回想その2
ヴェルナ・H・エイザー
今日も街中を駆けていた。これはいつも通り。
後には綾火がついてこれてない。これもまぁいつも通り。
そして、向かう先は路地裏ではなく、屋敷の方角。ここがいつもと決定的に異なる点
だった。
そもそも何故に屋敷の方に走っているのか? そこから話を始めなければならない。
――――――――――――――――――――数刻前――――――――――――――――――――
やはりいつも通り、路地裏に向かって歩いていた。
「今日は何所へ遊びに連れて行ってくれるのかなぁ」
「・・・・・・・・・」
2人とも昨日と全く同じ格好である。
当然回りは変な目で見たりもするのだが、殆ど気にしていないのか2人とも普段どお
りである。
「・・・もし、そこのお2人さん・・・」
低く暗い声で呼び止められ、2人は足を止めた。
呼び止めた主は黒い服に黒いとんがり帽子をかぶっている。はっきり言って激怪しい。
「なんですか、おばあさん?」
「・・・用件は手短に」
「手短にか・・・ならば簡単に。ここで小一時間時間を潰しなされ。急いで行ったら
・・・多分死ぬよ。」
唐突な言葉に2人とも言葉が出ない・・・というよりは全く意味がわかっていないよ
うだ。
まぁ・・・見知らぬ人間にいきなり言われてすぐにわかるものどうかと思うが。
「ワシはこれでも予言者じゃ・・・素直に聞いておいたほうが身のためじゃと思うが
・・・?」
「綾火、どうします?」
「私は別に・・・ヴェルナ様の判断に任せます」
問うヴェルナにやはり無表情で返す綾火。結局、暫くの間その場に留まる事にした。
そして、去り際に一言・・・
「主は死神に好かれておるな・・・親しくなったものに襲い掛かる死神が・・・」
「死神ですか?」
「・・・まぁ、気にするな。年寄りの戯言と思っておくとええ・・・」
首をかしげながら急いで路地裏に向かうヴェルナであった。
路地裏に着いた瞬間、信じられない光景を目にした。
見覚えのある人物、いや、自分の父親が地に伏し、血の池を作っているのである。
「え・・・お父・・様・・・?」
1歩1歩ふらふらと、しかし確実に地に伏した父親に近づいていく。
が、最後の1歩を踏み出そうとした瞬間、目の前を勢いよく矢が通り過ぎていった。
「・・・え・・・今のは?」
(おい、外れたじゃねぇか・・・)
(気にせんでええんとちゃう? 2人がかりで直接殺りゃいいんやし)
(てかな、2人揃ったタイミングでまとめて消す予定だったんだろうが)
(悪ぃな。あんまし遅いから待ちきれんかったんや。ちっ・・・誰か来たで)
「ヴェルナ様・・・全力で走らないで下さいとあれほど・・・っ!?」
遅れて路地裏に到着した綾火だが、立ち尽くすヴェルナと倒れてるプリズネス、
そして他に感じられる2人の気配で状況を察知し、囁いた。
「・・・ここは危険です。逃げますよ!」
そういうや、呆然としているヴェルナの腕を掴み、携帯している煙球を使い一目散に
大通りへ駆け出した。
「気付かれていただと!? ちっ・・・追うぞ!」
「あ〜、もう! 逃げられたらこっちの首飛ぶからな、行くで。」
「こうなったのも貴様のせいだからな・・・逃げられた時は覚悟しておけよ」
「へっ、俺らコンビが標的逃すっかいな」
・
・
「待たんかい、このガキ!」
・・・と、これが屋敷に向かって逃げている理由である。
もう1人の方はといえば、途中で綾火が食い止めるといい、足止めをしているようだ。
去り際の綾火の言葉どおり、人のいないような道は通らず、できるだけ人を壁にして
逃げ回っている。
・・・が、足は速いほうとはいえ、あくまで一般人レベルでだ。
動きなれている暗殺者から逃げきれるほど速いわけでもないし、スタミナも持たない。
別れ際に預かった足止め道具を使って逃げ回ってはいるが確実に距離は縮まっていく。
「はぁ・・・もう・・・煙球もないですの・・・」
他に持っている物といえば、常に携帯させられている短刀くらいなものである。
「足を止めるには・・・これしか・・・」
何か考えついたのか、息を切らせつつ細い横道に入り体勢を低くする。
(あのペースだと来るのは5秒後・・・チャンスは1度きり・・・)
目を閉じて静かに待つ。
(3・・・2・・・1・来る・・)
勢いよく曲がってきた所を足払いで転倒させようと試みるヴェルナ。
一方、完全に油断していたか回避らしい行動も出来ず、ものの見事に転倒する追跡者。
「ちっ、油断してもう・・・っ! ぎゃぁぁ・・!!! っ・・・」
起き上がろうとする前に近寄り、足に思い切って短刀を突き刺した。
その一撃は確実に相手のアキレス腱を捉え、切っていた。
「・・・ごめんなさい・・・」
誰にも聞こえないような声でそう小さく呟くと、再び大通りに出、走り去っていった
・・・
「ヴェルナ様、これからどうするので?」
「・・・・・・」
相変わらず無表情のまま聞く相手に対し、無言のままで荷物を纏めているヴェルナ。
ちなみに綾火のほうは「適当にあしらってきました」・・・だそうだ。
・・・どこか情けない暗殺者組である。
と、荷物を纏め終わったのかす・・・っと立ち上がり呟いた。
「使用人の方々には暇を出しておきました・・・。行きましょう。」
「どちらへ?」
「叔父の下へ・・・クレアにむかいます・・・」
「クレアに・・・確かにこのままココにいるのは危険ですが、今あちらに行くのも危
険すぎます。」
時は1250年。ちょうど帝国とクレアの間で起き、関係が悪化している最中である。
関係がピリピリしているときに、不法侵入など正気の沙汰ではないだろう。
「でも、ここにいてもあれなんでしょう?ならば、頼れる人がいる所に行くほうが・
・・」
「ヴェルナ様がそう決めたのなら何も言いません。」
「綾火もついてくるんですか?厄介事になりそうなら来なくてもいいんですよ?」
「構いません。どうせ行く所はないんですから。」
・
・
この日の夜、元いた屋敷は炎上し焼失する。
中にいるだろうという人物を狙った放火と見られているが真相は定かでないままであ
る。
ただ、父親の死と同日に忽然と姿を消したため知らぬ間に父親殺しの罪を着せられ賞
金首になっている。
本人は全く知らぬままに。
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