モンキー・ラヴ・ダンス(xxiv)『イワンの馬鹿』

アオヌマシズマ

↓からの続き


 「・・・うん、分かった」
 「それでさっきの続きなんだけど、何だっけ?
  そうそう、あなたの弱さがどうのって話だったよね。
  他者との関わりが極端に希薄だと思うのよ。あなたって。
  あなたを構成するほとんどの要素は、メディア・・・間接的なものでしか培ってないと思う。
  ていうかそれらに依存してるのね。
  スケキヨクンとの決定的な差は、そこにある。
  『オタク』で『ダメ人間』の二重苦だよね。はっきり言っちゃうと。
  それでもあなたは『自分は違う』と主張する。
  無駄な足掻きだなんて事ぐらい、わかってるのに。」
 「うん・・・って言うかさぁ」
 「何?」
 「・・・知り過ぎじゃん・・・」
 「ハハ、そう言えばそうだね。そりゃあなたが作ったんだからねぇ。
 でももうちょっと付き合ってよ。・・・フフこれがホントの『付き合う』ってコトなのかなぁ」

それを聞いて、イワンは苦笑いした。

 「それでさぁ、確かにあなたは他の同年代の子達とは
  ある面では『異質』だと思うの。優劣は別としてね。
  あなたにしか見えないものもある。
  けど、それ以上にあなたには見えていないものがある。
  けれど抗う術を知らないから、悶々と過ごすしかなかった・・・。
  ただ、いつでも『自分はいつかやってやる』って想いはあった。
  色々言ってみたけど、結局は行動起こす以外ないんじゃないかな?
  頭で考えてるだけじゃダメなんだよね。月並みだけど。
  実際にぶつかってみれば、嫌でも解ってくる事があるだろうし・・・
  あたしみたいな虚しいモノを創らなくても済むと思うから。
  こう言うのもナンだけど、言っとくね。あなたのことは好き。・・・なんか照れるね」
 「あのー、・・・ありがとう」
 「何言ってんの。っていうかこれは全部あなたの妄想なんだから。
  でもなんかやんなさいよ。良くわかんないけど。
  ・・・っていうかさ、あなたは結局只寂しいだけ。
  こんな虚像作り出して、デートだのなんだのとオナニーの真似事して
  『癒されてる』って妄想してる、イカレタ、ネクラオタクヤローなの。・
  ・・あぁ、言えて気持ち良かった。・・・ゴメン」
 「いいよ、いいよ、そんなことは、どうでも。
  今が、一瞬が、楽しければさ。
  それよりあのさぁ、馬鹿らしい空想だけどさぁ。
  今、この状況が夢オチでさぁ。
  実は自分は妻子持ちでしたってぇのはアリかね?
  目を覚ましたボキに、奥さんが『どんな夢見てたの?』とか聞くんだよ。
  で、ボキは言うんだ。『ああ、すごい悪夢だったよ』
  ないかなぁ。たまにこうなんだ。
  今起こっているのは架空の出来事なんだ。嘘なんだ!って思っちゃうんだよね。」
 「ハハハ、ダメじゃん。
  でもさ、ある意味ロマンだよね。そういうのって。
  世間の風当たりは冷たいよ。ま・・・面白みの無い人生を生きていくの。
  ねぇ、手のひらを合わして」
 「そ、そんなことはできないよ、だって君はあたまの中にしか存在しないんだ」
 「ううん、ここまであたしを具現化できたんだ。だからできるよ。
  ・・・あ。ほら、もうほとんど消えかかってんだから早くしないと」
 「うん・・・や、やってみるよ」

 イワンは目をつむり、右手を前に突き出した。すると・・・
 実際何もありはしないのだが、手のひら全体がぬくもりに覆われた。
 暖かい気持ちが彼の身体の中を駆け巡る。

 「あぁ・・・出来たよ。ほら、出来たよ。」
 「ね、こうしてると『繋がってる』・・・って実感できるでしょ。
  セックスなんかしなくたってこんなに素晴らしい気持ちになれるの。
 ・・・あぁ、あなたの気持ちがほぐれ切って、ほとんどイメージが無くなっちゃったみたいだね。
 もうこれでお別れになるけどさ・・・あたしのこと、覚えててね?
 できるだけ、長く・・・さ。それだけでいいから」
 「ま、まだ、まだいて欲しいよ」
 「そう言って貰えるのはとても嬉しいけど・・・
  あたしはもうすぐ消えるの。あなたが一番よく解ってるでしょ?」 

 イワンは必死にカノジョを『再現』しようとした。
 だが、曖昧な輪郭等しか出てこない・・・。

 「多分、あなたはホントにあたしを愛してくれてるの。
  その気持ちだけでもう充分だから」

 
 「じゃあ、ね」

         ・
         ・
         ・
        
 そして彼女はイワンの前から消え去った。

−−−愛する人が死んでしまうと、こんな気持ちになるのかなぁ・・・
 
 カップルのイチャつく公園の中、独り立ちつくしながら
 彼の中で『暖かい気持ち』と『空虚な想い』が回り続けていた。


つづく

(2002.10.27)


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