(0)注意 本文章は2000年にALICESOFTが発表した恋愛ADV『SeeIn青』のレビューである。 あと、この記事の中には、同作品に関するネタバレ記述が存在する。ネタバレ部分については、文字を白色で書いておくため、「読んでみたい」という方だけ読んでもらいたい。間違って「全て選択」なんてしないように。 追記(2001年10月2日):ゲストの18様からのコメントを頂いたのでこちらにて御紹介。 |
(1)そもそもどういうゲームなのか 繰り返しになるが、本作品は2000年にALICESOFTが発表した恋愛ADVである。 舞台となったのは現代から数十年(?)ほど未来の海洋都市。主人公達はこの海洋都市に設置された海洋学園(おそらくは高専もしくは大学)の生徒である。7月1日から7月21日までの21日間に、主人公と彼らと親しい間柄にある女性達との間で展開される現代劇的なドラマを楽しむ……というのが主な内容である。平べったい描写として言えば、近未来という設定を使った学園物ADVである。 ゲームに登場する女性達は6人。簡潔に紹介したい(ただし、機密情報に属する部分は伏字で書いてある)。 帆波結衣 主人公の従妹。幼い頃に姉を亡くしており、その時の罪悪感に今でも悩まされている。6人いる女性達の中ではもっとまとも(?)な設定の持ち主。 姫咲琴里 7月4日の深夜に、主人公が海底のとある研究施設から「救出(強奪?)」してきた女性。言葉を直接交わすことはできないものの、主人公達と意思疎通を行うことはできる。その正体は実の祖父による生物実験の被験体。ゲーム終盤では、研究者である祖父との対決が描かれることになる。 グッドエンディングが2種類存在する。2つ目のエンディングを見る為には2周目を最初からプレーしなければならない。 如月美夕 主人公よりも3歳年下の女性。引っ込み思案な性格で、妹(↓)とは好対照をなす。夏休みに入る頃に会える予定となっている両親のことを待ち続けている。ただし、実際には両親は既に他界。ゲーム終盤で彼女はこの事実を突き付けられることになる。 如月優美 主人公よりも3歳年下の女性。明朗活発な性格で、姉(↑)とは好対照をなす。その正体は美夕の両親によって作られた生体アンドロイド。ゲーム終盤になると、生体アンドロイドとしての機能に衰えが生じ、あたかも不治の病を患っている病人のような状態になる。 高坂雪之 主人公が「先輩」と呼ぶ年上の女性。人格者の祖父の手によって育てられた人格者の女性で、現在は1人暮らし。実際には捨て子であり、後に実の両親の死去に伴い、遺産相続問題に巻き込まれてしまう。 成瀬涼 政府機関に属する謎の女性。実年齢はかなり高いはずだか、外見は生体処理により子供のままである。ある組織が保管する謎の薬品を追って活動するが、その行動には彼女の個人的事情も隠されている。 2回目プレー以降で攻略開始へのフラグが出現する。 なお、本ゲームの攻略に際しては、「Kimuhiro's Laboratory」を参考にさせて頂いた。この場を借りて謝辞を述べさせて頂きたい。 説明不要だと思われるが、本作品は18歳未満プレー禁止の一品である。ゲームとしては純愛系に属するのだが、設定で「陵辱イベント」のON/OFFを切り替えることができる(これがまた物議を醸し出すことになるのだが……)。 |
(2)私が下した評価 さて、まず最初に、本作品に対して私が下した評価を改めて紹介したい。
ALICESOFTの製品にしては信じられないほどの低難易度である。基本的には、1キャラオンリープレーで問題無くエンディングまで辿り着けるし、陵辱ルートへの分岐もあまりにはっきりとしている。途中に出現する選択肢も、少し考えればどちらが正解なのかすぐに分かるような仕組みになっている。その点では、気をてらったゲームシステムを全て捨て去った単純な恋愛ADVとして本作品が作られたものと考えることができる。手応えが無いのは恋愛ADVには本当によくある話だしそれはどうでも良い(これは本作品のみの問題というよりも、恋愛ADVというジャンル全体に対する一種の偏見かもしれない)。 新設された陵辱シーンのON/OFF機能だが、アイデアとしては面白いが、本当に必要だったのかどうかについては一考の余地がある。何にしても、陵辱シーン見たさにONにする人間が山ほどいることだろう。あと、結衣、優美、美夕の3人については、陵辱シーンと本編ストーリーの関連性が全く存在しない。とって付けたような印象が拭い去れず、そこが残念であった。 また、海洋学園での授業が淡々と描写されていることも意外であった。