-

『理想の探偵像を求めて』
〜『不確定世界の探偵紳士 Hard core!』レビュー


 以下のテキストは、ぎぃす・はわぁど様から頂いた『不確定世界の探偵紳士 Hard core!』のレビューです。量が多めでしたので、今までの記事とは異なる新コーナーを立ち上げて(?)紹介することに致しました。なお、背景色が白くなっている部分の文章の著作権はぎぃす・はわぁど様に帰属するものとします。

 digiAnimeから発売されたWindows用アドベンチャーゲームソフト『不確定世界の探偵紳士 Hard core!』は、その前身である『不確定世界の探偵紳士』の拡張ヴァージョンである。
 キャラクターボイス・CG・新キャラ・イベントの追加等を行っているが、実際のところ、ドリームキャスト用として発売された『探偵紳士DASH!』の焼き増し的な部分が多い。事実、発売日順に並べると、

『不確定世界の探偵紳士』(Win)→『探偵紳士DASH!』(DC)→『不確定世界の探偵紳士 Hard core!』(Win)

となり、コンシューマからの逆移植であることが分かる。

 この移植に対する意見には賛否両論が多々あると思うが、本レビューでは、敢えて移植関係の話はあまり持ち出さずに、『不確定世界の探偵紳士 Hard core!』を一つのオリジナルの作品としてレビューしていきたい。


 クズ通りと呼ばれる路地裏に事務所を構える凄腕の探偵、悪行双麻(あぎょうそうま)。
彼は『巻き込まれ屋』とでも言うのか、街を歩いているだけで事件に巻き込まれるという特殊な才能を持っている。
 彼に言わせれば「降りかかる火の粉を払っただけ」なのであるが、結果としてものすごい数の事件を解決しており、その「おびただしい戦果」が彼の名声を揺るぎないものとしている。
 国際的な探偵組織『アイドラー』から、世界に30人しか存在しないと言われるAライセンスを受けている。
 この彼を主人公に、謎解き・ホラー・恋愛・ハードボイルドなど多種多様な不可思議な事件を解決していくことが、このゲームの目的である。


 まず、このゲームのシステム等について述べたい。
 ゲームは2枚組で、インストール方法はフルインストールのみ。総容量は約1.2G。なおインストール後はCDの挿入は必要ない。プロテクトはリング。

 ゲーム操作の根幹はオーソドックスなアドベンチャーであるため、コマンド選択方式を採用している。基本コマンド(見る・話す・移動など動作系)と対象物(窓・歩行者・事務所など)を選択する無難なタイプである。選択方法は、マウスでクリックする方法とテンキーで操作する方法がある。マウスを使用する場合、自動的に選択肢にカーソルが移動する他、前回選択した項目が記憶される機能もある。テンキーで操作する場合、各コマンドには番号が割り当てられているので、そのコマンドにあったキーを押せばよい。キャンセルは「0」。通常のメッセージ送りはEnterキーに割り当てられているので、慣れている場合は、テンキーの操作が便利である。

 他に機能として、

●メッセージ表示の早さ調節
●キーリピートのON/OFF
●キャラ表示のスムージング
●メッセージウィンドウの明度調節
●MMXのON/OFF
●画面モード切替
●ボリューム調節
●各キャラクターのボイスの有無
●AutoPlay機能
●メッセージ履歴
●メッセージスキップ
●「ボスが来た!」機能
……ボタン1つで ひとつで画面を隠したり、別の画面にすり替えたりする機能。
本作品の場合、ファンクションキーでゲームを即時停止し画面を隠し、タスクバーからも表示を消す。
シフトキーを2秒以上押すことでゲームに復帰することが可能。


……と至れり尽くせりである。
 ただ、残念な点として、フォントのエイリアジング機能が無いことが挙げられる。読み物ゲームの要素も有するため、フォントに対するこだわりも欲しかった。あと、ゲームのヴァージョンが1.00の場合(即ち初回生産版を買ってそのままプレイした場合)、上記の機能を選択できないバグが存在するので、速やかに公式ページから修正パッチをダウンロードしてもらいたい。

