モンキー・ラヴ・ダンス(xxii)『イワンの馬鹿』

アオヌマシズマ

ボキは、今まで生きてきて
自分以外の『誰か』に
微笑んで受け入れられた事など、一度も無かった。
本当はみんな、ボキの事を愛していたんだね。
ひとつなんだね。


     MONKEY LOve DANCE  
       モンキー    ラヴ    ダンス
         完結編:イワンの馬鹿


「ごめ〜ん、待ったぁ?」

若草模様のワンピースを着た女の子が
にこやかに笑いながら、駆け寄ってくる。

「いや、全然。今来たとこだよ。」

少年イワンは、微笑んでそれに応えた。

彼女が笑う。
「あははは」
イワンも笑う。
「ハハハハ」

そして、2人は並んで歩き始めた。
行き先は駅前広場の大劇場だ。
現在公演中の歌劇『小麦畑の見える丘で』には
今、帝都で大人気の有名俳優が出演している。
幼馴染の2人が10年後に約束の場所で再会するという
なんともまぁ、ベタなラブものだが…
(しかし、こうして考えると全米ナンバーワンも、エロゲーもあまり変わらんな)

要するにこういうもんは、製作者が定めたであろう
ここで泣けよ!?オラ、泣け!!今すぐ泣け!!的なシーンにおいて
バカOLが一斉に、パブロフの犬の如く
  「むっ、むっ、むっ……」
と咽び泣く為の・・・そう、いわば『自己陶酔儀式』のオカズみたいなもんだ。
クダラン俗物の果ての産物だ。
タダ券貰ってでも行ってやるかよ。ヴォケが。
とまぁ、普段のイワンならこう考える筈だったが

『せっかくのデートだし、たまにはこんなのも良いよな』
今日は、そんな気分だった。

内容はやはり想像通り陳腐な物であったが
『横にカノジョが居る』というだけで全く別物に見えてくるから不思議だ。
クダラナイ色恋沙汰も、甘く切ない素敵な恋物語に変わる。
隣に座る彼女の方を見ると、予定調和のシーンで少し目を潤ませていた。

「面白かったね」
劇が終わった後、カノジョがそう言ったので
「まぁ、あの手の作品じゃ良い方だね」
と、イワンは応えた。

劇場を出た後、2人は喫茶店に入り
イワンがアイスティー、カノジョがいちごパフェを頼んだ。
しばらくして、ウェイトレスが注文の品を運んで来る。
「お待たせしました。」
「あっ。いちごパフェは向こう側に置いといて下さい。後でもうひとり来ますので」
「は、はぁ・・・」

2人でしばらく他愛の無い話をしていると
いかにも「バッカでーす」というハナタレ女子高生2人組が後席に座った。
 
 「こないだぁ〜、メグミとマサシ別れたらしいよ〜。」
 「マジで〜?」
 「マサシさ〜、あたしもちょい付き合ってた事あんだけど〜
  フェラばっかセガムんだよ、アイツ。」 
 「あー、あたしダメ。アゴ疲れっから嫌。」
 「普段強がってるクセ、咥えてやってる時の顔がかなりバカっぽくて〜。
  ていうかマジ猿っぽくない?アイツ。」
 「アハハハハハ、マジ笑える〜」



この世で最も醜悪な生き物を見た気分になるイワン。

「・・・い、行こう。」

勘定を済ませ、足早に店を立ち去った。
 
      ・
      ・
      ・            

手付かずのいちごパフェの器の底に、綺麗に水滴が貯まっていた。

つづく

(2002.10.15 / 2002.10.21)


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