パンドラの一日 〜午前〜「ちょっと安らぎ?」

語り手エリー

部屋を出たパンドラは兵舎の近くにある建物に入っていった。
其処には軍の事務の類を担当する機能が集まっている。


パンドラが目指している一室は、
第4部隊の事務処理に割り当てられた部屋だった。


部屋の前に辿り着く。
まだ、朝早いにもかかわらず中には人の気配がある。
軽くノック、予想通りの返事を確認して入室。
「おはようございます。」
「おはようございます。パンドラ将軍」
中に居たのは「聖蓮」の軍師・丙さん。
建前上、パンドラの副官だが実際は彼女が指揮官といえる。
単独戦闘以外の能力が凄まじく低いパンドラが
将軍として部隊を率いても部隊として機能しない。
丙さんの存在があってこそ「聖蓮」は、部隊として成り立つ。
故、事実上この部屋は丙さんの執務室になっていた。

「今朝はまたずいぶん早いですね?」
「今日は日中予定があるので溜まっている仕事を
朝の間に片付けておこうと思いまして、将軍は?」
「あーっと、・・・・差し入れ・・・・・かな?」
疑問型なのは試食もかねて貰うからだ。
パンドラの舌は正確ではあるが、偶に人と食い違う時がある。
その為、新しい味を出すのにに挑戦した場合等は、
大勢に配る前に必ず誰かに試食して貰っている。
「・・・・・・・・・・で、今度は何に挑戦されたので?」
丙さんは答えに困る様子から察したらしい。
丙さんと組んでから既にかなりの回数試食をお願いしている。
悪いかとも思ったが、嫌がってはいない様なので繰り返している。
「羊羹に挑戦してみました。多分喰えるモノの筈なのですが」
手元の書類が一段落付いた丙さんが机を片付けながら顔を上げる。
「では、休憩も兼ねてお茶にでもしましょうか」
「ああ、良いですね。すぐ用意しますから待っていて下さい」
そう言って、羊羹とお茶を用意し始める。
この部屋にも簡単な調理場?があるので用意は簡単に終わった。
「用意出来ました〜」


やけに馴染んでいるのは日頃繰り返している故だった。
建前上指揮官であるパンドラが処理をしなければいけない事は
細々した所で数多く発生する。些細な事が多いが
聖蓮を実際に取り仕切っているのが丙さんである以上、彼女の仕事は多い。
余計な手間を省かせる為に、彼女が事務処理している時は
なるべくパンドラも立ち会う様にしている。
が、パンドラが処理しなければいけないだけで簡単な事が多い。
結果として手持ちぶさたなパンドラは細々した手伝いを買ってでている。
最初は遠慮されたが、パンドラの粘りに負けて受け入れられた。
どっちが指揮官でどっちが補佐役なのか分からない状態になっている。


パンドラは丙さんが羊羹を食べるのをじっと見ている。
見つめているのも悪いかと思って自分の分の羊羹をつつく。
甘いモノは大好物なのでいくらでも食える。
が、やはり丙さんの反応が気になる。お茶をがぶ飲みして気を紛らわす。
最近、「パンドラ」らしくない。
「冷静」やら「無関心」やら何やらが欠けてきている。
「(まあ、それもいいか。せっかく無理に起き続けているんだから)」
と、考えている間に丙さんが羊羹を食べ終えていた。
「どうでしたか?」
茶を啜っている丙さんに訊ねてみる。
「そうですね。・・・・美味しかったです。御馳走様でした」
丙さんは余程の事でない限り平凡な答えを返してくる。
この場合、どう解釈すべきか迷う。
「(まあ、取りあえず人様に喰わせられるモノが出来たって事でいいか)」
「わざわざすみませんでした。・・・・・・・またお願いしていいですか?」
「まあ、構いませんが」
怒ってないようだ。多分ではあるが


その後、しばらく仕事を手伝って貰う。
正確に状況を描写しようとすれば「手伝う」になるのであろうが、
本来自分がやるべき仕事を押しつけている現状ではとても言えない。

書類整理やら何やらを加速度的にこなしていく。
実のところパンドラの事務能力はかなり高いとも言える。
書類整理等の大概はほぼ明確な「正解」が決まっている様な事が多いので、
「知識」と「手間」が必要ではあるが殆どが正しく処理出来る。
そしてその類に関しては、パンドラの処理は異常な程早かった。
が、「正解」の決まっていない問題も当然ある。
パンドラはそれが滅法苦手だった。故に丙さんの協力が不可欠となる。


丙さんが去った後も暫く続け、一段落付いた頃にはもう日が高かった。

(2002.10.07)


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