-

2003年12月の図書館長日誌

-

サロニア私立図書館・玄関へ戻る日誌収蔵室で過去の記録を閲覧する

-

  • 2003年12月27日 01時56分27秒
    元国務長官は、このように仰っていました

    中東が激動の時代を迎えた2003年ですが、あと100時間と少々で2004年を迎えようとしています。
    今のままですと、来年も今年と変わらぬ暗い年になりそうな気配はあるのですが、今は悲観的観測を抱かずに、
    年末年始の休暇をゆっくりと楽しむことにしたいと思います。

    さて、今年の年始に執筆した図書館長日誌で紹介したことなのですが、
    アメリカの共和党系シンクタンクに勤務する日高義樹氏が元国務長官ヘンリー・キッシンジャー氏にインタビューし、
    2003年の予測を行ってもらおうという野心的な(ただし毎年恒例でもある)番組がありました。
    「本当に全部当たっているのかどうか、今回は備忘録程度にメモをとっておくことにしました」と宣言し、
    しっかりとメモを残している以上、こいつは是非ともチェックしなければなりません(爆)


    ●アメリカの対イラク戦争は世界経済に大きな打撃は与えない。
    ●原油価格は戦争中は一時的に上昇するが、その後低下して安定する。
    戦争期間があまりに短過ぎたため、世界経済や為替相場に大きな影響が出るようなことはありませんでした。
    私が見聞きする限り、イラク戦争やアメリカとイスラム原理主義勢力との戦争は、「政治的な」危機になっているものの
    「経済的な」危機としては認識されることはありませんでした。
    戦後復興に際し、アメリカがイラク戦争に反対した国々を締め出していることが問題を投げ掛けていますが、
    これがGDPの値を変動させるほどの経済問題に直結するかというと、疑問符を数個も重ねざるを得ない状態です。
    むしろ、世界貿易センタービルへの「カミカゼ特攻」の再来の方が、世界経済に与えるダメージは大きいと思いますよ。

    ●北朝鮮との目立った軍事的衝突は起こらない。核開発関連で交渉が始まるとすれば今年後半に入ってから。
    軍事衝突もありませんでしたし、核開発に関する6ヶ国協議の開催は今年の8月27日から8月30日まで。
    ……そのままズバリですな。
    北朝鮮問題については、良い意味でも悪い意味でも「問題先送り」が目立った1年間となりました。

    ●ブッシュ大統領に対する支持は経済政策の成否次第だが、
    アメリカ経済は約3%成長すると見られ、支持率も高いまま推移するのではないか。

    アメリカの経済力を示す指標として、日本人でも簡単に理解できる(爆)数値を挙げられるだけ挙げてみました。

    ○ダウ工業平均:年初は8000ドル代後半。最低値は7416.64ドル。12月26日時点で、10330ドル近辺で推移。
    ○NASDAQ:年初は1350ポイント前後。最低値は1253.22ポイント。12月26日時点で、1970ポイント近辺で推移。
    ○S&P 500:年初は870ポイント前後。最低値は788.90ポイント。12月26日時点で、1095ポイント近辺で推移。
    ○2003年4〜9月期GDP推移:4〜6月は年率換算で3.1%、7〜9月期は同じく8.2%。
    ○2003年10月雇用統計:失業率6.0%(前月比-0.1%)。

    その他、アメリカの個人所得や消費者物価指数など経済指標の多くが上向きの値を示しており、
    表面的に見れば、アメリカ経済はそこそこ順調に推移していると言えるでしょう。
    実際には、10000ドル台の株価がバブルである恐れや、イラク戦争での戦費など
    アメリカ経済にも色々な不確定要素はあるのですが、明日すぐに株価が暴落する……ということは無さそうです。
    ブッシュ大統領の支持率ですが、12月23日付ワシントン・ポスト誌の記事によると「59%」。
    これは、フセイン大統領が捕まった直後という点も考慮しなければなりませんが、
    民主主義国家の国家元首が受ける支持率としては良い値に入ります。
    同時多発テロ直後の高支持率と比較すれば大きく落ち込んでいますが、十分に高いと言えるでしょう。
    今のまま経済が推移すれば、再選も現実味を帯びてくることになるでしょう。

