出会い

御剣 叢雲

叢雲はお萩の山を眺めていた。
「さすがにこんなには食べれないし…みんなに分けても余るよね…」
最初はあまり気づかなかったのだが、お萩の山の大きさと言ったら高さは2メートルを超え、縦横の幅も数メートルという代物だった。
「……中にもあるんだよね…コレ」
既に野営地の移動準備も終わりかけ、その場には元の草原と巨大なお萩の山が何個か残っていた。
「一個の大きさがコレくらい…山がこれだけあるから……一人20個食べても余るみたい…」
お萩の山を目の前にした白峰蛍がわずかの時間の間に計算し、驚愕の事実を明かした。
「とりあえず…20個ずつ…まとめてみよっか…」

と言う会話があったのが数時間前。今は手の空いた40人ほどが一心不乱にお萩を個別包装している。いつの間にか山が一つ消え、二つ目も消え、三つ目の山の半分ほどに到達していた。
「結構減ったね〜」
お萩を包装する手を止めて茶の入った湯飲みに伸ばしながら叢雲は残り半分ほどになった三つ目の山を眺めた。『将軍がこんな仕事をしないでください』と言われはしたが、包装されて行くお萩のうちの数個が叢雲の腹の中に入っていっていることを考えればそんな意見も吹き飛ぶ。
「さて…と」
突然立ち上がった叢雲がちょっと外の空気吸ってくると言ってふらふらと出かけていった。

「…こんなトコで何してるんですか?」
お萩の山からさほど遠くない場所で叢雲は手に草を持ってかがみこんでいる人影を見つけて声をかけた。
「私ですか?薬草を採ってるんですよ」
このあたりはいい薬になる薬草が多いからと言って女性は顔を上げた。その顔をじっと叢雲が見つめる。
「どうかされました?」
「え〜と……どっかで見たような顔だな〜って思うんですけど…」
「私の名前はファイン・ウェザーと言います。しがない薬師ですよ…そちらは御剣将軍でしたっけ」
「あっ、えあーどさん拾った人ですか!? それから私のことは叢雲でいいです」
悩んでいるような表情だった叢雲の顔色が一気に明るくなる。
「そうですよ。それにしても思ってた以上にかわいい人ですね、そういう人好きですよ」
それに答えるようにどこか謎めいた微笑を浮かべてファインが立ち上がる。
「私あなたのこと気に入っちゃいました。ちょっとイイことでもヤりに行きませんか?」
「いいこと…?」
「言ったでしょう? 私、あなたのこと気に入ったって」
依然謎めいた笑顔を浮かべているファインの表情から、叢雲は『イイこと』が何か全く察することができなかった。
「う〜ん…まあい…」
「こらっ!! こんなトコで何油売ってんの!!」
なんとなくいいと言おうとしていた叢雲の声は真後ろからやってきた緋和に遮られた。
「もう準備できたから移動するよ!! …って誰かいたの?すいません、話の腰折ってしまって…」
「いえ、ちょうど終わったところなので…じゃあ叢雲さん、また今度お会いしましょう」
「あ、うん。じゃあまた〜」

そして叢雲たちは戦線へと飛び出していくのだった。

(2002.09.25)


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