ボルジア家の屋敷
カーチャ・ボルジア
サーネ・ボルジアの館はモリスの言う通り城塞都市ハルバートの南東部に位置していた。1000坪はあるだろう敷地の外側を堀が囲んでいる。いや、堀と言うよりは湖と言った方が適切だろうか?敷地近くを流れる川をせき止めて大きな池を作り出し、その中州部分に城壁を築いて庭園と城が築かれていた。要塞ではなく、只の居城として建築された屋敷にこれほどまでに堅固な防塞が築かれているからには何かがある。カーチャは池の袂に佇んでそう思った。
リュッカでカオルィア率いる遊撃騎嬢部隊に追撃されたカーチャ部隊であったが、アメリアの捨て身の防戦のおかげでルーンに逃げ込むことが出来た。だが、殿隊を自ら務めたアメリアはこの戦いで部隊から脱落した。カーチャの耳に残っているのは騎上からカーチャに脱出を求める叫び声だけである。
「無事であってくれれば。」
そう願うしかない。ルーンからハルバートまでは大規模な戦闘をすることもなかったが、警邏兵との小競り合いなどを繰り返す内に部隊は解散し、ボルジアの屋敷へ辿り着いたのはカーチャ一人であった。アメリアの消息どころかカーチャ自身もこうなったらどうなるのか判らない身なのである。
壊滅。カーチャ部隊は開戦以来、前線で戦い続けたのにも関わらずこの二文字からは無縁であった。事実、新規に徴兵された兵達はカーチャ部隊かゲイル部隊への入隊を希望する者が多かった。この両部隊の兵の消耗は共和国軍の中でも際立って低かったのである。反面、キロール、カオス部隊は配属された兵で帰って来たものはいないと首都の民の口にまでが噂が上るほど兵の消耗が激しい。新兵の中にはキロール部隊への配属書を受け取っただけで卒倒する者がいたくらいであった。だが、その無縁であったはずの壊滅もカーチャ以外に戦闘員がいないという現実では認めざるをえない。
「我が部隊もついに敗れたのか。でも、アタシの仕事はこれからよ。サーネ・ボルジアに会いアタシが誰なのか知るためにここまで来たのだから。アメリア、兵達、一緒に見られないのは残念だけど、お前たちの分までアタシが真実を見届けてあげる。」
日が落ちるのを待って、カーチャは上着代わりに着ていたマントを脱ぎ捨てた。下に身に付けているのは黒い水着のみである。ブラジャーとハイレグの他に太股に短剣が皮のサックでぶら下っているのが妙に色っぽい。音を立てる事無くそっとカーチャは池の中に身を沈めた。
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