注意 タイトルにあるように、本文章はSROM様から御投稿を頂いた『智代アフター 〜It's a Wonderful Life〜』(Windows98以降)レビューです。 ですので、背景が黄緑色となっている部分(レビュー本体)の著作権はSROM様にあります。ただし、当図書館長のほうで、一部記号文字の置き換えなど、文の意味を損ねない範囲で必要最低限の編集を行っております。 |
『CLANNAD』の続編である『智代アフター』のレビューである。ネタばれにご注意頂きたい。 概要: 2005年11月25日にKeyより発売されたADVゲームである。前作『CLANNAD』は全年齢対象ゲームであるのに対し、本作は18歳以上対象である事に注意して頂きたい。また本作は、key作品で初めてフルボイスを実現しており、原画担当が従来の樋上いたる氏からフミオ氏に変更されている。 タイトルにあるように、本作は、『CLANNAD』で主人公岡崎朋也とヒロイン坂上智代が結ばれた後の物語である。高校を卒業した岡崎朋也は、町の廃品回収業者に就職し、実家を離れ一人暮らしを始める。智代は同棲している訳では無いが、朋也の家に赴いて料理や選択など身の回りの世話をしている(なお、智代は朋也の一つ年下であり、本作開始時点ではまだ学生である)。また朋也は、智代の弟である鷹文になつかれており、良く朋也の家に遊びに来ている。 物語は、ある日鷹文が幼い子供を朋也の家に連れて来る所から始まる。この少女(とも)は智代の父親と愛人の間に出来た隠し子であり、智代・鷹文とは異母兄弟という事になる。実の母親と共に暮らしていたが、父親に会いに行くという理由で坂上家に来た(実際にはこの時点で母親に捨てられている)。偶然、最初に鷹文がともを見つけるのだが、ともを父親と母親に会わせる事により家庭が崩壊する事を恐れ(智代の父親はともを認知していない)、朋也の家に連れて行く。そこで、朋也にともの父親を演じてもらうように頼む。ともは、朋也を自分の父親、智代を義母(朋也の妻)と思いこむ事になる(智代を「パパのママ」と呼んでいる)。 当初ともは一時的に父親の元に預けられたと思われていたが、実際には実の母親が捨てた事が後に判明し、朋也が捜索する事になる。結果母親を見つけ、ともと再会させる事に成功するのだが、母親は一方的にともに離別する事を告げて立ち去る。それを見て不憫に思った智代は、ともの母親代わりになる事を決意する。 朋也、智代、とも、鷹文、そして鷹文の元彼女である可南子が加わり、5人での生活が始まる(鷹文は寝泊りは自分の家でしているが)。大まかではあるが、これが『智代アフター』の冒頭である。 本作のシナリオは、ともが再び母親と暮らすようになるまでの前半パートと、朋也が記憶喪失になる後半パートの2つに分かれる。 キャラクター雑感: 本作の主要なキャラクターは、主人公岡崎朋也、ヒロイン坂上智代の他に、鷹文、可南子、ともである。 岡崎朋也)
『CLANNAD』における朋也は非常に無気力な少年であった。生活態度も悪く、学校内で不良として有名だった。智代シナリオでは当然ながら智代と恋人関係になるが、生徒会長になり学園内で頼れる存在になっていく智代の足を、不良という立場の自分が引っ張る事を恐れ、朋也から身を引く形で一旦は別れる事になる。ところが終盤で、智代から復縁を申し入れ再び恋人関係になった所で物語が終わる。 生徒会長になって役割をまっとうし、学校の桜並木の切り倒しを止めさせるという目的を見事達成した智代と、怠惰に生活し何もしなかった朋也が結ばれるという最後には、批判の声が強かったらしい(この『智代アフター』は、その部分を補完するという目的で製作されたとの事である)。 そして私も、『CLANNAD』の朋也というキャラクターはあまり好きになれなかった。智代シナリオには関係無いが、渚のアフターシナリオ(以降渚アフターと表記)に置いて、いくら渚との死別という悲しい出来事があったとは言え、渚との間にもうけた汐を渚の両親に預け、5年間も放置する等と言うのは言語道断であり、あまりの情けなさに辟易した程である(もちろん最後は一人前の父親になるのだが)。 