パンドラの一日 〜夜〜

語り手エリー

永倉さんとの話(?)も終わり、帰路に就く。
もう夜も更けていた。雲が懸かっていて星が見えないのが痛い。

知恵熱の出そうな(さっきまで本当に出ていたが)頭を夜風が冷やす。
永倉さんから聞いたこと、話し合った事を何とか噛み砕いて解釈する。
そうでもしないとすぐにあるだけの知識になってしまいそうだった。
「(頭の働きまで鈍っているんでしょうかねぇ。だとすると深刻)」


パンドラの性質上、思考能力の低下は致命的な事態を招く。
所謂「邪道」な行動が多いので、判断を間違うとまるで効果がない。
邪道、正統を含めて数多くの手段を持つパンドラ。
それらを的確な判断の基に駆使してこそパンドラの真価は発揮される。


風に当たりながら遠回りして歩き続けていると雲が晴れてきた。
完全には晴れていないので星は少ししか見えない。
だが、月は見えた。綺麗な半月。
不覚にもまた吼えたくなる。体内から溢れそうな衝動。
やはり太陽より月の方が遙かに強く誘惑してくる。
それだけ相性が良いのだろうが、こんな時は困る。
「(でも、やっぱりいいな。全身が活性化するこの感覚は)」
折角大人しい振りをしてきた努力をぶち壊しかねない事を考える。
その感覚に身を任せば容易く「本性」を晒すだろう。
それ自体は問題ない。「本性」が、出てくるのはむしろ喜ばしい。
だが、パンドラは人と「本性」で付き合う気はない。
巻き込むのは美味しくない。
例え此処まで影響が出る可能性が低くとも備えるに越した事はなかった。

「(それにしても、良い月だな。うっすら雲が懸かっているのに・・・・・・・)」
故郷の月を思い出した。ちょっとホームシック。


兵舎に辿り着き、部屋に戻ろうとした所で考え直す。
そして、また歩き出す。


思った通り、また人の気配がする。苦笑しつつノック。
「パンドラです。入りますよ。」
返事を確認して入室。

「こんばんは、パンドラ将軍」
「こんばんは、・・・・・・・・もう遅いですよ?」
「明日も日中予定が入ったので今日中にある程度進めようと思いまして、
もっと早く終わらす予定だったのですが、思う様に進みませんでした」
「・・・・・・・さいですか」
明日は暇な(筈)なので今日は寝なくても良いだろう。
朝同様、また二人で仕事を片付ける。
正直な話、「聖蓮」は数ある部隊の中で一番机仕事が遅い。
パンドラが教官経由で採用された事が原因で仕事が増え、
将軍が処理する書類を2人がかりで処理する為効率が悪い。
結果としてこの部屋に缶詰になる事は多かった。
丙さんが赴任して来る以前、パンドラは此処に寝泊まりしていた。
「すいませんねぇ、私が至らぬばかりに」
「気になさらずに、苦労は承知で此処に来たのですから」
何度目か分からぬ会話、赴任当時から数えれば百を超えるだろう。
「ねぇ、丙さん・・・・・もっと良い将軍に付こうと思った事は?」
「無いです。此処では私の能力が生かせるでしょうから」
「迷惑じゃ無いですか?」
「別に」

そんな事を話しながら仕事を続ける。


結局終わらず、翌日も早朝から2人で仕事をする事になる。

(2002.10.08)


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