モンキー・ラヴ・ダンス(v)

アオヌマシズマ

−−−−前回までのあらすじ

「彼」に存在価値は無かった。
「死ぬのが怖い」から生きている。それだけの人間だった。

いつもの様に士官学校でイジメを受け
「自分は霊長類サル化、ヒトモドキであります」
等、自虐的な独り言を呟きながら帰路に着く。
(ただし本当にそう考えているわけではない。
 プライドだけは人一倍高い彼が、自我を保つ為に編み出した
 悲しい発散法なのだ。)

いつも通りに、無為、不毛な1日を終えた彼を待っていたのは
唯一の友人イワンだった・・・勝手にあがりこんでいる。


     【今、そこにある風景】


 「あのさぁ」
イワン、語りかける。

 「ンガァ?」
彼、寝転びながら返す。

 「やっぱ愛なのかねぇ」
イワン、しみじみと言う。

彼、はね起きて言い返す。
 「またそんな事言ってるのかよ。
  ウチらにゃあ全く関係ない問題だぜよ、んなもんは。
  飛びたいペンギンみたいなもんさ。
  そりゃあ飛べたらどこまでも飛んで行って月に永住しちゃうね」
 「でもさぁ・・・」
 「あぁ言いたいことは分かるよ。うん。君もそういう年頃だ。
  でもねぇ・・・でも・・・ねぇ」

2・3秒沈黙し、畳をジッと見つめる。

 「ダァアアアアア!」
彼、立ち上がって叫ぶ。

 「メスがオスを選ぶ基準って解るか?
  POWERだよ、POWER!!
  より強く、優れた遺伝子を選ぶ様プログラムされてんだ。女ってのは。
  用はよう、力なんだよチ・カ・ラァ!
  メス=力の犬なわけヨ!
  筋力、権力、金・・・色々あんだろうが
  強ぇヤツんとこに女は集中すんだよォ!!」

彼、シナッとした格好をして
ワタシはカレの人柄が好きなの♪
 この類の言葉も所詮はタテマエであり、なんのこたぁない。
 そいつが生物として優れているからヤってんだ。
 エェッ、分かる? ロマンだの無償の愛なんちゅうもんは所詮バリゲードに過ぎんのだよ。
 分かるか!! ボクノラグライナ語ツウジテマスカー
 畜生!! 畜生!! 畜生!!」 【がすがすと壁に頭をぶつける】

イワン、寝転びながら反論する。
「チェリー全てが劣等なんかい?
 優れた人間のみがツガイ持ちかっつーとそんな事もないと思うんだけどね?」

彼、幼児を優しく諭すような表情で
 「いいか。金・筋力・財力等
  目に見えるものだけが『基準』ではないんだ。
  ルックス、話術、雰囲気、カリスマ…
  ツガイ持ちには必ず『要素』がある。
  分かるかい、坊や」
 「その論理で行くと
  大多数の、特にとりえ無しの普通人間は、生涯チェリーって事じゃん。」

 「普通?? 凡人? 衆愚?
  普通である事をエラく軽視している様だが・・・
  それじゃ君はどうなんだ? 特別なのか?
  違うだろう。『普通』にすら辿りつけていない。
  社会の底辺を張い続ける日々さ。
  普通である事は、大変なことなんだよ。
  仕官学校の成績表を考えてみなさい。
  平均点っていうのは真ん中。すなわちその下も半分以上いる訳だ。
  君はどうなんだ?」

 「うーん、ボクを見くびらないで欲しいナァ。
  ボク、そういうことは既に去年の夏に諦めているんだよ。
  ボクみたいなエリートとキミ達を一緒にしないでくれたまえ」

今まで立ち上がり雄弁に思想を振りまいていた「彼」だが、ここでDOWN。
 「う〜ん、でもここまでにはなりたくないなぁ、どうすればいいと思うよ」
 「うーん・・・」イワンも唸る。

(2002.09.16)


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