『智代アフター』の朋也は、それとは打って変わっている。 河原での喧嘩や、鷹文の「呪い」解き、ともの母親探し、ともと母親が一緒に暮らせるようにする為、学校を作るなど、振りかかる難問を自分の手で次々と解決し、学生時代の彼からは想像出来ないような成長ぶりを見せる。考え方も前向きで、自分の手で智代やその家族を守ろうとする姿は非常に頼もしく、とても好感の持てるキャラクターになった。 坂上智代) 『CLANNAD』では、成績優秀、スポーツ万能、リーダーシップもあり教師や生徒からも信頼のある、非の打ち所の無いキャラクターだった。ただ家庭環境が悪く、荒れていた時期もあったらしい。喧嘩も非常に強く、『CLANNAD』登場人物中間違いなく最強の存在と言っても良いだろう。 そんな智代であるが、『智代アフター』では弱さを見せる事が多い。ともに対しての過度とも言える溺愛ぶりは、微笑ましくはあるが前作の彼女と比較すると違和感を覚える方もいるのでは無いだろうか? 特に前半パート終盤では、ともを母親に引渡したく無いが為に、あろうことか朋也を体で誘惑して学校作りを妨害しようとするなどという暴挙に出る場面もある。ただし傷ついたともを慰めようとする彼女のひたむきさは非常に好感が持てるし、短期間とは言え、まだ学生である彼女がともの面倒をきちんと見ている所からも、とてもしっかりした女性である事は確かである。 鷹文&可南子) 本作におけるお笑い担当である。 鷹文の外人ネタや、可南子の公募ネタは非常に笑えたし、本作の日常描写を支えているのはこの2 人であると言っても過言では無いだろう。この2人の役どころは、前作の春原陽平を思い起こさせる(鷹文と可南子を足して2で割ると、春原のような人物像を思い浮かべてしまうのは私だけだろうか?)。 なお鷹文は、『CLANNAD』本編にもわずかではあるが登場している。詳しくは智代シナリオをプレイして頂きたいが、彼は3年前、崩壊寸前だった家族の目を覚まさせる為に、自ら車道に飛び込み、大怪我をする。それまで続けていた陸上部を止める羽目になり、交際していた可南子とも縁を切る事になる。『智代アフター』では、そんな鷹文にまた陸上をやらせ、可南子と復縁させるというエピソードがある。 可南子は強烈な個性を持つキャラクターであり、その存在感は、時にはメインヒロインの智代を上回るほどである。本編における役どころも大きく、前半パート終盤でも、ともの母親が暮らす村人の心を開かせるなど大活躍を見せている。 また余談だが、鷹文と可南子は同一人物が声優を担当している。 とも) 『智代アフター』の前半パートのキーパーソンである。 実の父親には認知されておらず、母親には捨てられるなど、不遇な境遇にある少女だが、本人はとても明るく、愛らしいキャラクターである。 シナリオ雑感: 位置づけがファンディスクで、ヒロインの智代一人に絞った事実上一本道の物語である為、『CLANNAD』程のボリュームでは無いが、シナリオライターの麻枝准氏が携わっただけあって、非常に見事な仕上がりである事は間違いない。私がKey作品において一番重視している日常描写も文句無しの出来である。麻枝氏の巧みな文章力は一種の芸術と言って良いだろう。少なくとも、前作『CLANNAD』に満足したプレイヤーならば、十分納得出来る作品である。 とは言え、本作のネット上での評価はあまり芳しくない。駄作という意見もある程である。その原因は、後半パートにある。 後半パートは、朋也が病院で目覚める所から始まる。 以前頭を打って怪我した後遺症から、ある日突然倒れてしまう。その後意識は戻ったのだが、記憶喪失になってしまい、高校入学前までの記憶しかないのである。智代は朋也の記憶を戻す為に、学校や朋也のアパートへ連れて行き、色々な話を聞かせるが、朋也の記憶が戻る様子は無かった。 終盤で、更に驚くべき事実が明らかになる。朋也は、目覚めてから一週間程度で気を失い、目覚めた時には、それまでの一週間の記憶を再び失ってしまう(高校入学前の記憶にリセットされる)。