中、カルスケートの戦いが本格的に動き出した瞬間だった。
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