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『What is "Frontier"?』

(0)はじめに

 ゲームボーイ時代の『SaGa1』からはじまり、1999年時点で合計8作を世に送り出した『SaGa』シリーズ。独特な世界観と独自の戦略性が要求するゲームシステムなど、本シリーズがRPGの中でも特異な地位を占めていることはどなたも異存が無いものと思われる。その特異性が好きか嫌いかは皆さんのお好みであろうが。
 さて、本シリーズは舞台をPlayStationに移すにあたって、タイトルを『Romancing SaGa x』から『SaGa Frontier x』(xにはどちらも数字が入る)に変更した。"frontier"という単語は英語で「新天地」という意味であり、河津秋敏氏をはじめとする開発スタッフが「新しいものを作り出したい」という意欲を以って『SaGa』シリーズの続編を製作したということをうかがわせる。『SaGa Frontier』については、当初は『Romancing SaGa 4』としての製作も検討されていた時期が存在するらしい(『サ・ガ フロンティア 裏解体真書』参照)のだが、そこで『ロマサガ』の名前を捨てたことからも、何となくは御理解して頂けたのではないだろうか。
 ただし、開発スタッフの意気込みによって生み出された新境地が、プレーヤーに受け入れられたのかどうかは全くの別問題である。そこで、このコラムでは、『SaGa Frontier』及び『SaGa Frontier 2』のレビュー詳述を兼ねて、『Frontier』で何が変わったのかを追ってみたい。
 なお、一部の記述は「THE CONSUMER」に掲載された2作品のレビューと重複しているが、その点は御了承願いたい。


(1)『Romancing SaGa 3』から『SaGa Frontier』へ

 まずは、1995年発表の『Romancing SaGa 3』と1997年発表の『SaGa Frontier』の比較である。
 『Romancing SaGa 3』はSFC時代の『SaGa』シリーズの最終作。某雑誌社が行った読者アンケートでは、「1995年の最優秀ゲーム」という絶賛に近い評価を獲得している。フリーシナリオでありながら、四魔貴族関連のイベントが精緻に組まれていたり、会社買収(トレード)や会戦(マスコンバット)のイベントが用意されていたりと、様々なミニゲーム(?)も存在。また、戦闘システムでは『Romancing SaGa 2』の陣形ルールが継承され、複数人数による合成術やコマンダーバトル(主人公抜きでのオートバトル)も新登場した。そのため、『Romancing SaGa 3』のサラ編では主人公抜きのラストバトルという前代未聞の怪現象(?)も発生している。
 さて、ゲームの舞台がPlayStationに移行し、何が変わり何が昔のまま残されたのであろうか。

前作から継承された点
(1)派手なエフェクトが飛び交う戦闘シーン
 術・技のエフェクトがとにかく派手。キャラクターやモンスターのアニメーションを犠牲にしてまで、エフェクト最優先のグラフィックに仕上がっている。そのため、「アニメーションが下手」という批判が出ることもあった。
(2)閃きのルール
 いつもの豆電球である。
(3)伊藤賢治氏が手掛けた音楽
 マニアの間では「イトケンワールド」と称され高い評価を受けている。今回は開発2部(7シナリオを全てクリアすれば登場する)で氏の手掛けた楽曲のほぼ全てを味わうことができる。
(4)小林智美氏によるキャラクターデザイン
 社内でもある程度のデザインがなされているため、「イメージイラストレーター」とも評することができるのだが、小林氏の描くイラストが『SaGa』ワールドに必須のアイテムとなっていることは間違い無い。
(5)設定資料や背景情報が開かされず謎の多いシナリオ
 これは河津秋敏氏の悪い癖である。
(6)多種多様なサブシナリオ
 今回のサブシナリオのメインとなっているのは、術素質入手の旅である。