    ●日本経済はもうしばらく悪化を続ける。抜け出せるとすれば今年か来年。
    アメリカと同じように、数値を引っ張ってきて考えてみましょう。

    ○日経平均株価:年初は8500円周辺。12月26日終値は10417.41円。
    ○東証株価指数:年初は840ポイント周辺。12月26日終値は1018.47ポイント。
    ○2003年7〜9月期GDP推移:年率換算で実質+2.2%、名目はほぼ横ばい(実際は微減)。OECDは年率+2.7%予測。
    ○2003年11月失業率:5.2%
    ○2003年11月有効求人倍率:0.74(前月比+0.04)。

    数値だけを見ると、日本の経済状況も多少は改善しつつあります。
    問題なのは、年金問題や構造改革問題などの解決が中途半端になってしまっていることや
    将来の年金・保険システムに対する不安感が払拭されていないという点でしょう。

    ●ロシアの政権は中国よりも不安定だが、2003年中は安定する。
    下院選挙で露骨なメディア介入を行い諸外国からの批判を浴びたプーチン政権ですが、
    露骨なメディア介入や反プーチン派の石油王を脱税で投獄したことが奏効し、
    今のところは大きな政治的混乱に見舞われておりません。
    チェチェン人勢力をはじめとするイスラム系ゲリラが不安定要因であることを除けば、
    プーチン政権はほぼ磐石と言っても差し支えないでしょう。

    ●中国の経済拡大は今後も続き、国内の情勢もさほど変わらないが、
    汚職追放などの課題に取り組まねばならない。

    日本に伝わってくる情報を見る限り、中国国内の情勢は「比較的」安定しているようです。
    新しい中国の舵取りを任されている胡錦濤国家主席をはじめとする新指導部も、
    6ヶ国協議の開催を無事に成功させるなど、今のところは順調な滑り出しを見せています。
    最近、台湾での住民投票実施を巡り、中台関係がギクシャクしたものになっていますが、
    これは「国内問題」ではありませんので考慮の対象外、ということで(爆)

    ●円相場は1ドル130円〜140円。
    1月初めの円相場は120円近辺でしたが、12月26日時点の円相場は1ドル106円前後
    これに関しては、ほぼ見事なまでに読みが外れたと考えても良いでしょう。


    全体で見ると、適中率は約90%といったところ。
    円相場の推移については、キッシンジャー氏が経済の専門家では無いことと、
    為替相場の予測が本質的に難しいことを考慮しなければならないとはいえ、見事なまでの外しっぷりです。
    ……とはいえ、その他の予想を外していないところはさすがと言うべきところ。
    「完璧である」と言うつもりは無いけれども、「聞くに値する」予測であることは確かだと思います。

    ちなみに、キッシンジャー氏による2004年の未来予想は、
    いつもの通り(?)第1日曜日の午後4時からテレビ東京系で放送されるそうです。

  • 2003年12月22日 00時20分27秒
    『Air』再検討

    今回の更新となったのは、SROM様から頂いた『Air』レビューです。
    『Air』のそもののレビューではなく、『Air』をレビューしている人々にも着目した記事ですので、
    18禁ゲームのレビュー等に携わっている片は御一読なさることをお勧めします。
    批判をするには正当な根拠が必要なんですよ……どの世界でもね。

    で、久々に発売元の会社のページを見てみたのですが……
    このソフト、まだ出ていなかったんだ……(汗)

  • 2003年12月14日 18時54分41秒
    「民営化」の程度問題

    懸案のプロジェクト開発は、無事に終わりました。はふぅ。
    でも、諸般の用事が舞い込んだ為、仕事で忙しい日々がずっと続いています。

    それはそうと、自衛隊のイラク派遣が「予定通り」決定されました。
    先週までだったら、「イラクは危険だから自衛隊は出さない」と言うことも可能だったのですが、
    テロによって日本の外交官2人が死んだ結果、「今更自衛隊を出さないとは言えなくなった」のが本当のところでしょう。
    外交官の死者2人が出てから、国内では自衛隊派遣に慎重な意見がたくさん出るようになったのですが、
    私はその様子を「死者が出てからでは遅いんだよなあ……」と冷ややかに眺めていたものです。
    イラクへの文民派遣という、自衛隊派遣以外の選択肢では真剣な考慮に値した選択肢も、
    テロの危険が現実化した状況では現実的ではなくなったのですし
    (丸腰の人間よりも機関銃で武装している人間のほうが「多少は」安全というものでしょう)。


