モンキー・ラヴ・ダンス(xxix)『イワンの馬鹿』

アオヌマシズマ

↓28からの続き


 「・・・あれ。ねぇ、もしかしてあなたも糸追っかけ回してるの?」

少女もこちらに気付いたらしく、声をかけてきた。 

 「は、はい。そうです・・・」
 「あ、やっぱり。
  私もさー、授業終わってから、右手に変な糸が付いてんのに気付いてさ。
  それからずーっと後を追い回してるんだけど、際限なくて。疲れちゃった。今少し休んでるところ」
 「そうなんですか」
 「あなたもここで少し休まない?」
 「そうですね・・それじゃあ、一休みましょう」
そう言って、イワンは娘の隣に腰を下ろす。
 「この糸って、周りの人達に見えてないんだよね・・・」
 「そうみたいですねぇ」
 「うーん・・・謎だ。」
 「あのぅ」
 「何?」
 「単刀直入で失礼ですけど、アナタに糸を辿る権利はないと思うんですよね。」
 「そのココロは?」
 「ルックスから察するに、アンタ普通にモテるっしょ?
  今の彼氏とヨロシクやってなさいな。妥協せよ。これ以上は贅沢ってもんです。」
 「悪かったね。こう見えても私、まだ彼氏イナイ歴イコール生年月日だよ。」
 「・・・それは失礼致しました。
  いや、実はボキ、先程も同じように『糸』を追ってる人物と遭遇したんですが
  これがまたボキに負けず劣らずのダサ男。
  『糸の追跡』は社会の脱落者の特権なのかなぁ、と思いましてね」
 「へぇー。やっぱり他にもいるんだ。・・・あのさぁ、もしこれで運命のひとに出会っちゃったらどうする?」
 「ど、どうするって言われても・・・」
 「私はねー、もぉ思いっきり抱きついて、ズーッとギューッ!!て、そのまんま2時間ぐらい居てやるの。
  それで、そのあとどっかの店に入って、閉店まで喋り尽くしてやるの。
  相手は終始ニコニコ顔で、話を最後まで聞いてくれるの。・・・それからはまだ考えてない。」
 「ふーん、いいですねぇ。
  なんか、めいっぱい生きてるってかんじだ。いいですねぇ。青春ですねぇ」
 「あなたは、なんかないの? やってみたいこと。」
 「うーん・・・多分、まず最初に『はじめまして、ドウモ』って挨拶するんじゃないかなぁ。
  で、横並びに大通りを歩きながら、他愛もない話をして『ハハハ』とか『フフフ』とか笑い合って・・・」
 「手が触れ合って頬赤らめたり」
 「同時に何か言おうとして黙りこくっちゃったり」
 「トイレ行きたいけどガマンしたり」
 「口臭気にしたり」
 「・・・ふーん、いいじゃない。初恋中学生って感じ。嫌いじゃないよ。そういうの。」
 「ボキの憧れです。」
 「えっちしたいとか思わないんだ?」
 「うーん、あんまりないですね。そういうのは。」
 「淡白だこと。イイ友達で終わっちゃうね。きっと。」
 「そうですかねぇ?? 何も考えず、一緒に、只ボーッとしていられる・・・
  それが幸せってもんじゃないですかねぇ。ボキはそう思います。」
 「どうだろうね。常にイソイソと動き回ってるよりも、実は充実した時間なのかも知れない」
 「ていうか・・・『糸』が全部誰かのイタズラって事も充分有り得ます。
  でも、いいんです。それならそれで、もういいや、って思います」
 「そっ、そんなことない、ないない! それはぜーーーったいないと思うよ!」
 「ヘ?」
 「・・・あぁ、気にしないで。でも、あなたと喋っててなんかやる気出てきたわ。
  なにがなんでも見つけてやる!!って気持ちになっちゃった。ヨシ、それじゃあ、もうそろそろ行きます」
 「じゃあ、ボキも」
 「私はこっちだから」
 「じゃあ」

そして少女は、自分の糸を追っていった。
既に辺りは真っ暗だ。それでも『イワンの糸』は先へ続いている・・・


つづく

(2002.11.09)


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