前作から変更された点
(1)連携のルール
 格闘技の空中コンボ的な要素を戦闘に取り入れることを目的として用意された新ルール。ある一定の法則に従って技と術が繋がり、敵に対してより大きなダメージが与えられるようになる。ただし、本作品では「運任せに技を出していたらいつの間にか繋がっていた」ということが多く、作為的な連携が戦略的に重要となった『SaGa Frontier 2』とは大きく異なる。
 それでも「塔跳弾塔跳弾塔」のような6桁ダメージを叩き出す大技が登場していたが……。
(2)「リージョン界」という特異な世界設定
 リージョン界という世界は、GB時代の『SaGa』と似たような世界構成となっている。そのため、これは「真新しい」のと同時に「温故知新」的な要素であると言えよう。
 リージョン界という世界観に対しては、「世界観を構築しなかったのと同義であり責任放棄ではないか」との批判も上がっているが、私は必ずしもそうとは考えておらず、「こんなごっちゃ混ぜの世界があってもいいじゃないか」と思う。ただし、せっかく作り上げたリージョン界の設定を、ゲームシステムの中で積極的に生かす努力が不足していたのは否めない。本作品では、リージョン毎の特性がシステムに反映されているのは術習得のルールだけであった。レビューにおいて世界観に関する評価が低いのは主としてこの点に因る。
(3)メカ・モンスター・妖魔(半妖)・ヒーローという新種族
 「『ヒーロー』は新『種族』か」という突っ込みは却下(^^;)。
 メカとモンスターはGB時代に登場したことがあり、この点も「真新しい」のと同時に「温故知新」的である。
 種族の多様化については、「まあ妥当なところだろう」というのが率直な感想である。パラレルワールド的な世界観とも矛盾していない。種族毎に異なったルールが用意されるため、プレーヤーが覚えるべき事柄が増えたことは事実であり、その点を批判する方の姿も見られた。ただ、「覚えるのが面倒ならばその種族を外してプレーすれば」万事めでたく解決するのである。この点については特に目くじらを立てる必要も無いであろう。
(4)短時間で終わるストーリー
 これが過去6作品からの最大の変更点であり、本作品を「Frontier」たらしめる要素である。
 「RPGを楽しむだけの時間的余裕が無い」という社会人を意識して作ったであろうが、1キャラ当たりのプレー時間が10時間前後にまで短縮されたのである。主人公総数は7人であるので、70時間か80時間を使えば全キャラクリアも達成できる。
 「長いストーリーを1本」ではなく「短いストーリーを7本」という構成になったことにより、過去のRPGでは怖くて挑戦できなかったような試みにも挑戦することが可能になった(アセルス編やレッド編)。また、数十時間の拘束を要求される大作RPGがプレーできなくなった社会人に対しても、このサービスは嬉しいものに感じられるはずである。
 しかし、1本の長さが短くなったことにより、シナリオが書きにくくなったことは事実である。また、大作志向のプレーヤーから見たら、本作品は「短編集」であるが故に物足りなく感じられるはずであろう。本作品全体に対する評価というのは、「短編集」的な構成を受け入れられるか否かで大きく変化してしまうのである。
 ただし、シナリオそのものについては、まだ『Romancing SaGa』時代からのフリー性が少なからず残されており、過去のシリーズからの要素を継承した部分も残されている。


 全体として見れば、『Romancing SaGa 3』から『SaGa Frontier』への移行時に変化した要素は、(1)連携のルール(4)短時間で終わるストーリーの2点に集約されるであろう。ただし、過去のシリーズから継承された要素も多いのもまた事実である。


(2)『SaGa Frontier』から『SaGa Frontier 2』へ

 では、前項と同様に、『SaGa Frontier』と『SaGa Frontier 2』の比較を行ってみたい。

前作から継承された点
(1)派手なエフェクトが飛び交う戦闘シーン
 説明省略。
(2)閃きのルール
 説明省略。ただし、今回は技・術を合成することによる習得が認められているため、豆電球のルールの存在価値が低下したような印象を受けることは事実である。
(3)小林智美氏によるキャラクターデザイン
 説明省略。
(4)設定資料や背景情報が開かされず謎の多いシナリオ
 歴史物を扱った作品で、設定情報が明かされないことはあまりに致命的である。
 歴史をテーマにした作品は膨大な量の設定情報によって支えられている面も大きい。だが、設定情報は存在しているだけでは駄目で、ゲーム中で公開されて初めて世界に奥行きを与えることになる。歴史物の作品で評価が高い『Orge Battle SaGa』シリーズ3部作や『Final Fantasy Tactics』などでは、データベース機能が搭載されており、設定情報や過去のシナリオを自由に閲覧することが可能だったのである。ところが、本作品にはそれが無い。
 DiGiCube社の発表した『サ・ガ フロンティア2 設定資料集』には設定資料が山ほど転がっており、そちらを見ればファンも満足できるのだが、やはりゲーム中に設定情報をもっとオープンする努力は必要だったのではないだろうか。


