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2003年2月の図書館長日誌

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サロニア私立図書館・玄関へ戻る日誌収蔵室で過去の記録を閲覧する

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  • 2003年2月27日 10時57分30秒
    卒業研究の内側

    極めてレアな事故。今まで起こらなかったことの方が不思議かもしれません。


    さて、私が専門学校に通っていることはここで何度も触れていますから今更再説明は不要かと思われますが、
    この間、卒業研究のプログラミングがようやく終了しました。
    期日に間に合ったので胸を撫で下ろしていますが、その際に
    学校で学んだことが意外と役に立たなかったことが判明しちょっと困惑しています。

    今回の卒業研究では、プログラム開発者は1〜4人のチーム(私のチームは4人)を組み、
    それぞれがゲームやら映像作品やらを1本仕上げることを目標にしていました。
    で、プログラム開発時には、最初に『企画書』と『進捗予定表』を書かされるわけです。
    どちらもプログラム作成のアウトラインを固める物なので重要であることは言を待たないと思います。
    で、学校からは、企画書や進捗予定表の書き方なんかを手渡されるわけなんですが、
    このうち進捗予定表の方は、いわゆるウォーターフォールモデルに基いた書き方になっていました。

    プログラミングの専門家じゃない方も多いと思いますのでフォローしておきますと、
    このウォーターフォールモデルというのは、名前に「滝」という単語を含んでいることから想像がつくと思いますが、
    「上から下へ」向かってプログラムを順次開発して行くという物。
    その手順を分かりやすい表現で書くと……

    客と打ち合わせ→プログラムの外観・機能などを確定させる→プログラムの大まかな仕組みを定める
    →プログラムの細かい構造を決める→ソースコードを打ち込む
    →分担して作ったプログラムをデバッグ・統合→完成品を客に渡す→保守点検を続ける


    ……といった感じ。
    最大の特徴は、「原則として前のステップには戻らない」ことが明記されていること。
    つまり、プログラム作成中に不具合が発生しても、
    基本的には前のステップ(プログラムの構造を決める)には戻ることができないというわけなんです。
    普通、この手法は多人数が関与する大規模なプロジェクト開発で用いられている……ということになっています。
    で、専門学校でのプロジェクト開発に関する授業でも、この開発手法がメインに教えられていました。

    ……ところが、シューティングゲームを作成した私の班では、
    かなり早い時期からこのウォーターフォールモデルに「見切り」をつけることになりました。
    人数が少なかったからウォーターフォールに頼らずに済んだというのもあるのですが、
    計画の初期段階から、チームメンバーの間ではこんな会話が飛び交っていたのです。

    「とりあえず、プロトタイプが無いと話になんねえよなあ」
    「じゃあ、危険なところから少しずつ作って行くか」


    専門的には「プロトタイプモデル」とも呼べる作り方なのですが、
    要するに試作品をとっとと作り、それをバージョンアップする形でプログラムを完成形に近付けるという方法。
    一般に、今回の卒業研究のような小規模の開発では、この手法を用いることができる……ということになっています。

    ところが困ったことに、専門学校でプロトタイプモデルに基いたプロジェクト開発技法は全然習ったことが無いんです。
    また、バグやソースコードの難しさなどから「危険」と見なされる場所のプログラムを先に書き、
    プロトタイプのバージョンアップが行われる度に同じ個所を何度も再チェックするという、
    リスク排除を前提としたプログラミングの手法に関しても全く話を聞いた記憶がありません。
    実際には、授業の「外」で、UML担当講師の先生(実務経験者)から根掘り葉掘り聞き出して、
    ウォーターフォールモデルとは異なる開発手法の詳細を聞き出すことができたのですが、
    それが無かったら暗中模索しながら苦戦を続けていたことは必至。
    何はともあれ、学校でもらったプログラム開発手法に関する教科書は全く役に立ちませんでした。


    実務の現場では、現在でもウォーターフォールモデルが使われているとか、
    資格試験においてプログラム開発の問題が出る場合、ウォーターフォールモデルのものばかり出るとかいう噂(?)は
    色々と聞いているのですが、実際のところはどうなんでしょう?

