思い出・2
アメージュ・ラズリ
あたしは屋根の上から下を見下ろしていた。
「あいつが今回のターゲットね…」
そう呟きながら地面を馬で移動する男を見た。
「直ぐに片付く……か……」
そして、あたしはもう一度自分の頭の中でシュミレートした。
馬に乗ったターゲットがあたしの上を通る……周りには兵士がいる、だけど雑魚だ。
だからそこに向かって此処から飛び降りる、そしてターゲットを殺す。
でも、余り人は殺したくないだけど邪魔したら殺す…。
そして直ぐに逃げる……
シュミレートを終わらせ最後に目を瞑り言葉を呟いた。
「あたしは人形……感情を持たない人形………」
少し光を持っていた瞳が目を開けると人形のように光を持たない瞳になった。
そして側に立て掛けて置いた刀を取り馬が下を通る瞬間に飛び降りた。
刀を抜き名前の知らないターゲットまで飛び込み切り裂いて逃げる………筈だったが……。
キィィン!
次の瞬間あたしの刀は何者かによって弾かれていた。
何時の間にかあたしの軌道上には1人の兵士がいた。
「?! …っく!」
あたしは直ぐに体勢を立て直し、また馬上のターゲットに狙いをつけ飛び込んだ……が…
キィン! キィン!
またも同じ兵士に止められた。
兵士が続けざまに攻撃を仕掛けた……だが、あたしは寸前で避けた。
そして、跳躍して直ぐに周りに兵士が出てあたしを包囲した…。
だけど、あたしは周りの兵士を薙ぎ払った。
(あの兵士を倒さない限り無理だ…)
そう理解し兵士に飛び掛った。
左の刀を振り下ろした……弾かれた。
同時に右の刀も回る様に振りぬいた……少しかすった。
兵士の頬に薄く血が垂れた……いける!
そう、あたしは確信した……そしてもう1度飛び掛った。
兵士はまた刀を剣で止めた、そして囁いてきた。
「………お前は何故こんな事をする……?」
簡単な質問だった…。
「理由…? 依頼だからよ…悪い?」
あたしは薄く笑った。
すると兵士は……
「…そんな馬鹿げた理由で人を殺すな……」
そう言って右手を左腰にかけたもう1本の剣にかけ力のある一撃を刀に放った。
パキィィン!
刀は音を立てて砕けた……。
そして、剣の勢いは止まらず、あたしの右の脇腹を大きく切り裂いた。
「……がぁ……っく……」
ポタ………ポタ……ポタ……
痛い……赤い……熱い………。
明らかに依頼は失敗した……だけど、その前に……
「……あな…た……名前……は…なんていうの……?」
兵士は呟くように言った……。
「…キロール……キロール・シャルンホスト……」
「……キロールね……覚えといてあげる……そして、絶対に殺してやる……」
そう言って残された気力を振り絞り煙幕を使いこの場を何とか脱出した。
あたしは河原に座っていた……。
脇腹から血が溢れてくる……。
それを止める為に針を使って腹を縫った…。
痛い……だが、それ以上に頭の中が色んな事でゴチャゴチャになっていた。
初めてだった……任務に失敗したのは今回が初めてだった……。
任務……あの日……あの忌まわしき日……。
最後に見た景色……燃える教会……あたしを連れ去ろうとする男……。
新たに目を覚ました場所……あの男の……そして、その仲間のアジト……。
同い年の子供……あたしよりも大きい子供……。
振らされ続ける刀……泣き言も言うことは出来ない……。
1人……また1人と……喋らないただの肉片になるのを見続ける毎日……。
初めての任務………無垢な子供を演じた……心配になってくるターゲット……。
そして…あたしは…そんな人達の心臓を刃物で貫いていく……。
肉を突き刺す感触……その間に軋む骨の音……口から…傷口から吹き零れる……血液……。
痛い……心が………体が………。
体は休めば直ぐに戻る……でも、心は……。
なら、心を持たなければ良い……。
あたしは人形……心を持たない人形……。
だから、あたしは泣かない……。
だから、あたしは笑わない……。
だから、殺れと言われたら必ず殺してやるそう思い始めていた…。
(…そんな馬鹿げた理由で人を殺すな……)
あの兵士の言葉が蘇る……。
馬鹿げている……そんな事分かっている……。
殺したくない……分かってる事だ……だけど……だけど……。
何で、何であたしがこんな事で悩まなければならない……。
あいつのせいだ……あいつ……キロール・シャルンホスト………。
絶対に殺してやる………絶対に……。
そう思いながらあたしは目を閉じた……。
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