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4999年2月9日 11:14
シルクス帝国首都シルクス、8番街、喫茶店《Little Sweet Cafe》
連続女性失踪事件の捜査は翌日から早速始められた。最初に行われることとなったのは、事件当日の状況の聞き込みである。既に複数の捜査官達が事情聴取を行っていたが、ビューロー卿が「もっと丁寧に」と命令したため、シルクス市民に対する再度の聞き込み調査が実施されることになった。同じことを複数回話すように求められ面倒がる者もいたが、大抵の市民達は捜査官達に好意的に接し、「捜査、頑張って下さいね」と彼らを励ます人も数多く見られた。
デニム、サーレント、セントラーザは8番街の担当となった。ここ8番街はルザミア・ヴィンセンスとセリス・キーシングの自宅がある場所であり、聞き込み調査もこの2人に関するものばかりが行われた。彼らは午前7時に8番街へ着くと、地域毎に役割分担を決めてから別々の場所で調査を行っていた。現在は、少し早めの昼食と情報交換の為に、8番街の一角にある洒落た雰囲気の喫茶店──サーレントの行き付けの店だった──に入り、壁際の座席に腰掛けていた。
「どうでした?」メニューを眺めながら、セントラーザがサレーントに訊ねた。
「あまり無かった」サーレントは首を横に振った。「お前はどうだった?」
「少しはありました」デニムは繊維紙のメモに目を落とした。「大半の情報が今までの聞き込み調査で判明していることばかりでした。でも、この他にいくつか新たに判明したことがあります。セリス・キーシングが失踪したと見られる1月16日の夕方、彼女が歩いているところを目撃した人が現れたんです」
「誰だ?」
「北西大通り(8番街と7番街を分割する大通り)に面していた花屋《花時計》の主人です。以前、キーシング夫人がここの花屋を利用した時にセリスちゃんとも会い、彼女の顔を覚えていたんだそうです。主人の話によりますと、セリスちゃんは中年の男性と一緒に歩いており、そのまま7番街の中へと消えていったそうです」
「その中年男性の顔に見覚えはあったのかしら?」
「無かった、と話している」デニムはそう言って首を横に振った。「主人のほうはこの中年男性をセリスちゃんの親戚だと思っていたらしい」
「どうして前の事情聴取の時に話さなかったのだろう?」
「彼がセリスちゃん達を目撃した翌日に、エブラーナのほうへ出発していたそうです。観葉植物と植物の種子の買い付けのためにです。シルクスに帰ってきたのは昨日のことらしく、私が彼にセリスちゃんが失踪したことを教えたらびっくりしていましたよ。念の為、主人のエブラーナでの取引相手の名前も聞き出しておきましたが」
サーレントは満足げに頷いていた。「うむ、悪くないな」
「2人って何処に向かったのかしら?」
「7番街の某所、と考えるのが妥当──」3人の座る席にウェイターが近付くのを見て、サーレントは言葉を止めた。
「御注文はお決まりでしょうか?」口元に髭を生やしたウェイターの男は丁寧に訊ねた。
「僕はBランチを」デニムが最初に答えた。
「紅茶のほうはいかがなさいますか?」
「じゃあ、ブラックでお願いします」
彼の言った「ブラック」とは「砂糖・ミルクなど一切無しのストレートティー」のことである。ここエルドール大陸にはコーヒーが伝わっていなかったため、食事やお菓子と共に飲む暖かい飲み物といえば紅茶が相場となっていた。
「私はマロンケーキセットを。それと、紅茶はホワイト(ミルクティー)でね」
セントラーザが言った「ホワイト」とは「ミルクティー」の意味になる。
「俺はCランチを。いつもどおりイエローで頼む」
「かしこまりました」ウェイターは頭を下げると、静かな足取りでカウンターの中へ戻った。
「……『イエロー』?」セントラーザがサーレントに訊ねた。デニムも怪訝そうな表情を見せている。