 画面構成は、一面に背景グラフィック。その上にキャラクターが載る普通の画面。さらにこの左上に選択肢がある。メッセージは、通常のパートではメッセージウィンドウに表示されるが、イベントシーン、特に主人公のモノローグが入るシーンなどは、CGの明度が落ち、そこに文字が載るノベル式となる。この切り替えによって、文章にグッと引き込みたい部分を際立たせている。のであるが、肝心のCGが見えないじゃん!と思われることもしばしば。もちろん、メッセージを消去してCGのみ閲覧する機能も付いているので安心を。

 また事件によっては、画面をクリックしてイベントを進めていく「クリックモード」が存在する。すなわち、画面の気になる部分、怪しい部分をクリックしていくことで、事件を攻略していくシステムである。このシステムは、elfのゲームなどではお馴染である。これを採用することでゲーム性が格段に向上する場合もあるが、関係ない部分をクリックすると関係ないテキストを何度も読み返すことになるので、プレイに疲れが生じるときもある。そのため、関係ない部分にも何パターンものテキストを用意しておくのは基本。この作品は、そういうところもきちんと押えていると思われる。

 以上がゲームのインターフェースである。他に、ゲームを進めていく上でのシステムとして、特筆すべき点がある。主人公が探偵であるため、最終的な目的は事件の解決であるが、このゲーム中では事件の依頼がいくつも存在する。当初は一つであるが、話を進めていくうちに二つ以上抱えることになるかもしれない。もちろん、その選択はプレイヤーに委ねられていて、一つをじっくり解決することも、二つを同時に調査していくことも可能である。ただし、解決希望日数と賞金額が設定されていて、希望日数より前に事件を解決すると多くの賞金がもらえるが、その日数を超えると賞金が1日につき1割減となり、10日後にはそれ以降解決したとしても、賞金はゼロとなってしまう。また、20日のオーバーでライセンスを剥奪され、ゲームオーバーに。慣れないうちは、この条件が過酷に思えるかもしれないが、だんだんと捜査をしていくうちに、解決希望日数がムチャなものではないことが分かる。


 次にグラフィック・音声・アニメーションの評価である。
 グラフィックは、基本的に640×480ピクセル。True Color(24ビット/約1700万色)である。探偵物と言うこともあり、ハードボイルドな雰囲気が漂うような全体的にくすんだ色を基調とする。背景CGは超美麗とまでは言えないが、安心して見れる巧みさを持つ。キャラクターもそれに応じて太い線で描かれており、主人公はシックでダンディに、ヒロインは可愛さよりもむしろ妖艶さが前に出てきている……はずだったのだが、途中ドリームキャストへの移植のため妖艶さよりも「萌え」が追加されたようで、こちらの作品もそれに倣っている。キャラクターの中には、最初の作品に比べると「こりゃ別人だよ」とまでに変化した者もいるが、最初に言ったように多くは語るまい。しかし全体的では、CGが雰囲気作りをうまく担当していると言ってよい。

 音声についてであるが、BGMはPCM音源を採用している。サンプリングレートは、22K。最近のゲームのBGMとしては、音が多少荒い気もする。しかし、私の個人的な意見としては、逆に薄汚れた街、事件を題材に扱う作品には適しているように思える。グラフィックと非常にマッチし、最近のゲームと言うよりは、昔懐かしい世代のゲームの雰囲気を醸し出している。すべては名曲ではないが、作品には無くてはならないBGMである。
 キャラクターボイスは、各キャラクターに対してON/OFFの機能がある。主人公だけボイスをOFFにする、というのは結構する人も多いだろうが、この作品に対してそれを行うのは勿体ない。物語全体の半分のメッセージは主人公であるし、何より著名な声優が絶妙な演技で、癖のある人物、悪行双麻を演じているからである。他の声優たちも著名であるのは、このゲームのボイスが、パソコンゲーム専属の声優ではなく、通常の声優(どちらもこなす人も結構いるが)が担当しているからである。もちろん、このデータはドリームキャストからの移植である。是非とも音声は全員ONにしてプレイされたい。ちなみに、キャラクターCGはボイスに合わせて、目パチ口パクする。

