once more...
朝霧 水菜
その日、エアードと水菜はバライの街に繰り出していた。
エアードが『ちょっと店でも見てくる』と言って出ようとした時、
それを聞いた水菜が『監視をつけます』と言ったのが発端だった。
名目上は監視だが、本音は単に俺と街を回りたい、という辺りだろう。
今はないが、その内、水菜には必ず再召集がかかる。
―良くも悪くも、こいつはシチル方面における帝国軍の将軍の1人なのだから。
水菜が前線からの伝書が届く度、不安げな面持ちで見ているのを知っているだけに、
俺はその本心を知っていながら、無下にこの申し出を断る気になれなかった。
(こんな事をしていたら、小雪にまた殺されかねないってのにな・・・)
いつから自分はこんなに他人を気遣うようになったのか―苦笑しながら、胸中で呟く。
俺が紫苑の申し出を受けて、あの因縁の地でこいつと戦った時からか。
それとも、戦場に赴く俺を不安がり、必死に占っている紗耶と関係を持った時からか。
或いは―考えて、止める。そんな事を考えても無意味だ。
「あ、エアードさん・・・果物屋です・・・・」
言いながら、嬉しそうな表情で水菜が袖を引っ張っていく。
それに連れられるように行ってみると、新鮮な果物が色々と並べられていた。
「おや、お2人さん・・・お若いの。カップルか?」
その店主が俺達を見ながら、ニヤニヤと―概ね俺の方を見て―笑いながら言ってくる。
それに同じように―ただし、こちらは精一杯の怒りを込めた―笑顔を返す。
細かい所だが、俺と水菜は肉体関係こそあれ、恋人ではない。
それは、水菜の方も十分にわかっているは―――
「はい・・・やっぱりそう見えますか・・・・?」
「・・・・・・・は?(−−;」
いつもと同じ頼りない口調で、しかし、ハッキリと言い切った水菜に、思考が止まった。
ナニイッテヤガルンダコノヤロウ―ケタケタと笑い出した店主に殺気を送りながら水菜を見やる。
当の本人は店主の笑いに笑顔で応えながら、早速、品定めに入っている。
「HAHAHA!オマエモオモシロイジョウダンヲイウヨウニナッタナ」
「冗談じゃないです・・・というか、何で機械口調なんですか?」
どこぞの外人さん顔負けの高笑いをあげる俺に、少しムッ、とした表情で水菜が答える。
その服の襟を鷲掴みにして、
「いいからちょっとこっちに来い!!」
「え、あっ・・・ひ、引っ張らないで下さい。服がのびてしまいますよ〜・・・・」
抗議の声をあげる水菜に構わず、ズルズルと引きずっていく。
背後で店主が「仲良くやれよ〜」などと言ってるのが聞こえた。
「うう・・・これ、お気に入りの服だったのに・・・・」
人通りから離れた路地裏に連れ込まれ、私は少しのびた襟を見ながらそう呟いた。
「うるさいっ!!」
―スパァァァァンッ・・・
どこから取り出したのか、エアードさんがハリセンで私の頭を叩き倒す。
その声からして怒っているようだけど―私にはその心当たりがなかった。
「痛い・・・そんな事する人嫌いです・・・・」
それでも何とか立ち上がり、呟く―と、いきなり頬を捕まれた。
「そんな事を言うのはこの口か?」
そのままジト目で睨むエアードさんに頬を引っ張られる。
どうやら、ちょっとした冗談も通じないくらい、ご立腹されているらしい。
「い、いたひれす・・・はなひてくだはい・・・・」
そう言うと、アッサリと、エアードさんは頬から手を離した。
そして、何かを探すかのように辺りを見回す―私も同じように見回すが、辺りに人の気配はしない。
まあ、さっきの大通りからはかなり離れたので、この時間には余り人は通らないのかもしれない。
「小雪は・・・居ないか・・・つってもアイツ、幽霊だしな」
「え・・・・・・?」
ボソリ、と何か呟いたエアードさんを、疑問符をあげながら改めて見やる。
エアードさんも同じタイミングでこちらを見たらしく―その視線が、見事に重なり合った。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
何となく気恥ずかしくなって、お互い、また視線をそらす。
そうやって、ジッ、と見つめられると、どうしても、あの風呂場の一件を思い出してしまう。
あの時は雰囲気で何となく関係を持ってしまったけど、後から冷静になって考えると相当恥ずかしい。
2人だけならまだしも、あの場にはメイリィさんが―聞いた話だと紫苑も―居たんだし。
「なあ・・・お前は俺の事が好きなのか?」
暫しの沈黙の後、エアードさんはポツリ、とそんな問いを発した。
「はい・・・好きですよ・・・・」
その問いに、私は、なんの躊躇いもなく答える。
最初はちょっと気になる程度だったと思う―義理堅い所とか、その辺りが。
けど、半年ぶりにシチルで会って―その時かな、自分がこの人を好きだ、っていうのに気づいたのは。
それからは、あっという間だった―本当に、自分でも驚くぐらいに。
そして、あの時―シチルで二度目に刃を交えた時、あやふやだった物が1つに固まった。
呆れるぐらい、私こと朝霧水菜はエアード・ブルーマスターの事が好きなのだと。
―例えそれが、私だけの一方的な感情であったとしても・・・
また、沈黙―面と向かって好きと言った相手に、どう答えるべきか迷う。
“果たしてエアード・ブルーマスターは朝霧水菜をどう思っているのか?”