  • 2003年2月18日 03時45分25秒
    レビュー放出大作戦(一部18禁ゲームあり)

    過去、私は様々なタイプのゲームをプレーして来たのですが、
    中には「完全にクリアせずにプレーを放棄してしまったゲーム」や
    「ここのレビューに書くべきかどうか微妙だと思われたゲーム」
    「DOS時代の作品なので、レビューを書くべきかどうかかなり微妙なゲーム」もあります。
    まあ、その大半は18禁ゲームだったわけなんですが、積みゲームの多くが消化されたことですし、
    ここで過去にプレーした18禁ゲームのうち、1回以上クリアしたことのあるゲームについて
    簡単な記述ながらもレビューを公開することにしました。
    なお、レビューの記事はここにもあります。

    関東大震災直前の東京を舞台とする調教SLG ── 『女郎蜘蛛〜真伝〜』

    昔発表された『女郎蜘蛛』という作品のリメイク版。
    大正12年8月の東京にある古い屋敷の中で繰り広げられる人間模様を描いた話。
    ジャンルとしては調教型SLGとADVが融合したスタイル。
    なお、SLGパートは難易度が比較的高く調教方法が「偏っている」ため人を選ぶ内容となっている。

    ADVパートの方は、大正時代を舞台にした物語ということで、文章も大正時代のものに合わせて作られている。
    ふりがなを振っておけばプレーに支障は出ないが、この作り込みには正直言って驚かされた。
    また、登場人物の多くに裏表や精神的にどろどろとした一面が用意されているのも特徴の1つ。
    何しろ、純真(?)なキャラが北畠茉莉絵ただ1人だけだからなあ……。

    ストーリーについての詳細は省略(調教SLGの常として、エンディングの分岐が多数存在するため)。

    なお、調教パートでは、画像エフェクトを凝った作りに仕上げたせいで、
    かなり処理速度が落ちてしまうようだ。

    操作性音楽画像ゲーム
    システム
    設定人物脚本主観評価合計
    581079993087



    敵を倒すだけじゃ面白くないから新要素を加えてみると…… ── 『ラ・ピュセル〜光の聖女伝説〜』

    『マール王国』シリーズを過去に製作した日本一ソフトウェアが2002年に発表したSRPG。
    一見すると、一般的なターン制のSRPGだが、支援効果システムや浄化システムが加わったため、
    通常のSRPGでは実現できなかったようなゲームシステムが実現。
    特に浄化システムは普通のSRPGにパズルの要素を加えた点で注目に値する。
    他にも、アイテムの成長や魔界の存在など、やり込み派の人間が十分満足できるようなゲームシステムとなっている。

    ストーリーに関する評価はクリアしていないので保留。
    ただし、キャラクター達の言動・性格を見ると、第5章辺りまで続けられた
    ドタバタ喜劇の展開がもう少し長くても良かったのではないかという気がする。

    操作性音楽画像ゲーム
    システム
    設定人物脚本主観評価合計
    910+810++7-9108-103092-96



    ……あ、「一斉大放出」と書いていながら、日誌で公開できるデータが2つしか無いや(爆)

  • 2003年2月13日 23時38分17秒
    成算無き危険な博打

    この日誌では、「予言」の類はあまり書かないことにしているのですが、
    今日はちょっとその慣例を破ってみることにしました。


    ニュースではイラクと北朝鮮の情勢が連日トップで報じられる日々が続いています。
    私の周囲で普通に交わす会話の中でも、時には国連のイラク査察問題が出てくることがあるのですが、
    これに対する会話相手の皆さんの反応は実に様々なんです。

    ある人はブッシュ大統領をヒトラーになぞらえ、
    別の方はNATO事務局長の苦労を嘆き、
    更に別の人は2月16日に迫った金正日「同志」の誕生日に北朝鮮のテレビが何を報じるのかを期待し、
    もっと別の人は、フセイン大統領が70に近い爺さん(1937年生まれ)であるという事実に驚き、
    そして5人目は日本の国会で展開される論戦に煮えきらないものを感じた──