「後のお楽しみだ。……で、どこまで話したっけ?」
「セリスちゃんの行方のことだったと思いますが」
「そうだったな。俺が思うに、セリス・キーシングともう1人の人物は、7番街もしくはシルクス港に向かったんじゃないか?」
「どうしてそう思われたんです?」デニムが訊ねる。
「シルクス港でルザミア・ヴィンセンスが目撃されていたんだ。お前も知ってるだろう? それに、ルザミア・ヴィセンス以外にも3人の被害者が、彼女達の失踪当日にシルクス港近辺で目撃されていたと聞いてる。俺達にとっては、このシルクス港での目撃情報は最も有力な手掛かりだからな。『セリス・キーシングが港にいた』という証言もそのうちに見つかるんじゃないか? ……まあ、正確なところは7番街の連中に頑張ってもらわんと分からんが……。あいつらは港の聞き込みも任されてるから、そりゃあ御苦労なことになるだろうな。外は寒いし、あそこには外国人もいるし」
国際貿易港の1つであり、シルクス帝国と海洋都市連合の艦隊が駐留するシルクス港での捜査は困難となっていた。人とモノの出入りが激しい上に外国籍の船も数多く立ち寄る──犯罪捜査が国際問題に直結する危険性を秘めていた──ことが、捜査の障害として立ちはだかっていたのである。ただ、北西の風が強いこの季節にシルクス近辺で交易活動に従事する船は少ないことが、捜査官達の救いになっていた。無論、聞き込みを担当する捜査官達はダルザムール大陸から吹き付ける寒風に晒されることになるのだが……。
「いずれにせよ、俺達が調べることじゃない。食事が終わったら、食堂とかを回って、中で食っている人からも話を聞き出すぞ」
「被害者宅の訪問もあります」
「そうねえ……」セントラーザはテーブルに肘をついて呟いた。「被害者の御家族ってどうしているの?」
「僕が聞いた話だと」彼女の質問にはデニムが答えた。「キーシング夫妻は平静さを保っているそうだけど、セレナ・ヴィンセンスさんは憔悴しきっているそうだよ。旦那さんも仕事を休んで奥さんの世話をするようになったと聞いているし」
「なら、なおさら早く解決させなくっちゃ」
デニムとサーレントは無言で頷いた。その時、3人の耳に先程現れたウェイターの声が入ってきた。その手には3人の昼食を載せた盆が乗せられている。「お待たせ致しました」
「ありがと〜」
注文された食事がウェイターによって丁寧に並べられる。セントラーザとデニムは、サーレントの目の前にティーカップを見て頷いた。
「……レモンティーだったのね」
4999年2月9日 15:04
シルクス帝国首都シルクス、8番街、ジョセフ・キーシング邸
セリス・キーシングの両親であるジョセフ・キーシングと妻アルティアの自宅は、8番街の中では「高級住宅街」と呼ばれる場所に位置していた。住宅事情が社会問題の1つとなっている帝都シルクスにおいては数少ない一戸建ての自宅を持つ人物であり、自宅にはこじんまりとした庭も作られ、小さな家庭菜園も作られていた。
キーシング邸に立ち寄る前、デニム達はルザミア・ヴィンセンスの住んでいたアパートへ顔を出した。だが、ヴィンセンス夫妻はアパートの部屋を留守にし6番街に住むセレナの叔母の家に移っていたため、3人は完全な無駄足を踏むことになってしまったのである。彼らは隣の住人からセレナの叔母の自宅の場所を聞き出すだけでアパートを後にし、ヴィンセンス夫妻からの追加の事情聴取は、6番街とシルクス港の倉庫街の聞き込みを任されている第6チームに任せることにした。
「今度はいるといいけど……」デニムはそう呟いてからドアをノックした。「突然で申し訳ありません。こちらは警視庁です。キーシングさんはいらっしゃいますか?」
「はい、今来ます」
デニムとサーレントには聞き覚えのある女性の声が聞こえ、続いて玄関へと近付いてくる足音が聞こえてきた。そして、ドアが静かに内側から開かれ、2人には見覚えるある女性──アルティア・ルドン・キーシングの顔が現れた。「ああ、これはいつも御苦労様です」
