モンキー・ラヴ・ダンス(xxvii)『イワンの馬鹿』
アオヌマシズマ
完結編・イワンの馬鹿
それが、君の望んだ世界。(つづき)
『赤い糸』は学生寮を出て、大通りに続いていた。
人通りが多い時間帯にも関わらず、誰1人気付く様子は無い・・・。
少年イワンは、糸をクルクルと手首に巻きつけながら、後を辿っていった。
この先では、自分の運命の人が待っている・・・??
ど、どんな娘なんだろう??
好みのタイプは? こんなボキでも受け容れてくれるのかしら?
ロマンチックな想いが体中を走りめぐる。
・・・糸はやがて『士官学校』の中へ入っていった。
「が、学校かよ・・・。」
ザ・条件反射。躊躇して立ち止まる少年イワン。だが、ここで引き下がっちゃぁ男がすたるぜ(何)
気を取り直して、校内へと足を踏み入れた。
すると・・・前方から、自分と同じ様に『赤い糸』を巻きながら辿ってくる人影が!!
「ヤッタ!!! あの人が自分の『半身』なんだな!!」
早足で近づきつつ、目を凝らして観察する・・・。
ズボンを穿いている。うん。
ショートカットのようだ。ほう。
服は地味めだ。へーえ。
メガネをかけている。イイネ。
体格いいね。それで?
・・・顔は末期的なオッサンだ。ウベッ!!!
そう。向こうから来る相手はなんと、度を越したバリバリタッキー君。
少し目がイッている。(まぁ、コイツも人のこた言えんがな)
向こうもこちらが『野郎』だと気づいたらしい。酷く落胆した表情を浮かべている。
泣きたいのはこっちだよ・・・チクショウ。自分は確かに女運が悪い。
だからといって、あれが『運命の人』なんてオチはナシだろ? やはり神様はボキが嫌いなのか。
2人は、少し首を振って会釈程度の挨拶を交わした。
タッキー君はわなわなと震えている。一言も喋らない。かなりの兵(つわもの)だ・・・。
「・・・あれ?」
少年イワンは、両者の『赤い糸』がこの場で繋がらず、各々が分かれ、更に延びていっている事に気付いた。
−−−どうやら『コイツ』ではないらしい。
そりゃそうだ。っていうかそもそも男じゃん。自分にそのケは無いしな。
「・・・あのぅ、どうもボキ達は『運命の2人』って訳じゃなさそうですよ」
「なななな、なんで、そ、そんなこと分るんだよ!」
「良く見て下さいよ。もしそうだとしたら、この時点で糸が繋がってるハズでしょう」
「・・・そ、そうだな。良く考えたらそうだ。きききき、君、頭いいな。グフフフ・・・」
不気味な笑みを浮かべるタッキー君。なんか態度もデカイ気がする。
「あ、あのう・・・もしかしてあなたも突然糸が見える様になったクチで?」
「ん。あぁ、そそそ、そうだよ。き、君もか?」
「ええ。き、奇遇ですねぇ。」
「グフフ・・・」
「この糸を辿って行って・・・
本当に運命の相手が見つかるとしますよねぇ。・・・どう思います?」
「おお、オデは、いいい、今までほとんど友達も出来ず、孤独に生きてきたんだ。
な、何も取り得がななないし、それにこんな風にどどど、どもっちゃうから、イジメられてばかりだった。
さ、散々な人生を送ってきたんだよ。ででで、でも、こんなオオ、オデにも、運命の人がいたんだよ。
この糸が見えた時思わず右めめめ、目からナナナナ、大粒の涙を流してしまったんだよ。
かれこれ10年くらい出してなかったナナナ、涙をさ。
たたた、多分、イイイイ、イヤ、絶対に!!!!
可愛くて優しくて何でも出来て、こんなオデにも心からの笑顔を見せてくれる・・・そ、そんな娘なんだ!!
オデをこのドン底から救ってくれる、その為だけに生まれたような人なんだよ!!
会うのがすすす、すごい楽しみでたまんないよぉ、フンーーーッ」
そう言って、思い切り鼻を鳴らすタッキー。
「でも、もし、これが誰かのいたずらだったら? 全部ドッキリでしたー・・・って事になったら?」
「ナナナナンアナナナ、何てことを言うんだキキッ、キミは!! そんな事あるわけ無いじゃないか!!」
「でも、もしも!! もしもですよ? 全部騙しだったとしたら?」
「そ、その時はオデが・・・こ、このカッターで、騙した奴らを細切れにしてヤルンダ!
ててて、天誅ダヨ!!! グフ、グフフフフフ!!」
タッキーはそうノタマイ、胸ポケからカッターを取り出した。
刃をチキチキと出して、白目を剥きベロベロと舐める。
「ハァ、そうですか。分かりました。・・・それじゃ、僕はこっちへ行くので。さようなら」
「グフ、き、君もシアワセになりなよ・・・。」
・
・
・
『全て仕組まれたものだったら』か。
とにかく夢中で、そんなん考えてなかったけど・・・
冷静になってみりゃ・・・ねぇ。
こんな夢みたいな話って、実際ありえなくないか?
先ほど、タッキーにむけて放った言葉を思い返し
急に冷静になるイワンであった・・・
つづく
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