    ──そんな数ある意見の中で、私が最も気になったのが、
    今回のイラク問題でドイツが見せている極端とも言える反戦主義の行方です。

    現在のドイツを率いるシュレーダー政権は中道左派の政党から構成されており、
    その一角には数多くの環境政策で名を馳せた「緑の党」も加わっています。
    エネルギー供給政策において多大なリスクを背負うことを承知の上で原発全廃を議決したことなど、
    その政策は政党色がそっくりそのまま滲み出たもの。日本のマスコミには大受けしそうなものばかり。

    で、今回のイラク問題では、ドイツは早い時期からアメリカの武力行使に反対。
    今ではフランス、ロシア、中国、ベルギーなどと連携して事実上の反アメリカ包囲網を形成、
    国連査察強化に向けた新しい国連決議作成を進めるなど、動きを活発にさせています。
    この動きに同調したのか、世界各地の平和団体がバグダッドに乗り込んだり
    ヨーロッパで反戦集会が開かれたりしています。
    アメリカ嫌いが多い日本の一部マスコミがこの現状を見過ごすはずも無く、
    ヨーロッパを中心に展開している「反米旋風」とも評すべき一連の動きを連日報道しています。


    これだけ見ていると、アメリカが追い詰められているように感じられるかもしれません。
    でも、私がニュースを聞いている限りでは、シュレーダー政権の行動は
    イラクの査察拒否並みに危険な博打を打っているように感じられます。
    そして、多分失敗すると思います。
    最大の理由は、ドイツ以外の各国がアメリカの行動に反対する理由そのもの。
    一見すると平和主義や善意から出ているように感じられますが、世の中はそんなに甘くないようです。
    フランスやロシアの場合、この両国はイラクに対して様々な利害関係
    (100億ドルを超える融資、イラク国内に保有する油田の採掘権など)を持っていることが反対の理由。
    これらの「利権」の問題が解決されてしまえば、態度を180度翻すことだって有り得るのです。
    また、フランスの場合、武力行使には反対と言いながらもその実態は「国連決議無き武力行使に反対」に近く、
    地中海に空母を派遣して戦争に備えるなど、和戦両略でイラク問題に対処しているように感じられるのです。

    それに、フランスやロシア、中国から見ると、国連安保理を無視してアメリカが武力行使に踏み切ることは
    「アメリカだけでなく自分達にとっても」最悪のシナリオであるとも言えます。
    国連安保理で2対3で優位に立ち拒否権も行使したのに、
    それを無視してアメリカ、イギリスなどが武力行使に踏み切り、
    イタリア、スペイン、オーストラリア、東欧諸国、それに日本とイスラエルが
    アメリカを支持する姿勢に回ってしまったとなれば、
    世界唯一の超大国を掣肘できなかった国連安保理の権威はがた落ちしてしまいます。
    フランスやロシア、それに中国もそんな事態は望んでいないんじゃないでしょうか。

    ……とまあ、こんな感じの理由から、フランスやロシアは土壇場になって態度を変え、
    アメリカの武力行使を「黙認/理解する」という姿勢を取るんじゃないかと思います。
    こうなると、多分中国も安保理での投票を棄権するなど方針を切り換え、
    武力行使を認める国連決議が採択されることになるんじゃないでしょうか。

    以上の展開になると、世論に後押しされ半ば強引に戦争反対に突っ走ってしまったドイツが完全に孤立。
    おそらく、シュレーダー首相やフィッシャー外相の政治責任を問う声も上がることになり、
    20世紀末のドイツを引っ張って来た中道左派政権は終焉を迎えることになるでしょう。
    なお、現在のドイツの打算無き「暴走」に最も反対しているのはドイツの財界や政府関係者。
    日本の一部マスコミが伝えているように、シュレーダー政権の行動は一般市民の支持は得られるかもしれませんが、
    財界などエリート層からはなかなか理解は得られないそうなんです
    (NHKのニュース10が報じたところによると、ドイツの財界関係者は
    アメリカ国内で愛国的で熱狂的な一部の人間がドイツ製品に対する不買運動を
    起こすことのではないかと不安がっているのです)。