最年長者であるサーレントが応えた。「いえいえ。これも仕事の内です。……で、今日は、あなたの御息女であるセリスさんのことで色々と伺いたいことがありましたので参りました。少しお時間を頂けますか?」
「なんでしたらどうぞお上がり下さい。ここでは寒いでしょうし」彼女はぎこちない笑みを見せながらドアを大きく開いた。
「では、お言葉に甘えまして」
1番街で武器屋を営んでいるキーシング家は、封建領主や金融業者ほどではないが、それなりに裕福な生活を送っていた。室内の装飾品には金銀・宝石などの光物はほとんど見られなかったものの、超一流の高級品が揃っていることは3人とも理解できた。3人が通されたリビングにはガラスを使用した透明なテーブル──マジックアイテムである──や革張りのソファが置かれ、壁には鮮やかな色彩が施された高級磁器の皿も並べられていた。
落ち着かない様子でソファに腰掛けていた3人のもとに運ばれてきたのは、壁に並ぶ皿と変わらぬ美しさを持った高級磁器のティーカップに注がれた最高級品の紅茶と、リマリック産の高級砂糖菓子が盛られた陶器の器であった。
「捜査でお疲れでしょうから、どうぞ、ごゆっくりなさってください」アルティアはそう言いながら微笑んだ。
「ありがとうございます」3人を代表する形でデニムが応えた。
「いえいえ。私の大事な娘を探してくださっている方に、失礼なことはできませぬから」アルティアは3人の正面に置かれていた小さめのソファに腰を下ろした。「それで……御用とは?」
「御息女の件です」サーレントが口を開いた。「我々警視庁の捜査により、失踪事件当日の夕方に、セリスさんが痩せ気味の中年男性と一緒に北西大通りを歩いていた、との情報を得ました。あなたの御家族の知り合いの方に、痩せた中年男性の肩はおられますか? 例えば御主人のジョセフさんとか」
「いいえ。私の主人は肥満体質でして……あちらの肖像画を御覧になれば分かると思います」
アルティアが指差した絵には5人の男女が描かれていた。ジョセフ・キーシングとアルティア、そして夫妻の2人の息子と娘セリス。イラストに描かれているジョセフ・キーシングの腹部は脂肪によって大きく膨れ上がり、絵を書くために用意された礼服も窮屈そうに描かれていた。妻に似たためなのだろうか、3人の子供達は痩せてもいなければ太ってもいない、丁度良い体格の持ち主となっていた。
絵の中に並んでいる彼らは幸せそうな笑みを湛えていたが、現在、3人の目の前に座る女性にその幸せを見出すことはできなかった。微笑を浮かべることがあるとしても、それはアルティア自身の演技に過ぎなかった。何者かによってさらわれていたセリスが生きた状態で一家に戻ってくることによってのみ、本当の笑みを取り戻すことができるのである。そのようなことを考え、デニムは任務への意欲を一層強くした。ただ、犯人への憎悪は沸き起こらなかった──敵の正体が未だに掴めていないためである。
「息子さんがいらっしゃるんですね」セントラーザが絵を見ながら言った。
「はい。武器屋のほうは主人と息子達3人だけで切り盛りしておりますから結構大変でして、家に帰って来るのが深夜になることも珍しくないんです。昼間はずっと店番をしておりますから」
「他に親戚の方は?」サーレントが訊ねた。
「ございます。ただ……」アルティアは一旦言葉を切ってから続きを話した。「……実は、全員が女性でして、いずれもエブラーナやリマリックで暮らしております。ですから……我が家の親族には、皆様がお探しになっている『痩せた中年男性』というのはございません」
「ジョセフさんのお友達はどうです?」セントラーザが訊ねた。
「今はちょっと……夜になったら主人に訊ねておきましょうか?」
「お願い致します」サーレントは頷いた。「ところで、お話を伺ったところでは、セリスさんは何か薬を服用されていたようですね」