てっきり、海に潜っている間に、本格的な宝捜しゲームでもするのかと思っていた(今までのALICESOFTだったら、この程度は平気な顔をして実行に移していたかもしれない)のだが……。 女性達の性格や経歴などは特に問題無い。ただし、この中では、生体アンドロイドだった優美と、生体実験の被験体とされていた琴里の2人が特殊な位置付けとなっている。 琴里シナリオについてだが、これは一見すると童話『人魚姫』をモデルにしたようなストーリーが展開されている。1回目のエンディングでは、童話通り彼女は主人公を残したまま海へ去り、スタッフロールは流れるものの「ハッピーではない」エンディングを迎える。ただし、2回目のエンディングでは彼女を引き止めることも可能になり、半年間の治療期間と、その後の半年間の植物人間状態を経てから、彼女は「奇跡的に」意識を取り戻すのである。ただし、この間、主人公が連日のように彼女の元を訪れているので、「一方的に与えられた奇跡」という色合いは薄められている。 優美シナリオでは、AIの記憶をリセットしてアンドロイドとしての彼女の生命を維持するのか、記憶を保持したまま彼女の短い一生に幕を下ろすのかを選択することになる。双子の姉である美夕シナリオでは強制的に前者の選択肢が選ばれ、姉だった美夕が妹で、妹だった優美が姉になるという生活をスタートさせることになる。一方、優美シナリオでは強制的に後者の選択肢が選ばれ、優美は主人公の子供を残して他界してしまう。いずれの道を進むにせよ、眼前に提示されるのは、安易なハッピーエンドへの道を拒否するという厳しく現実的なストーリー展開である。『Kanon』で多用されていた奇跡というモチーフは用いられることは無い。描写としては結構痛いのだが、話の完成度という観点から言えば、安易な御都合主義を持ち出されるよりも良い結末ではないだろうか。 この2シナリオに限った話ではないが、本作品ではSF的な設定と現実的なストーリーを前面に出すことによって、ファンタジー性の部分をできる限り消そうとする試みが行われている。「元からファンタジーなんて存在しない世界だ」と見ることもできるが、現代でありながらファンタジーを持ち出した『Kanon』などの例もあるため、ファンタジー性の部分を消そうとした努力はやはり注目されて然るべきであろう。 「現実」という言葉を多用し、神という存在を「無慈悲に平等」と描写しているところなどは、本作品のクリエイター達が『Kanon』に代表されるようなファンタジー性の強いストーリーを意識して──これらの作品に対する一種のアンチテーゼとして本作品を作ったようにも感じられる。これが邪推なのかどうかは各人の御判断に委ねたい。 |
(3)評価が低い理由 御覧になれば分かるが、私はどちらかというとこの作品をプラスに評価している。 しかし、インターネットでの総評としては、本作品に対する評価は思っていたほど芳しくない。本作品のレビューを行っているサイトの1つ「ドグラ・マグラの演繹法」では、100点満点で28点(客観評価28点+主観評価0点……なのだろうか?)という物凄い低点数が付けられている。 では、全般的に評価が低い理由は何なのか? 結論から言ってしまえば、本作品は「ALICESOFTらしくない」作品だから、ということになる。 そもそも、ALICESOFTに対して世間一般の人が持つブランドイメージとは、こんなものだと思われる。 (a)陵辱系18禁描写も躊躇わずに行う。 (b)ゲームとしての作品を作る。 (c)ゲームとしてのボリュームはたっぷりあり、クリアまでに20時間必要な作品も珍しくない。 (d)眼鏡着用者は標準で登場(^^;)。 実は、本作品『SeeIn青』は、上記の4つの条件全てと異なる要素を兼ね備えているのである。 まず(a)。本作品で18禁シーンを閲覧する方法は2つ存在する。1つ目はグッドエンディングを迎える場合。ここでは、成瀬涼を除く5人について純愛物の18禁シーンが表示される。成瀬涼については……概観としては陵辱系だが、被害者の側に「同意」がある点から見るに、純愛系の要素も引きずっていると解釈しておきたい。陵辱系18禁シーンの閲覧の為には、設定をいじくって陵辱イベントをONにせねばならず、しかもその描写は純愛系18禁シーンと比較すると抑え目で量も少ない。ゲーム全体としては、誰がどう見ても純愛系なのである。 しかし、これはALICESOFTが作るソフトとしては比較的異例なことである。純愛系と陵辱(鬼畜)系の2つの18禁シーンをゲームシステム的に巧みに結合させることに成功した『ママトト』とか、名前と雰囲気から鬼畜なことばかりしている『鬼畜王ランス』『DARCROWS』とは大違いである。