前作から変更された点
(1)デュエルシステム
 パーティーメンバーが1人でも楽しめるような戦闘システムを作ることを目的として作られた戦闘システムであり、「斬る」「突く」などの動作を4回入力することによって戦闘を進めていく。技・術の合成はここで行われる。「1人連携」とも呼ばれることのあったこのシステムは、パーティー戦闘が基本であった過去の作品とは大きく一線を画している。豆電球の存在意義を低下させたという点では、少し寂しいものを感じさせるが……。
 本作品では、この他にもHP及びLPルールの変化や、アニマ・ツール・クヴェルを使った術管理のルールなど、過去のシリーズには無い新要素が目白押しである(しかも、その新ルールが世界観にマッチしているところがすごい)。
(2)作為的な連携の演出
 運任せの連携が中心だった前作とは異なり、本作品では、作為的に連携を生み出すことか可能になるゲームシステムが用意されている。逆に言うと、4連携などは作為的に作らねばならないことをも意味している。中ボスなども、連携を駆使しないと苦戦を強いられるほどのバランス設計になっている。
(3)フリーシナリオの放棄
 本作品では自由にシナリオが選択できるようになるのは2回目以降のみであり、1回目のプレー時には原則として歴史年表に従ったストーリー進行となるのである。本作品は1本道ストーリーだ述べても過言ではない。また、歴史の流れ方も原則として単一。主人公の行動によってストーリーが大きく変化する点といえば、「ウィル・ナイツの妻が誰になるか」と「ギュスターヴ13世が建設したハン・ノヴァの街並み」だけらしい。「ヒストリーチョイス」というタイトルにフリーシナリオの匂いを感じ取った諸氏もおられることだろうし、「主人公達の行動次第で歴史が大きく変革されるのでないか」と思った方もおられるかもしれないが、それらの期待は裏切られてしまったようである。特に、ゲームシステムとしてのフリーシナリオは影を潜めてしまったように感じられる。
 私自身はマルチ性・フリー性の無い1本道ストーリーでも十分に楽しめる人間であり、歴史物のRPGには心惹かれていたので、これらの点に不満を感じることは無かったのだが、「フリーシナリオじゃない」という批判が出ることも多い。私はこれを「『サ・ガ』シリーズが『新天地』へ向かうために、敢えて昔からの遺産であるフリーシナリオを切り捨てた」というように感じ取ったのであるが……。
 歴史の一場面を「切り取って」楽しむという方法論が用いられたため、町などの施設が自由に使えなくなるとか、1人のキャラクターへの感情移入が難しくなったとかいう弊害はあるが、これは85年間という長い歴史を観察することを目的として作られた作品であるが故、仕方の無いのかもしれない。
(4)BGM作曲者の変更
 スクウェア社内で何があったのかは全く分からない。
 だが、今まで『SaGa』シリーズで作曲を担当し続けていた伊藤賢治氏の代わりに、新たに濱渦正志氏が作曲家として起用された。濱渦氏の曲の作り方は伊藤氏とは大きく異なっており、2ないし3種類のメインテーマを表情豊かに奏でるという手法が採られている。前出の『設定資料集』などで、同氏は「純粋に音楽を突き詰めること」を目標にし、「たくさんのゲームファンに受けよう」とすることは目指していなかったことなどを話している。
 何はともあれ、氏の作った楽曲が中世風の作品内世界にマッチしており、非常に良い出来であったことだけは確かである。


 『SaGa Frontier』から『SaGa Frontier 2』への移行時に変化した要素は、(1)デュエルシステム(3)フリーシナリオの放棄(4)作曲者の変更の3点が特に重要である。この変化は『Romancing SaGa 3』から『SaGa Frontier』への変化と比較したら、あまりに劇的である。


(3)総評

 『Romancing SaGa 3』から『SaGa Frontier』へ、そして『SaGa Frontier』から『SaGa Frontier 2』へ移行した時に現れた新要素という観点から、『SaGa Frontier』と『SaGa Frontier 2』のレビューを試みた本稿であるが、結局は事実関係の列挙に終わってしまった感がある。
 私の率直な感想としては、

●『SaGa Frontier』は基本的に過去のシリーズの延長線上にある
●真の意味で"Frontier"なのは『SaGa Frontier 2』のほうである


 といったところであろうか。
 ちなみに、「『SaGa Frontier』と『SaGa Frontier 2』のどちらが好きか」と問われたら、私は迷うこと無く「『SaGa Frontier 2』のほうが好き」と答えるであろう。


おまけ

 前出した作曲家の話題を書いていてふと気付いたことであるが、スクウェアのゲームで「音楽が悪い」という批判があがったことはほとんど無かったのではないだろうか(私の思い違いかもしれないが)。スクウェアというRPGのトップブランドを真に支えているのは、ゲームシステムでもグラフィックでもなく、実は音楽とそれを産み出している作曲家・サウンドプログラマーなのかもしれない。


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関連リンク

SQUARE(『SaGa』シリーズ製作元)


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