    ちなみに、以上の話は私の希望的観測も交えた未来予想図。
    もしも、ドイツを中心とした反アメリカ連合がこのまま突っ走ってしまい、
    アメリカとイギリスの武力行使が安保理決議無しで行われた場合、これはかなりまずい展開になります。
    上にも書きましたが、この場合には国連安保理の権威はがた落ちするでしょう。
    この場合には、平和主義を貫いたということで、
    ドイツに対する国際社会(というよりも各国市民)の評価は劇的に向上するでしょうし、
    20世紀では仇敵同士だったドイツとフランスが強固な絆で結ばれることになるでしょう
    ──「反アメリカ」を旗印としてね。
    当初はNATO分裂も囁かれていたのですが、ドイツ側が譲歩を見せようとしているなど、
    こちらの先行きは若干明るいものとなっています。

    最初は、ラリー・ボンドの小説『ヨーロッパ最終戦争1998』(←邦題)で描かれた
    ヨーロッパの分裂が本当のものとなってしまうのかと一瞬顔が真っ青になったものです。
    ちなみに、あの小説ではアメリカ・イギリスとフランス・ドイツが戦争を起こし、
    フランスが核ミサイルを使うという展開を見せています。



    どちらの未来予想図が「マシ」なのか、人によって意見が分かれるところです。
    私がイラクの問題を話し合った友人達の間では、
    ドイツが見せる無謀なのか勇敢なのか判断し難い反戦主義に対し、
    賛否が真っ二つに分かれていたのです。
    ただ、全員が同意した予想が1つだけあります。
    それは「ブッシュJr.は何があってもイラクとの戦争を始めてしまうだろう」ということ。


    ちなみに、日本の首相は2月12日の党首討論で、間接的な表現を使いながらも
    イラクへの武力攻撃に突き進むアメリカの姿勢を支持することを表明。
    日本の外交は「国連中心」から「アメリカとの同盟重視」へと回帰することになりそうです。
    それが良いかどうかはまた諸説あると思いますが……。

  • 2003年2月11日 00時13分10秒
    Called "Unlimited"、but "Limited"

    まずは、先日の日誌『NLP雑感』に関して、複数の方からメールを頂きましたので、お返事したいと思います。
    とはいえ、頂いたメールの内容は殆ど一緒でしたので、こちらにて一括という形式を取らせて頂きます。
    (現在、メールを返信できない状態で日誌の更新を行っているところなんです)

    日誌できっぱりと批判した「国際平和都市」の話、これは私自身が中学校の頃からずっと感じていたことなんです。
    提唱する側の言い分に一種の「ただ乗り」というものを感じていたという一面があると同時に、
    「国際平和都市」の主張が絵空事にしか聞こえなかったんです。
    地方都市が「国際平和都市」を標榜したところで、国際政治で何か変わるというわけではありませんし……。
    湾岸戦争やカンボジアへのPKO派遣など、日本の国際社会への関り方を真剣に考えさせられる事件が
    多発した頃だったというのも影響しているのですが……。

    そんなわけで、賛同者が多かったことには若干意外さを感じると同時に、
    「ああ、私の意見って特別じゃなかったんだ」と安堵感を憶える一面をありました。
    何はともあれ、メールを下さった皆様にはここでまとめて謝辞を申し上げたいと思います。
    ……ちなみに、私は長崎県出身ではなく福岡県出身ですので。


    さて、本日の本題は『Unlimited Saga』というゲームソフトの話。
    昨年の12月、『SaGa』シリーズの最新作ということで発表されました。
    ゲームは全然プレーせずにサントラだけ買っていたのですが、この度、ゲーム本編の画面を見る機会に恵まれました。
    私自身は、知人が隣からゲームをプレーしているのを眺めていたわけです。

    ……………………で、その結果、
    「『SaGa』スタッフの今回の冒険は失敗したらしい」ことが判明。
    他人がプレーしているのを脇から見ているだけですので、
    プレーヤーが実際に感じているものとは違う部分が多々あるのでしょうが、
    ゲームシステムで「これはさすがにまずくないか?」と思える箇所が幾つか見つかったんです。

