回想その4『挨拶回り』
ヴェルナ・H・エイザー
その日、ヴェルナは様々な所へ挨拶回りに行っていた。
新たに部隊を率いる身だし、関わりのありそうな人には会っておいたほうがいいとい
う葉隠さんの提言によってである。
就任した事情を話したり、世間話をしたり、愚痴を聞かされたりで想像以上に時間が
掛かっていた。
「はぁ・・・もう夕方ですの。まだ会ってない人は・・・」
パラパラと名簿を捲り、残り2人というのを確認した。
「エアード・ブルーマスター将軍と白峰渚将軍ですのね・・・」
そう呟き、トコトコと廊下を歩いているといつの間にか自分の部屋の横に戻ってきて
いた。
「いったん休んでからもう一回行ったほうがいいかな。」
そういい、部屋の扉に手をかけたとき、遠くから大きな声と共に二人組が走ってくる
のが目に留まった。
「せっかくエアード君のために新しく焼いた壷なんだからね、逃げちゃダメだよ!」
「うるさい! 毎日毎日壷をぶつけられたら体が持たんっ!」
「・・・あれは?」
ヴェルナには見覚えのない二人であるが、それがすぐに誰であるかがわかったようだ。
「あれがエアード将軍と白峰将軍ですのね。」
名簿の備考に青い髪の成年と、壷好きのお姉さん・・・とあったらしい。
・・・誰が作ったかは置いておくとして、とてもわかりやすい名簿である。
「挨拶をしておきますの。」
「ヴェルナ様・・・私に考えが。」
そういって二、三言呟くと呟くとヴェルナは小さく頷いた。
「確かに・・・普通に呼んでも無理みたいですし、そうしますの。」
そういい、走ってくる二人を見据えると、
「えいっですの」
「ぬあっ!(−−;」
逃げることに手一杯だったのかヴェルナの繰り出した足払いがキレイにヒットし、体
が宙に浮いたところを少し離れた所に待機していたお付きさんが掴み、部屋の中へ連
れて行ってしまった。
「ててっ・・・ん? 誰だ、おまえ?」
「あ・・・えっと、叔父様の後をついで部隊を率いる事になりました。ヴェルナ・エ
イザーと申します。宜しくお願いしますの、エアードさん。」
そういい、ペコリと頭を下げる。
「ん、あ、あぁ。よろしくな。(・・・もしかしてまた変な奴だったりするのか)・
・・それじゃ、俺帰るから。」
そういい、部屋から出ようとするエアード。
しかし、扉の前にはお付きが槍を携えて、無言で立ちはだかっていた。
「えっと、どうせだからご飯でも食べていってほしいですの。それに・・・今出たら
多分壷を持って待ち構えていると思いますけど。」
「うっ・・・」
待っている姿が容易に想像できたのか、それとも出すつもりがないと思ったかは定か
ではないが席に座る。
それを見て心底嬉しそうに、
「では、少し待っていてくださいですの」といい、奥のほうに入っていくヴェルナ。
(はぁ・・・どうして俺の周りには変なのが集まってくるんだ・・・。)
そう心の中で嘆き溜息をついていると料理を持って戻ってきた。
「お待ちどうさまですの」
持ってきた料理を一通り見てみる。・・・見慣れないのはあるが見た目に問題はない。
(いや、時雨のも見た目は問題ないんだ・・・問題は味・・・)
かなり警戒しながらスープを口に運ぶエアード。
一口口にした瞬間、首をかしげた。
(ん? 意外といけるぞ)
「えっ? 何か失敗でもしたでしょうか?」
「ん? いや・・・案外うまいなぁ・・・て」
首をかしげたことを不安に思ったか慌てて聞いてみるが、返ってきた答えに安心する
ヴェルナ。
「はぁ、帝国のだし、お口にあわないかと思ったんですけど・・・よかったですの」
暫く雑談しながらご飯を食べ終わり、ヴェルナがすっと席を立った。
「誰かとゆっくり楽しく話しながらご飯を食べたのは久しぶりですの、ありがとうで
すの。」
そういい、ペコリと頭を下げるともう一言付け加えた。
「デザートを持ってきますから、少し待っていてくださいですの。」
そういい、再び奥へ消えるヴェルナ。
(ふぅ・・・いきなり部屋へ連れ込まれたときはどうなるかと思ったが・・・案外マ
トモかも・・・な?)
その思考はヴェルナが戻ってきた瞬間、キレイに吹き飛ぶ事となった。
「・・・なんだ、コレ?(==;」
「えっ? え〜と・・・右から納豆ケーキに南瓜プリンに山葵アイスに・・・」
「・・・これを俺に食べろと・・・?(==;」
「はいですの。」
「こんなもん食えるか!」
外に聞こえるような大音量で叫ぶエアード。・・・当然の反応だろう。
「(うるっ・・・)酷いですの・・・一生懸命作ったのに・・・(うるうる)」
「とりあえず、俺は帰る。」
今にも泣きそうなヴェルナを後に、部屋から出ようとする・・・が扉の前には槍を持っ
たまま、無表情だが完全に殺気立っているお付きの姿があった。
「うっ・・・」
これ以上出ようとすると襲い掛かられかねない、そう思ったか再び向き直り、
「食べりゃいいんだろ、食べりゃ・・・」
「あ、今後のために感想下さいですの」
完全に諦めたのか流し込むように食べ、
「とりあえず、南瓜プリン以外は食えたもんじゃない、それだけ!」
そう言い残し、部屋から飛び出していった。
「あら、出て行っちゃいましたの。・・・エアードさんか」
ヴェルナは遠くを見るような目で、一言小さく呟いた。
「で、なんで渚がまだいるんだよ・・・(==;」
そう言われると、後の扉にある張り紙を指差した。
渚さんへ。一時間ほどエアードさんをお借りしますので、壷はその後でお願いしますね♪
新米のヴェルナより
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「なっ・・・」
「そういうわけだから、遠慮なく♪」
その直後、豪快な破砕音と悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。
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