まあ、少なくとも嫌いではない―嫌いな相手なら強制されても抱いたりはしない。
だとして、果たして好きなのか―それがまだわからなかった。
あやふやなままの気持ちで付き合っていく事は、コイツにとっても良くないのではないか。
つと、助けを求めるように戻した視線が、真剣な水菜のそれと絡み合う。
いや、これは真剣とは違う―何か、思い詰めたような・・・危うい・・・・
―例え私の一方的な感情だったとしても、それはそれで構わなかった。
水菜が一歩、俺の方に近づいてくる―何か、張り詰めた空気が辺りに漂っている。
―構わなかった・・・少なくとも、あの日、抱かれるまでは。
もう一歩、距離が詰まる。水菜の手が俺の背中に回る―俺は、逃げたいのか、受け入れたいのか。
―あの日から、何かが変わった。それは少しだけど・・・大きな変化・・・・
水菜と俺の体が密着し、水菜が静かに瞳を閉じる―結局、俺はどちらかわからないままに・・・
―精一杯、自分の気持ちをぶつけて、相手に振り向いて貰おう。だから、私は・・・・
――そして、2人は、2度目の口づけを交わした。
長い静寂―今度は意図的な物ではなくて、お互いに言葉を発せられなかったから。
―ドサッ・・・・
お互いの舌を絡ませながら、体までもつれあうように、倒れる。
取り立てて水菜の舌使いは上手くない―それも当然か。コイツは殆ど男性経験もないはずだ。
ただ、それでも必死に舌を絡ませ、空いた手で俺の股間を弄っている。
上気した頬と、荒い息遣い―それにつられるように、何となく、胸に手を伸ばす。
「・・っ・・・・んんっ!!」
軽く、服の上から力を入れただけで、水菜はピクンッ、と反応した。
(・・・・・・・・・・あれ?)
大げさともいえる反応に、胸中で疑問符をあげる―小雪や紗耶の時は、こんなに反応しなかった。
試しに、何度か力を入れる―その度に、水菜は体を震わせ、小さな呻きを漏らした。
「んっ・・んはっ!あっ・・・ふぁっ・・・・」
長い長い口づけを終え、唇を離した途端、水菜の口から甘い声が漏れる。
気がつけば、俺の股間を弄っていた手は止まり、押し倒してきた時の勢いは消えうせていた。
まあ、流石に―幾ら鈍い男でも、ここまでくれば、気づく。
「水菜・・・お前、ひょっとして・・・・(==;」
「あっ・・・う・・んっ!私、手と頭と足先以外は・・・触られると・・弱いみたいなんです・・・」
胸を揉む手を休めてやると、少し恥ずかしそうに水菜はそう呟いた。
確かに―この前の風呂場での一件の時も、乱れすぎている気はしていたが、
(これは・・・面白いかもしれない・・・・)
まるで苛めてくださいと言わんばかりの体質に、思わず呟く。
また、胸を揉む手を動かし始めると、直ぐに水菜は押し殺した喘ぎを漏らし始めた。
その間に、もう片方の手をはだけたスカートの裾から忍び込ませ、太腿を撫で上げる。
「ひゃあうっ!そんな・・いきな・・り・・・っ!」
水菜の抗議の声を無視して手を股間まで持っていくと、
既にそこは、下着の上からでもわかるぐらいの湿りを見せていた。
それを俺に知られた事が恥ずかしいのか、元から赤かった顔が更に紅潮している。
ひょっとしたら、昼下がりのこんな場所でやっているという事が、拍車をかけているのかもしれない。
(俺も・・・人の事は言えないか)
すっかり膨張してしまった股間を見下ろし、顔には出さず苦笑を漏らす。
下着の間に手を滑り込ませると、既に水菜の秘部は熱く潤い、
下手な愛撫なしでも受け入れられそうだった―何より、俺が段々と理性をなくしてきている。
完全に理性をなくしてしまえば、今の俺なら水菜を人形の様に扱ってしまうかもしれない。
それよりも早く、熱くなった頭を冷ましておきたかった。
「水菜、そろそろいくぞ・・・いいな?」
自らの逸物を外気に晒し、熱く潤んだ瞳を向ける水菜に言う。
熱く煮えたぎったそれを、今すぐ埋めたい衝動に駆られるが、それを何とか理性で押さえ込む。
水菜はコクリ、と頷くと、入れやすいようにとの事だろう―軽く腰を浮かせた。
