ENDING STORY・Prologue
フィアーテ・V・S・B
――それはとある夢一夜
黒の上下に黒いコート、そしてサングラスといったいつもと変わらぬ格好で、フィアーテは深い霧の中を歩いていた。
「んー、えらい視界が悪いなぁ」
そう言いながらも危なげなくフィアーテは歩いていく。
最も、眼を閉じていても様々な気配を感じる事によって、周りを“視”れる彼にとっては霧だろうと光なき夜だろうと関係ないのだが。
そして、今彼は何故自分がこんな深い霧の中を歩いているのか思い出せなかった。
というよりも、彼の記憶は自分の部屋のベッドに潜って寝たところで終わっている。
「んー、何なんやろうなぁ」
しかし、あまり気にした風もなくフィアーテはその霧の中を歩いていく。
周りから感じる気配からしてどうやら彼が歩いているのはかなり広い樹海の中らしい。
暫く歩いて行くと、不意にフィアーテの前方に一つの人影が現れる。
その人影は、中々に大きな幹を持つ樹にその背を預けて胸の前で腕を組んで立っていた。
その人物は本来此処に現れる筈のない人物だった。
だが、何故かその姿を確認してもフィアーテはあまり驚かなかった。
「なんやっとんの? こんなとこで」
その人物の直ぐ傍まだ近づいて、フィアーテが口を開く。
「ふっ、解っているのだろう? ……貴方を待っていた」
樹に背を預けたまま、組んだ腕も解かずにその時人物は答える。
彼もまた、今の状況はごく普通な状況だと言わんばかりの様子である。
「俺に何の用や?」
フィアーテはその人物の丁度真向かいにあった樹に彼と同じようにして背を預ける。
そして、そのサングラス越しの視線をその人物の方に向けて返答を待つ。
「それも解っているだろう? 我らは一枚のコインの如きなればこそ」
その言葉を最後に二人の間に暫く静寂の幕が降りる。
そして、時は静かに流れて――
フィアーテの真向かいにいる人物がその静寂の時を終わらせる。
「太陽が輝けば、月もまた輝く」
「光あれば影が生まれるように……ってか?」
その人物の言葉を受けて、笑いながら言葉を返すフィアーテ。
――そして、彼らを包む深き霧は更にその深さを増していった。
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