    最初に気付いたのは、キャラクターの成長ルールが変則的になっていること。
    キャラクターの成長は、「戦闘が終了する度に行われる」ではなく、
    「1つのシナリオが終了する度に成長する機会が訪れる」という風に変わりました。
    まあ、それだけなら問題は全く無いわけなんです。問題なのは、「成長」のさせ方。
    今回、各キャラクターは7個までの技能を同時に持つことができまして、
    それぞれの技能に「1〜5」の高さが設定されているわけなんです。
    シナリオが終了する度に、新しく修得した技能1個を7個の習得済技能のうち1つと交換し、
    より高いレベルの技能を習得させるべく努力を重ねるわけなんです。
    ところが──

    ●交換候補として提示される技能は4種類あるのだが、
    提示される技能は「パーティーがミッション中に使用した技能」から
    ランダムに4種類と定められている。つまり、各キャラによって成長の方向性を分化させようとしても、
    習得候補技能次第ではプレーヤーの努力が完全に水泡に帰す恐れがある。
    ●プレーヤーは技能の交換を拒否できない(提示された技能がキャラの適正にそぐわない物だったとしても)。


    要するに、キャラクターの成長パターンに対して不自然な制約が掛けられているわけなんです。
    その結果、プレーヤーはゲームプレー中に不自然なストレスを感じてしまうことになるわけです。
    技能交換に対して拒否権を行使できたとすれば、まだ良かったかもしれません。

    この他にも、『Unlimited SaGa』では、
    ダンジョンや街のマップが大幅に簡素化されたという思い切った冒険が為されていますし、
    技・術の行使時にリールを回しプレーヤーがリールを止めることによって
    威力などが自由に変動するようになっています。
    プレー中の画面を横から見た感じでは、ゲーム進行は紙芝居っぽいものになっています。
    『Unlimited SaGa』のスタッフが、TRPGやAVGをどのくらい参考にしたのかは分かりませんが、
    TRPGやAVGのテイストを少なからずこの作品から感じたのは確かです。
    リールを回すのはダイスの代用と言うことができますし、
    会話やテキスト表示によって情景描写を進めようとしている辺りはAVGそっくり。

    ここまでは、冒険好きな『SaGa』スタッフの趣味ということで笑って誤魔化すこともできるんですが、
    最後に1つだけ、この点だけは「問題点」としてはっきりと言わせてください。
    アイテムが全くソートできないってどういうことよ(爆)

  • 2003年2月6日 11時51分40秒
    NLP雑感

    大事なことは秘密にするとトラブルの原因になる。
    しかし、秘密にしないと大事な話が進まない。

    そんなジレンマに陥ってしまった1人の町長が辞表を出した……そんなお話。


    空母を持つ国の軍隊が日常的に行う訓練の1つに「夜間発着訓練」(NLP)というものがあります。
    これは、夜間における空母への発着を想定したもので、
    陸上にある滑走路にちょっとだけ着陸しすぐに離陸するという方法によって行われています。
    ただ、訓練に使われるのは最新鋭の戦闘機。お世辞でも「静かな離着陸が可能」とは言えません。
    そんなわけで、訓練が行われる飛行場の周辺は、日常的に深夜の騒音公害に悩まされることになります。

    元々、この訓練は厚木市・綾瀬市とその周辺で行われていたのですが、
    騒音公害に関する裁判で国が敗訴し20億円を超える賠償金の支払いを命じられるなど、
    夜間発着訓練を安心して行えるような環境とは言い難いものでした。
    そこで、代わりの訓練場として三宅島や硫黄島の名前が上がっていたのですが、
    三宅島の場合は「火山が噴火してしまい飛行場建設どころでは無くなった」、
    硫黄島の場合は「『遠過ぎる』とアメリカ軍がクレームをつけた」という問題が出て、
    なかなか思うように進まなくなってしまったのです。
    とりあえず、今は硫黄島で訓練を続けているアメリカ軍ですが、
    「やるなら日本の本土でやりたいよなあ」というのが本音。
    そんなわけで、新しい訓練場捜しは日本の防衛関係者にとって急務となっていたわけです。

