序章・番外編3

御神楽 薙

あれから、とりあえず入り口を調べること数分………。
「どうやらこの大岩で入り口を塞ぐところまでが一連のトラップになっていたようですね・・・。」
ミルさんが言う。
どうりで穴が浅かったわけだ。
けど、この岩をどけないと出られそうにないなぁ………。
肩を脱臼していなければなんとかどかすこともできるのかもしれないけど………。
片腕ではどうしようも………。
………といってもミルさんは力仕事には向いて無さそうだし。怪我もしているみたいだし。
………………やるしかないか。

「ふんっ・・・・・・」
脱臼した肩を思い切り引っ張る……。痛い。それはもう泣きそうなほど。
「!? な、なにをしているんですか!」
おお、ミルさんが驚いている。それはそうだろう。
「いや、脱臼した肩をとりあえず入れようと・・・。」
「そ、そんな無茶な・・・。」
確かに痛いけど………。
「でもこの岩をどかすのは片手では無理ですし・・・。」
「こ、こんな岩をどかすことなんて出来るんですか!?」
「わからないですけど、少なくとも片手では・・・」
「おとなしく救助を待ったほうが・・・」
「しかし、オレたちの帰還予定は1週間後ですし。捜索が来るのはさらに時間がかかるでしょうし・・・。」
それにここの地質なら岩に力を加えても崩れることはないだろうし。

(ガキンッ)

………肩が入った。やっぱり痛いことに変わりはないけど。
さて。それじゃあ………………。

「ふうっ・・・!」
一気に岩の方に力をこめる。…………うあ、やっぱり肩が無茶苦茶痛い。

(……ズズッ)

お、動くみたいだな。
これなら、なんとか…………。


数分後


「ぜ〜、ぜ〜・・・・・・」
ど、どかせた…………。
肩、限界が近かったけど……。
「し、信じられない・・・・・・。」
ミルさんが驚いてる。でも、これくらいのことをする人間は結構いるんだけどなぁ……。
さて、それじゃあ、ミルさんを診ますか。


数分後


「捻挫、ですね」
見事に足を捻っている。これでは山道は歩けないだろうな…。
……………………。
「はい、どうぞ。」
そういってミルさんに背を向ける。
「な、なんですか?」
ミルさんが疑問符を浮かべている。
「いや、おぶりますよ、って。」
この状態で実習も何もあったものではないだろうし。
「け、結構です!」
「でも、その足では・・・。」
「いいんです! 子供じゃないんですから!」
…………………………やれやれ、この調子では何を言っても駄目かな? なら………。
「よっと」
ミルさんを強引に抱え上げて背に乗せる。
「きゃ、ちょ、ちょっと、何をするんですか!?」
「あいててて!?」
ミルさんが暴れる。怪我に響くので勘弁してください…………。
「あ、ごめんなさい・・・。ってあなたも怪我してるじゃないですか?」
「いいんですよ、オレは男ですから。」
「・・・軍人に男も女もありませんよ? あまり軽んじられても困ります。」
「まあ、これはオレのわがままみたいなものですから。勘弁してください」
「・・・・・・・・・・」


そして帰路について数十分


「・・・・・・あの、今までごめんなさい・・・。」
「???」
ミルさんが突然言った台詞に思わず疑問符がでる。
「いえ、謝ってくれていたのに、ずっと避けていたりして・・・。」
「ああいや、あれはオレが悪かったわけですし・・・。」
「いえ、ごめんなさい。ちょっと大人気なかったです・・・。」
「じゃあ、今回のことはもうあいこにしてしまって終わりにしましょう?」
「・・・クスッ。そうですね、そうしましょうか?」
「そういえば、まだ自己紹介もしてなかったですよね。私はミル・クレープといいます。」
「あ、オレは薙。御神楽 薙です。」
「はい。よろしくお願いしますね。」

さらに数分後

「・・・・・・なんだか、薙さん、お兄ちゃんみたいです。」
背中でミルさんがつぶやく。
「ミルさん、お兄さんいるんですか?」
「いえ、いないですけど。もしいたらこんな感じなのかなって。」
……と、いうことはオレにも妹がいたらこんな感じになるのかな?
「ふぁ・・・なんだか眠くなってきました。」
「寝ていいですよ。最寄の町まではまだかかりますし。」
「すいません・・・では、少し眠らせてもらいますね・・・。」




しばらくして、ミルの安らかな寝息が聞こえ出し・・・。
時を同じくして、我慢する必要のなくなった薙の、肩の痛みによる苦悶の声も聞こえてきた。

(2002.09.19)


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