しかも実際には、このような事が既に3年間も続いていたのである。 なお、この朋也の病気は、手術によって治す事が可能である。しかしながらこの手術は難しく、成功率が半分にも満たないと言う。失敗すれば命に関わる為、これまで3年間様子を見ていたとの事である。しかし、記憶を失った朋也から初めて好きと言われた智代は、それまで躊躇していた手術を朋也に受けさせる決意をする。朋也もそれを了承し、ようやく手術を受ける事になった。 結果は失敗に終わり、朋也は他界してしまうが、智代はそれを乗り越え、強く生きていく・・・。 つたない文章で申し訳ないが、以上が後半パートの大筋な流れである。 主人公の死という結末は、確かに衝撃的であると言えるだろう。批判意見も非常に多い。 ただし本作は、シナリオ担当の麻枝氏が『CLANNAD』作成後に空いた時間を使って個人的に製作したもので、他にも多数のスタッフが携わっているとは言え、麻枝氏のメッセージ色が非常に濃くなっていると思われる(とは言え前作『CLANNAD』も根幹のシナリオは麻枝氏が主に手がけたものであると思うが)。麻枝氏の過去に手がけた作品を振り返って見れば、本作も実はそんなに毛色の違う作品では無いという見方も出来る。しかし、『智代アフター』のラストに関しては、恐らくこれまでのKey作品に無かった程の批判の声が上がっているようである。 後半パートは始まりが唐突で、しかも展開が早い感がある。感情移入する間も無く終わってしまったという方も多いのでは無いだろうか? 私はこの結末を批判するつもりは無いが、見せ方はもう少し練る必要があったのでは無いだろうか? ただし、この作品では、これまでのKey作品において定番とも言える「奇跡」という超常現象を全く用いておらず(幻想世界は、本作では一切登場しない)、完全な人間ドラマに終始している点から見ても、『CLANNAD』のように最後で「奇跡」による救済など起こりうるはずが無い。本作のラストに納得するしないに関わらず、展開そのものは受け入れるしかないのでは無いだろうか? 最後の朋也の手術が成功するという展開に持って行く事も可能かとは思うが、その場合「安直」と非難される事は目に見えている。残念ではあるが、本作のラストの展開は間違いでは無かったと思う。 Key初の駄作などと言う意見のある『智代アフター』ではあるが、描写不足という問題点が無い訳では無いとは言え、これまでのKey作品に比べても、極端に見劣りする点は無い。そもそもファンディスクという位置づけであり、基本的にプレイヤーが『CLANNAD』をプレイした方に限定される以上、これまでの作品のような大ヒットとなるとは考えにくいだろう。 結論として、良作と言って良い出来であると思う。ただし、『CLANNAD』のように万人に勧める事が出来る訳では無い。本編後半パートの展開を好意的に受け入れる事が出来るか否かが評価の分かれ目だろう。しかしこれを抜きにしても、Key最大の武器と言える卓越した文章力や日常会話での笑いは健在であり、決して駄作では無いと主張しておきたい。 ところで本作には、ミニゲームとしてシミュレーションRPGゲーム『Dungeons & Takafumis』が付属している。詳細の説明は省くが、ミニゲームにしてはかなり本格的で、遊びがいのある仕上がりになっている(ネット上では、本編よりも評判が良い)。ADV一辺倒の印象が強いKeyが、ここまで完成度の高いRPGを製作したというのは驚きである。次回作は、より一層ゲーム性の高いADVになるのかもしれない。 次回作への期待: KeyのHPに、次回作となる『リトルバスターズ』の情報が掲載されている。詳細は未定であるが、Keyが発表する作品である以上、期待出来るのは言うまでも無い。発売日はもちろんの事、年齢制限が付くかどうかも未定である(そもそも、HPのキャラクター紹介で、ヒロインよりも男性キャラが先に紹介されている所を見ると、本作も『CLANNAD』同様全年齢でリリースするのでは無いかと考えてしまう)。 |