    そんな現状を見て、
    「だったら自分の町にある無人島に誘致できないものか」と考え付き、
    防衛施設庁に対し非公式に話を持ちこんでいたのが、広島県沖美町の町長さん。
    地元振興策を兼ねたこの移転計画案に防衛施設庁もノリノリになり、
    ついこの間まで移転計画が水面下で協議され続けていました。
    ……しかし、その結果は先日のニュースで騒がれている通り、見事に失敗。
    町長自身も辞職し、移転計画全体が御破算になるという、何とも後味の悪い結末を迎えてしまいました。


    失敗した理由は色々あるのですが、
    最大の理由は「防衛施設庁から『秘密にしろ』と厳命された」ことでしょう。
    過去に多数のトラブルを抱えている夜間発着訓練を「誘致する」という一大事ですから、
    当然地元自治体や周辺市町村との協議が必要だったわけですし、
    町長さんも協議を行うつもりだったようですが、
    防衛施設庁の出した指示のせいで表だった協議が行えず、
    多くの関係者にとって「寝耳に水」という事態を招いてしまったわけです。
    また、舞台となった沖美町が周辺市町村と合併協議会を開いていたということも見逃せません。
    合併が実現した場合には、夜間発着訓練場の問題は「自分達の町の」問題となってしまいます。

    そんなわけで、論議するなら端からオープンに話を進めた方が良かったと思われる今回の事案。
    しかし、この問題をオープンにして論議したほうが良かったのかと訊ねられても、
    ストレートに「はい」と断言できない事情があります。
    これは推測になるのですが、計画をオープンにして論議したところで、
    計画そのものが潰されることは目に見えていたのではないかと思います。

    一般に、米軍基地の誘致に関して住民による反対運動が起こる場合には、
    多くの場合には「夜間の騒音」「墜落事故への恐怖」といった事柄を挙げるのですが、
    広島県沖美町で発生した今回の騒動では、県知事などが早い時期から
    「国際平和都市を前面に掲げている広島県に米軍基地は相応しくない」という趣旨の発言を行い
    基地誘致計画に正面から反対、それに数多くの平和団体などが賛同するという展開を見せていました。

    これは、強いて言うなれば「広島県固有の事情」。
    誘致断念に関する事実関係を見ている限りでは、
    前町長も防衛施設庁も、この「広島県固有の事情」を失念していたとしか思えないのです。
    これは夜間発着訓練移転計画を進めていた両者にとって致命的なミスとなったわけです……


    ……が、個人的には、この「広島県固有の事情」についても、再考・修正の余地があるように感じられます。

    アメリカと安全保障条約を結び、その中でアメリカ軍に基地を提供するよう決められている以上、
    日本国内のどこかに住む誰かが、基地によって発生する諸々の負担を引き受けないといけなくなります。
    今のところ、(地政学的な事情も絡むとはいえ)その負担の多くを沖縄県が負担しているわけで、
    沖縄米軍の一部施設を本土に移すべきではないのかという話がずーっと出ているんです。

    安全保障や同盟関係など重大な国益に関する問題ですので、
    安易にポンポン話を進めても良いわけではありません。
    しかし、「国際平和都市だから」という、地元以外では受け入れられ難い事情を理由にして
    安全保障問題におけるリスクの負担を問答無用で拒否するのも良いこととは思えません。

    「国際平和都市」と言って基地建設を拒否するのは格好良いかもしれませんが、
    だったら「被爆地を抱えていながら巨大な米軍基地も抱える長崎県の立場はどうなるんだ?」という
    素朴な疑問も無いわけではないんですがね(ぉ


    前町長の捨て台詞じゃないですけど、
    「沖縄だけが基地を負担する問題」はちゃんと考えないといませんし、
    「『国際平和都市』の看板だけでは飯は食えない」んです。
    無論、そんな看板程度で平和が守られるほど、国際政治の現実は優しいものではありません。

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