その他のゲームでも、陵辱系のシーンと純愛系のシーンは両方ともしっかりと用意されていたような印象を持っている。 それを考えると、事実上「純愛オンリー」な本作品はかなりの異色作になるのではないだろうか。 続いて(b)。これについては、そもそも恋愛ADVにおける「ゲーム性」が何であるかを少しでも考えていただければ良い。しかも、今回の作品では、放課後の時間管理のルールが『ToHeart』に似ている上に、放課後に行われる女性達との会話で選択肢が登場することが殆ど無い。つまり、ゲームとしては1人の女性だけと会い続ければ(しかし、この行為ってストーカーと紙一重なんだよな……)グッドエンディングを迎えることができるのである。はっきり言うが、戦略性やゲーム性は皆無に等しい(って、普通の恋愛ADVは大体そうだよな)。 これも、ALICESOFTの作品としては珍しいほうに属する。 (c)についてだが、私がプレーした時、6人全てをクリアするまでに掛かった時間は10時間。1回目は2時間ほど掛かるのだが、メッセージの重複部分が長いため、2回目以降のプレー時間はかなり短縮されている。メッセージを容赦無く飛ばしてプレーしたら、8時間か9時間でクリアできるかもしれない。 何か短いなあ……。これでCGと回想シーンが100%になるんだよな……。恋愛ADVとしても難易度が低過ぎるからなのだろうか……。 (d)だが……ノーコメント……だめ?(^^;) 眼鏡着用者は男性に限られている。これは本当。まあ、海洋学園という場所では、眼鏡を着用していること自体が学業に致命的な支障を及ぼしかねないような気がする(パイロット養成学校における視力制限のようなものか)ので、設定として間違っているわけではない。しかし、現代を舞台にしたゲームなのに眼鏡を着けていない人間だけとは……あの部長もあきらめがついたのか(^^;)。 ……以上のように、本作品はALICESOFTの作品としては異例尽くめであるとも言える。 この異例尽くめの新作が、今までのALICESOFTのファンから見れば奇異に映った……と見るのは考え過ぎであろうか? さて、最後に、ALICESOFTがこんな変わった(?)ゲームを発表した経緯が何なのか、考えてみたい。 これは私の憶測になるが、おそらく、今までのブランドイメージによって同社のソフトを敬遠していた一部の客層にターゲットを絞って──新しい客層の開拓という前向きな目的で、ALICESOFTは本作品を発表したのではないだろうか。その結果、今までの「ALICE教信者」からは「今までとは全然違う」と反発を招くことになってしまっているようだ。 また、バックログ参照機能やメッセージの未読/判別機能など、最近のADVでは標準装備されることが多い機能が付いていない点も問題である。これは専ら、ALICESOFTが一般に公開し、自社ソフトの製作にも利用しているゲームソフト作成エディタ(だったっけ?)の問題になるのかもしれない。RPGやSLG、SRPGならば、バックログ参照機能が本当に必要になることは滅多に無い(あったらあったでありがたいけど)し、メッセージの未読/既読判別機能なんかは、ADVでないとまるで意味が無い(こっちもあったらあったでありがたいけど)機能である。エディタ自身がADVに向いていない設計になっているのかもしれないが、そこから先はプログラマーなど専門家が論議して欲しいので、私は口を挟まないことにする。 どちらにせよ、本作品はALICESOFT自身にとっても、そしてALICESOFTの熱狂的なファン(私の知人に1人存在する)にとっても、「慣れない体験」になったようである。そして、残念ながら、(熱狂的なファンに限れば)この慣れない試みは不調に終わってしまったようである。 個人的には、本作品で初めてALICESOFTの作品に触れた方の御意見をどうしても伺いたいところである。 |
(4)『SeeIn青』がALICESOFT初経験者だった方による体験談 さて、前節にて「本作品で初めてALICESOFTの作品に触れた方の御意見をどうしても伺いたい」と御意見の募集をお願いしたところ、本作品がALICESOFTのソフトの初経験(実は18禁ゲーム初体験)である18様から貴重な御意見を伺うことができたので、本コラムの最後に御紹介したい。家庭用ゲーム機向けソフトでの事例を踏まえた内容であり、筆者も非常に参考になった。この場を借りて、18様に厚く御礼を申し上げたい。 なお、黄緑色の背景が付いている部分の文章は18様に著作権が属するものとする。
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