    で、ここからが本題。

    昨日から今日にかけて、大阪で会社の忘年会があったため、新幹線を使って大阪まで旅行してきたのですが、
    その車中で、ちょっと興味深い本を読んでいました。
    題名は『折れたレール−イギリス国鉄民営化の失敗−』
    イギリスで運輸関係のコラム・論評等を多数執筆しているクリスチャン・ウルマー氏の作品で、
    20世紀末にイギリスで行われた国鉄民営化にまつわる問題点を克明に記しています。

    イギリスにおける国鉄民営化の論議はサッチャー政権時代からぽつぽつと行われていたのですが、
    その次のメージャー政権下で急にスピードアップし、
    ロバート・アドラーという保守党の超大物鉄道族議員の事故死(1993)や、
    ブレア政権閣僚の多くが国鉄民営化に好意的だったことも重なり、
    1997年に完全民営化が実現したわけです。

    しかし、この民営化には問題点が山ほどありまして……

    (1)車両運行を行う会社と、線路等の維持・管理を行う会社が分離されてしまった
    (2)車両運行会社だけでも25存在するなど、国鉄のシステムがバラバラにされてしまった
    (3)鉄道技術の民間会社への継承に失敗した
    (4)多くの鉄道会社が採算を最優先させた結果、安全を軽視する風潮が部分的にせよ広まった


    これは、上下一体型の民営化を成し遂げた日本の例とはあまりに大きくかけ離れています。
    特に、(4)が致命的でして、1999年10月15日にロンドン近郊のラドブロック・グルーヴで31人が死亡した事故や
    2000年10月17日にハットフィールドで4人が死亡した事故などで、
    事故に関わった各社の安全に対する配慮の薄さが問題視されています。

    前出の本では、1990年代後半にイギリスで続発した大型鉄道事故の検証を通じて論議を行い、
    当時鉄道施設の管理を行っていたレールトラック社(現在は準国営化)やその関連会社の
    安全体制の欠落を厳しく指摘しています。
    (日本のJRやアメリカのアムトラック社の人間が見たら、仰天するような話もありました)。
    それは、「鉄道より飛行機のほうが安全」と言われるほどの有様。
    他にも、「1つのレールの上を、相互乗り入れでもないのに、別の会社の鉄道が走っている」
    「列車の休止・遅刻は当たり前」
    という笑うに笑えない現状も生み出されています。

    同書における最終的な結論は、「イギリスの鉄道を再度国有化してみたら?」というものでした。

    以上のように、背筋を寒くさせるようなイギリスの国鉄民営化の見るも無残な結末を描き出した書籍を、
    私は、国鉄から民営化された会社の1つ、JR東海の運営する新幹線「のぞみ」の中で読んでいました。
    日本の国鉄もまた、イギリスと同様に多額の負債を抱えるなど非常に危険な状態となっていたのですが、
    1987年の民営化では、会社を業種別・地域別に7分割し、車両運行と鉄道施設の維持を同一の会社に任せるという
    上下が一体化した方式が採用されました。
    また、鉄道技術の研究に国が積極的に関与する姿勢も変わっていません。
    結果として、現在のJRは、JR貨物の苦境やトンネルを中心とした一部施設の老朽化、服務規定違反の発覚という不祥事など
    細かい問題は色々と山積みにされている状態になってはいるものの、
    民営化を直接・間接の原因とする致命的な事故は発生していません。
    (民営化後最大の事故は、1991年5月14日に信楽高原鐵道・貴生川〜紫香楽宮跡間で発生したものでして、
    この事故では死者が42人出ています。ただし、その原因は民営化とは全く無関係のものでした)

    今のところ、「日本の国鉄民営化は成功だった」と断言しても良い状況が続いているわけです。

    ……となると、次に出てくる疑問は、「……じゃあ、道路公団や郵政の民営化問題ってどうよ?」ということ。
    こちらについては、私の目から見れば「現在論議中」という状態で、とてもズバリとした結論を出せる状態じゃありません。
    ですが、事業の公共性を考えれば、資金的には無駄だと分かっていても、
    ある程度は国による関与が必要ではないかと思います。
    少なくとも、イギリスの国鉄やカリフォルニアの電力自由化のように、
    市場を至上のものと考え、「誰でも自由に参加できる」方式で民営化を進めることには強い抵抗を感じてしまいます。
    インフラの一部を担う以上、高い技術力と公共性、社員の使命感など、要求されるものは色々あるはずです。

    だからといって、郵便貯金の流用や年金の資産運用の失敗などが許されるわけではないのですが……。

-

-玄関(トップページ)