ハルバートへ

カーチャ・ボルジア

カーチャの部隊はアオヌマシズマ部隊の突撃も受けるも無事に切り抜け、リュッカの港町に辿り着いていた。同じアドレア海の港町でも、本来はルーンへ向かうはずであったがリュッカにいるのはアオヌマ部隊との戦闘で進路が変わってしまったからに他ならない。
補給がないカーチャ部隊にとしては身近な都市を渡り歩くしか長距離移動の術は考えられないのであった。 「リュッカの港町」そこはかつてクレアムーンの領土であり、通商や漁業で栄えた良質な漁港のある街であった。だが、帝国との国境に位置していることが災いし本戦争が勃発すると同時に帝国軍が侵攻を受ける。侵攻部隊の迎撃に打って出たクレア軍との戦闘の巻き添えを受け、今では都市も民も消え果た幽霊都市となっていた。かろうじて存在しているブラックマーケットのみが、かつてここが都市だったことを思い出させる唯一の存在である。

「カーチャ様、補給です。食料に武器、その他日常品です。」
「ご苦労だった。なにしろ脱走部隊だ。正規の補給は受けられぬ。脱出した時に持ち出した金子だけが頼りというのも情けない話だが、仕方ないだろう。」
「しかし、この街はもう終わりです。メインストリート、図書館、競技場、大会堂、すべて崩壊しています。教会すら瓦礫に埋まっていました。」
「マーケットはどこにあったのだ?」
「それが・・・ 墓地の中です。何故か月風麻耶の石仏の前が一番賑わっていました。」
「いつの間にか石仏か。この街が存在したこともいつしか忘れられるだろうが、石仏くらいは残るだろうな。名もない石仏かも知れないが・・・」
「兵者どもが・・・ ですね。」
カーチャとアメリアが感慨に浸っている時である。斥候から連絡が届いた。カオルィア率いる部隊が南方で展開しているというのである。
「どうやら、帝国軍はこの街を忘れていなかったようだな。」
「私達の事もです。」
「いらん事だけは覚えている連中だ。行くぞ! クレアと帝国の歴史に幕を閉じた街ではあるが、カーチャ部隊と帝国軍との歴史はまだ続いていることを、瓦礫の上に刻み付けてやるのだ!」

カーチャ脱走部隊は颯爽と南方へ駈けて行った。目指すはその先のハルバートである。

(2002.11.26)


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