 アニメーションはオープニングに採用されている。ゲームを起動すると、画面中央に小さなアニメーションが始まる。おそらくAVIファイル、時間は約50秒。「digiAnime」のロゴの後にキャラクターのカット。各事件のハイライトシーン。そして最後にゲームのロゴとなる。流れる様なアニメーションとはいかず、カクカクしている部分があり、また圧縮が酷く小さな画面であってもキレイとは言えない。会社名が「digiAnime」であるにもかかわらず、アニメーションの少なさと、あってもその扱いの酷さが、このゲームの問題の一つである。最近ではアニメーションをムービーではなく、独自のセルアニメルーチンでコーディングする(フルスクリーンでもキレイな上、特定のCODECを必要としない)ゲームが増えているが、そういうのを見習って欲しいものである。


 最後にシナリオについて。多少のネタバレが存在するので注意してもらいたい。
 シナリオライターは「菅野ひろゆき」氏。知る人ぞ知る『EVE burst error』(C's ware)『この世の果てで恋を唄う少女』(elf/この作品の時は「剣乃ゆきひろ」)などを手掛けてきた人である。4月1日の魔術師氏も菅野作品をレビューしているので、そちらも参照してもらいたい。当初、私はこれを知らずに(『不確定世界の探偵紳士』を)購入した。「菅野作品」というレーベル無しでプレイしたため、素直に面白いと思った。が、探偵像があまりに『EVE』と同じであり、会話の切り返し方など思いっきり「菅野節」であったために、調べてみたところ本人が制作していたというわけである。

 彼の作品が評価されるのには幾つか理由がある。シナリオの重厚さと、システムの緻密さ、そしてキャラクターの個性である。
 まずシナリオであるが、一人の探偵が一つの事件を解決した、ではあまりに普通である。そのため二つの事件を並行してプレイできるのは珍しい。いくつかの事件をオムニバス形式でクリアしていくゲームはあるが、完全並行はあまりない。また、安易にこれを実現しようとすると、プレイヤーの方がついていけなくなる。しかしそこをうまくカバーしているのが、一つ一つの会話、主人公のつぶやき、などのテキストである。テキストの多さも売りであるが、ただ多いだけでは意味がない。プレイヤーが嫌にならない多さ、且つそれなりの情報量があるのがベストである。この点において、菅野氏は最高位の巧みさを見せてくれる。だからこそ、すんなり並行した二つの事件の内容ををプレイヤーは吸収できるし、その際に疲れはない。テキストを読ませるのが実にうまい。
 逆に、最小の文章量で最高の情報量を詰め込むのがうまいのはelfの蛭田氏であると思うので、そちらも作品と比較してみるのもよい(最近の作品では『鬼作』など)。

 次にシステムの緻密さである。この場合のシステムとは、インターフェース周りのことを指しているわけではない。ゲーム進行のシステムである。前述したように、このゲームは幾つもの事件を並行して調査することに重点を置いている。事件の並行性、転じて物語の並行性は菅野氏の最も得意とする技術の一つである。他のゲームでは、マルチサイト(二人の主人公の視点から見る)やADMS(そのときの行動で未来の事象が分岐し、パラレルワールドを行き来する)などのシステムがある。彼の並行性のすごいところは、一見全くことなる事柄でも、最終的には一つに集約されることである。今回の事件のほとんどが、何らかの関係を持ち、最終的に一つの大きな陰謀へたどり着く。言うなれば、点が線となるという昔からの形容を当てはめてもよいだろう。小説などでも好まれる手法であるが、コンピュータゲームという媒体であるからこそできる、「ただ読ませるだけではない」という利点が多分に盛り込まれている。

