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『CAMPUS』に眠る指向性爆弾の正体

(0)注意

 ここには『CAMPUS〜桜の舞う頃に〜』に関する重度のネタバレ情報が多数記載されている。S.N.様のコメントではないが、これから本作品をプレーしようと考えている方は、以下のコーナーは見ないほうがよろしいと考えられる。この作品はネタバレ部分を知ったときの驚愕が最も得も面白い点なのであるから……。


(1)登場人物のおさらい

 では、まずは本作品に登場する主なキャラクターの顔触れを紹介してみたい。

高坂隆景
 主人公。理系の学生で、占いに凝っていた時期がある。論理的な独白をすることが多いが、それを除けば概ね「常識人」として捉えることが可能。大学内では硬派な学生として知られており、隠れた女子学生のファンも多いらしい。

高坂舞子
 主人公の義理の妹。文学部1年生。虚弱体質で貧血持ち。両親を交通事故で失っており、兄(主人公)と共に叔父の家で暮らしていた。趣味は料理で、その腕前はなかなかのもの。一応のメインヒロイン……らしい。

小和田優夏
 大学の後輩。文学部2年生。美術部に所属しており、その腕前は優れている。料理下手。主人公は彼女にかつての恋人であった篠原美冬の面影を見出しているのだが……。

柊真由美
 隣家に住む幼馴染み。文学部3年生。明朗活発な性格で人付き合いも多い。ここに居並ぶ6人のヒロインの中では最も「常識的な」人。

立花智里
 高校に所属していると思われる少女。学校をサボって大学に現れることもある。占いに凝っている。現在、彼女は別のところで恋人の男性を1人持っており、彼との関係をどうすべきか悩み、主人公にそのことを相談するのだが……。

杉部奈穂
 大企業オーナーの令嬢。教育学部4年生。人見知りが激しく、典型的なおっとりボケボケの無邪気な性格の持ち主。ピアノの趣味あり。

池柳彩女
 高原黒沢神社に勤務する巫女。シロ(デスラー)という名前の飼い犬がいる。「タイトルと脚本の整合性」という観点から見れば、彼女が実質的な「主人公」であり、その人気も高いと聞く。


(2)ストーリーに埋められた「指向性爆弾」の正体

 では、S.N.様の紹介文にあった爆弾の正体について、私なりに分析を加えてみたい。

 ネタバレの無い紹介文でも触れたが、本作品のゲームシステムは典型的なヴィジュアルノベルである。フラグ管理の構造が多少特殊であり、Stage16まで存在する選択イベントの中で、特定の女性と一定回数だけ接触することによってイベントが進展する。女性達との会話に登場する選択肢の中で、特定の選択肢を間違って選んでしまった場合、その女性に対する攻略が強制的に中止させられたり、別の女性に関するEDへ直行したりするケースがあり、難易度が低いとはいえ攻略には注意を要する。CG回収が困難なことも特徴の1つであり、高坂舞子編では、あたかも調教SLGをプレーしているかのような計算されたイベント進行を行わないと、CGを20枚全て回収することができない(通常のセーブ・ロードの繰り返しでは17枚が限度のはずである)。
 さて、本作品における指向性爆弾は、設定と脚本の両方に埋め込まれている。以下、重度のネタバレにつき、字を全て白色に反転させている。中身を知りたくない方は「全て選択」を選んで字を反転させないように。印刷もまずいのでそのおつもりで。



<ここからネタバレ>
●設定における指向性爆弾
 まず、柊真由美と立花智里は同一人物である。柊真由美が本来の彼女の姿であり、立花智里は柊真由美が変装した姿である。その風貌(金髪の鬘を使用している)や服装(柊真由美はズボン、立花智里はフリルのついたロングスカート)、言動(柊真由美は男のような言葉遣いをしていたのに対し、立花智里は年下──高校生のような言動だった)は正反対であり、びっくりされたプレーヤーの方も多いはずである。しかし、2人のストーリーが重なっている点や、パッケージに描かれている女性の数が5人だけだった(柊真由美が抜けている)点など、後から振り返れば「気が付く人がいてもおかしくはない」と感じられた。
 本作品の中では人気がそれなりに高かった立花智里であるが、その正体が柊真由美だったと聞いた時に、ファンが受けた衝撃の大きさは推して知るべきものがある。ギャルゲーの中でも、ここまでキレた(それでいて感心させられる)設定は私も見たことが無い。

 続いて池柳彩女。大人しく冷たさを感じられる性格の持ち主である。他人とは距離を置こうと振る舞っている彼女であるが、その正体は戦国時代に生まれ、事故で不老不死になってしまった巫女。彼女とのストーリーが進行した場合、事故の原因となった不老不死の術を解呪するためのイベントが発生する。……まあ、このシナリオの出来は良いので、「爆弾」と称するほどの危険な設定ではない(非日常的ではあるが)。

 同様に、「爆弾」と言うほどのものではないが、小和田優夏の設定も変わっている。彼女は主人公の元恋人の腹違いの妹である。参考までに。

●脚本における指向性爆弾
 純愛系恋愛ADVと世間一般には考えられている本作品であるが、高坂舞子のシナリオだけ、どういうわけか調教物の18禁ゲームのように感じられた。主人公のことを「隆景お兄ちゃん」と呼ぶ女性と日夜(検閲削除)な行為に及んでいるらしい……というか、18禁シーン以外のイベントが殆ど無い!
 いいのか、それで? 曲がりなりにも、本作品は純愛物だぞ?(私はこれでもいいけど)


 ……で、結局、「特殊な背景が無い」「普通の恋愛物の話だった」という意味でまともな設定と脚本を持っていたのは杉部奈穂だけということになる。


(3)最後に

 本作品に埋め込まれた「指向性爆弾」は、特定の女性キャラクターに対する萌えプレーを実践しているプレーヤーに対して発動しやすい構造になっている。パソコンのモニターを見て「ああ、××ちゃんいいなあ〜」と愛情(?)を寄せるプレーヤーが、その萌えの感情に水を差してあまりあるような奇抜な設定とストーリーを見せられることになるのである。
 だから、萌えプレーを全くしないようなプレーヤーが本作品を見た場合、「ああ、なるほど、そういう設定もありだな」「こういった幕切れのほうが現実的じゃないのか」と素直に感心(納得)したり(私が抱いた感想もそうだった)、「これはやり過ぎだろう」「さすがにまずいのではないか」と少し引いた立場に立ち冷静に批判してたりすることが可能になる。しかし、この萌えプレーを実践中のプレーヤーがこれを見てしまうと、とんでもないことになる。「女性との関係を進展させたのに、この幕切れは何だ」と驚愕し大きなショックを受けることになる。そこで「ああ、元からこういう話だったんだな」と納得するか、「こんな大どんでん返しがあるなんて素晴らしい」と賞賛するか、「ギャルゲーマーの萌え感情を無視し過ぎている」と怒りを露にするかは各プレーヤー次第である。
 ただ、正直申し上げると、萌えプレーなんて1回もやったことが無い私にとっては、萌えプレーを実践中のギャルゲーマーの心理というものはあまり分からない。「知ってどうする」と言われればそれまでであるが。

 何にせよ、私の場合、本作品の「設定が物凄い」点が十分に楽しめたことだけは確かである。


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