そんな水菜のスカートの裾をたくし上げ、
「咥えてろ・・・その方が、声も抑えられるだろ?」
言って、手早く下着を下ろす。滲み出た愛液に光る秘裂が、ハッキリと見てとれた。
「恥ずかしい・・・れす・・・あんまり見ないで下さい・・・・」
スカートの裾を咥えたまま、小さな声で水菜が気恥ずかしげに囁く。
それを言うなら、俺も十分に恥ずかしいんだが、と思うが、それは敢えて言わないでおく。
以前はメイリィに軽く開いてもらった秘裂を、今度は力任せに押し広げた。
―ジュプッ・・・ズブズブッ・・・・
「んっ・・・んふっ・・・・んんっ・・・・」
ビクッ、と背中を震えさせて、思わず引きそうになる水菜の腰を掴み、更に奥へと掻き分けていく。
俺の生々しい物が水菜の膣に埋没していく様を見るのは、何とも官能的で―背徳的だった。
流石に、2度目とだけはあって、その締まりや熱さもわかっていたので、いきなり射精感はこなかった。
その代わりかは知らないが、一瞬、過ぎった小雪や紗耶の顔を、かぶりを振って振り払う。
「んくっ・・・うっ・・・んふぁっ・・・・」
俺は前回と殆ど変わらなくても、騎乗位は水菜にとっては未知の体位なのだろう。
ただでさえ感度の良さで翻弄されやすいのに、余計に激しく身悶えしている。
それでも、必死に声を押し殺そうとしているのが、何故かより厭らしく見えた。
そんな水菜に応えるように、服を捲り上げ、胸を揉み、深く突き上げ、行為を激しくしていく。
無防備にはだけさせられた双乳は、大きくもなく小さくもなく、握れば少し余るぐらい。
桃色に色づいた、それこそ桃のような膨らみを弄びながら、先端の乳首を押し潰す。
「ん・・・んあっ!こんなの・・はげしすぎ・・て・・・たえられません・・・」
途端、咥えていた裾を離し、堪えきれなくなった喘ぎが堰を切ったように溢れ出した。
まあ、水菜にしてはよくもったほうだろう―元から俺も、耐えられるとは思ってはいなかった。
崩れ落ちそうになる体を、胸を揉む手で支えてやりながら、最後に向けてペースを速めていく。
「だ、だめ・・・わたし・・きちゃう・・・きちゃい・・ま・・すっ!!」
ヒクヒクと痙攣を始める襞が、まるで、俺を誘うかのように蠢いた。
「・・・・っ・・・っあ!」
その誘いに従い、己が欲望のたけを愛液で濡れそぼる膣に、解き放つ。
「ふぁあっ!あっ!んああああああっ!!!」
熱い液体を自分の中に受け止めながら、水菜もまた、絶頂へと上り詰めたようだった。
ガクッ、と倒れこむようにして落ちてきた水菜を受け止め、俺はその唇にもう1度、キスをする・・・
「ああっ!だから、俺は何をしてるんだってば!!」
はだけた衣服を戻し、静かな寝息をたてる水菜を寝かしてやってから、俺は叫んでいた。
ついこの間、これで小雪に殺されかけたというのに、
結局、好きなのかもわからないまま、またコイツを抱いてしまった。
せめてもの救いは、今回は俺からではなく、コイツから押し倒してきた、という事か。
「って、それを言ったら、前もアイツに強制されて・・・」
言いながら、どんどんと自分が泥沼にはまってきているような気がして、ズーンッ、と沈む。
「まさか・・・このまま主をここに置いていく気じゃないだろうニャ?」
「おわっ!!」
突然、現れた紫苑に驚いて後ずさる―そういえば、もう1つ、小雪と同じくらいに怖いのが居たな。
この黒猫―水菜のために動いてるのはわかるんだが、いまいち、その目的が掴めない。
「も、もし、置いていったら、ど・・どうする気だ?」
「サァ・・・然るべき所に報告するだけニャ」
ニコリ、と笑いもせずに、紫苑―ま、まさか、コイツがこの前の事を小雪に?
「じゃあ、後はよろしく頼むニャ」
言いながら、何事もなかったように去っていく紫苑を見送る。
「やっぱり・・・もう泥沼にはまってしまってたらしい」
その呟きは、バライの街の静寂の中に、あっという間に飲み込まれていった・・・
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