 そして、個性豊かなキャラクター達。
 まずは主人公・悪行双麻。ハードボイルドを気取っている。探偵である彼は腕は超一流。もちろん実戦においても比類無き力を発揮する。しかしひっそりとした路地裏に事務所を構え、名声や金に執着しない。酒は飲むが煙草はやらない。髪は長く、その表情を伺うことが難しい。他書き始めるとキリがない。しかし、これと全く同じ設定の探偵が他のゲームにいる。『EVE burst error』の「天城小次郎」である。こちらのゲームは氏のかなり前の作品であるので、その主人公の魂を復活させた、というところであろうか。もしかしたら、古巣への嫌がらせではないかと思わせるのは、担当声優が同人物ということであるが……。 しかし、このような人物こそが理想の探偵像であるという人も少なくない。まあ、そう言うのは昔のPC-98時代からのプレイヤーがほとんどであるが。
 この『Hard core!』が発売される少し前に、同じような主人公を立てて、ハードボイルド探偵物のゲームを作った会社があったが、そちらは見事に失敗していた。原因はシナリオの希薄さと説明不足、である。特に説明不足の感が強く、ライターの独りよがりに見え、プレイヤーに主人公の像が形成される前に物語が終了してしまうという酷いものだった。
 主人公にこれだけの性質が揃っていれば、簡単にシナリオを作れそうであるが、逆にこれだけ濃いと扱いこなすのに時間がかかるのだろう。

 ヒロイン「ミント=御剣」。彼女はアンドロイド(メイ=ドロイド)である。メイドから来ているのではなく、成長の神メイアから来ているとかなんとか、であるが、やっぱりメイド=ロイドなのであろう。彼女には、あるアウトフィット(凶悪犯罪組織)の存亡に関わる非常に重大な秘密が隠されている。彼女に関わったことで主人公は、嘗て無い事件に巻き込まれていく。
 存在意義が大きく、すべての事件の鍵を持つが、普段はかなり変わったヒロイン。初めは心を持つかすら怪しかったが、だんだんと成長していく過程が見て取れる。菅野氏なりの「萌え」を表現したのではないだろうか。

 他にも、主人公の邪魔をするというお約束的な役割をするロリコンの刑事や、ゲイの情報屋、忍者部隊、怪しい執事、アウトフィットのボス、マッドサイエンティスト等々。見事に個性的な面々である。そしてもう一人重要な役割を持った人物、昔、主人公の公私ともにパートナーであった「あやめ」。これらの人物が絡み合い、物語を作り上げる。その結果は自分で見てもらいたい。


『Hard core!』
 移植についてはあまり述べないと言ったが、ゲーム構成を知る上で必要なことをここに記す。
 通常に始めた場合、CG、シナリオともに『探偵紳士DASH!』(DC)のソースが主に使われている。すなわち、非18禁ヴァージョンである(R指定程度?)。シナリオやキャラクターが多少変更されていて、お子さまでも楽しめる?(途中までギリギリの表現に抑えられている。もちろん購入はできないが)内容になっている。ある条件を満たすと、第一作目の『不確定世界の探偵紳士』(Win)の内容でプレイできる。追加CGなどもあるこちらは、歴とした18禁ヴァージョンである。『探偵紳士DASH!』に『不確定世界の探偵紳士』のモードが追加されたと思ってもらえれば、分かりやすいだろうか。
 また、登場人物のCGすべてが○○になってしまう、というようなモードもあるので、ものによっては、一つのシーンで3パターンのCGが存在したりする。コンプリートには基本的に同じシナリオを何回もクリアしなければならないので、一苦労、二苦労である。

 CG閲覧モードは、ゲーム中に出てくる「中国古典遊戯店」で既に見たCGを買うことで、追加される。一旦クリアすると、「中華街」で回想シーンのビデオを買うことができるようになる。基本的に、事件を解決した賞金でCGや回想シーンを購入し、コレクションしていく形になる。


【総評】
 探偵物、菅野作品が好きな人にお奨め。キャタクターCGは多少濃く、一般受けしない場合もあるので、CGで選ばず内容で勝負という人向け。18禁が主の目的での購入は避けた方がよい。完全な読み物ゲームでは無いので、攻略が必要であり、それが嫌いな人には向かない。また、エンディングまでの過程の事件を解決していく順序は一つではないが、エンディングは一つなので、何回もプレイするタイプではない。以上を鑑みて、購入を考えて欲しい。


-

関連リンク

-digiANIMEcorporation(『不確定世界の探偵紳士 Hard core!』製作元)

-THE CONSUMER(レビュー投稿者の運営サイト)


-

トップページ玄関(トップページ)  レビュー社会情報研究所のトップページ  レビュー電脳研究室のトップページ

PSレビューPlayStation用ソフトレビュー  SSレビューSegaSaturn用ソフトレビュー  WinレビューWindows用ソフトレビュー