回想その1『帝都』
ヴェルナ・H・エイザー
帝都ラグライナの宮殿付近の路地裏で2人の少女が人の到着を今か今かと待っていた。
いや、正確には1人が待ち、もう1人がその少女にピタッとついている・・・と言う
方が正しいか。
1人は金色の髪に青い目、少女のわりに背が比較的高く、もう1人が黒髪に黒い目、
背は低め・・・と、どこかアンバランスな組み合わせである。
しかも、金髪の方は巫女服を改造したようなものを着、黒髪のほうは甲冑を身にまとっ
ている。
おそらく100人に聞いたらほぼ全員が妙なコンビと言い放つだろう。
「はぁ・・・お父様遅いですね、綾火。」
「ヴェルナ様・・・まだここに来て10分も経ってないと思われますが。」
「あれ?まだそんなくらいですか?」
金髪の少女―ヴェルナの言葉に対し、無表情のまま返答する黒髪の少女──綾火。
傍から見れば全く噛み合いそうもない2人である。
と、不意にヴェルナが大通りの方へ駆け出し始めた。
「ヴェルナ様・・・どちらへ?」
「え?少し散歩するだけですけど?」
「わかりました。ではここで待っているので適当に戻ってきてください。」
特に意味もなくふらふら〜っと歩き回り、再び元の路地裏に戻ろうと駆け出した刹那、
ドカッという派手な音と共に1人の貴族にマトモにぶつかってしまった。
「いたたたた・・・あ、大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
何か考えているのか、ぶつかられた貴族は特に反応を示さずにその場を立ち去ろうと
した。
・・・が、背後からかけられた声にふっと足を止めた。
「おや、ルドルフ殿ではないですか」
「・・・ん? プリズネス卿か・・・」
「あ、お父様。知り合いですか?」
「ん、あぁヴェルナか。この方はルドルフ・フォン・ゲーレン殿といってな、
まだ年は若いが将来が楽しみな方だ。覚えておきなさい。」
あ、どうも・・・と軽く頭を下げるヴェルナ。その間もルドルフは何かを考えている
のかぶつぶつと何かを呟いていた。
「ん、ルドルフ殿。娘が何か無礼でも?」
「・・・ん? いえ、別に」
あぁ、そうですか・・・と言った後、娘の事を嬉しそうに話すプリズネス。
溺愛(親ばか)ぶりがよくわかる。と、不意に思い出したように
「・・・ところでヴェルナ。綾火は・・・?」
「えっ・・・あ、そういえば、忘れてましたの!」
そういい、慌てて路地裏に戻るヴェルナ。それを見て挨拶も適当に急いで後を追うプ
リズネス。
二人が路地裏に消えたのを確認し、にぃっとルドルフの唇が歪んだ。
「ふん、なるほど・・・明日が娘の誕生日ね・・・。ちょうどいい。
確か奴は法と政にそれなりに力を持っていたか・・・考えも合わぬし、私が出世する
には奴は邪魔だからな。明日にでも消えてもらおうか」
ふふふ・・・と軽く笑い、ルドルフはその場を立ち去った。
ちょうど路地裏では終止無表情の綾火にヴェルナが謝っている頃だった。
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