「はい。そうですが?」
「現物を見せて頂けますか?」
「少々お待ち下さい」
アルティアはそう言って席を離れた。約1分後にリビングに戻ってきた彼女の手には、赤色の液体が詰まったガラスの瓶が握られていた。彼女は瓶をテーブル上においてから座った。「これが『フェールスマイゼン』でございます」
──これがフェールスマイゼンか……。
デニムはその薬の名前には聞き覚えがあった。
フェールスマイゼンとは、リマリック帝国時代の4987年にリマリック帝国大学薬学部で発明された気管支喘息の治療薬の1つであった。長期的な服用によってようやく効果が発揮されるものの、その治癒成功率は100%であり、副作用も小さく、喘息患者にとっては飲み続ければ絶対に喘息が治るという「夢の薬」である。また、短期的には喘息の発作を軽くする効果があり、軽度の喘息患者が予防薬代わりに服用することも多かった。
しかし、このフェールスマイゼンの生産には莫大なコストが要求された。液体の経口薬として開発されたこの薬の原料には、エルドール大陸では絶滅寸前といわれていた幻獣・ツインテールフォックスの腎臓と、農業神ファルーザや竜神タンカードの神殿で1日に僅かしか生産されない聖水が使われていた。そして、薬を精製する時には、ツインテールフォックスの持っていた魔力を損なわないよう、複数の魔術師の参加する儀式を行わなければならなかったのである。こうして多くの手間をかけて作られたフェールスマイゼンには、50ミリリットル1瓶で200リラという高値がつけられていた。1回の服用量が2ないし3ミリリットルで済むとはいえ、これを毎日服用し続けるとなると、1ヶ月当たり500リラ前後の出費を要求されたのである。一家の平均月収が2500から3000リラというシルクス帝国の一般庶民にとっては高すぎる薬であり、このフェールスマイゼンを実際に買っているのは裕福な家庭や貴族に限られていた。フェールスマイゼンを購入できない市民は、失敗するリスクが存在する魔法による治療に頼らざるを得ないのである。
──このキーシングという家は、フェールスマイゼンを買えるだけ裕福だった、ということか……。
「これが喘息の特効薬ですか……」セントラーザが瓶を見つめながら呟いた。
「いいえ、実際に喘息が治るわけではございません。でも、去年の11月に買ったこの薬のおかげであの子は人並みの生活が送れるのです……」夫人はそう言って悲しげな表情を見せた。「これが無かったら、また喘息の発作が起こります……お医者様がいなければ死んでしまうかもしれません……」
4999年2月10日 19:13
シルクス帝国首都シルクス、2番街、シルクス警視庁地下1階、第2会議室
「シルクス港でセリス・キーシングを見た人間がいる?」
サーレントの質問に、第7チームのリーダー格であるニベル・カルナス警部補は頷いて答えた。「中年男性とセリス・キーシングが一緒になって歩いているところを目撃した人間が見つかったんだ。詳しいことは夜の定時例会で報告するが、そいつはシルクスとエブラーナを往復する客船の船医でな、その爺さんが言うには、中年男性が連れて歩いていた女の子が咳き込んでいて、それが気になって2人の顔を覚えていたということらしい」
「喘息だわ」セントラーザが声を上げた。
「多分な。顔の具体的な形状は分からなかったが、着ていた服装のほうはバッチリ覚えてて、そいつが《花時計》の主人の話と一致するんだそうな。で、その船医の爺さんが言うには、その2人組はそのまま倉庫街の方角へ消えて行ったらしい。その後の足取りを倉庫街担当の6番街の連中に聞いてみたんだが、連中は情報を得られなかった」
「そいつは残念だな」
「ああ」
「明日になったら、6番街のチームが倉庫街を念入りに予定になっています」カルナス警部補の隣に立っていた捜査官が言った。
彼の存在を初めて知ったデニムが訊ねた。「ええと……どなたですか?」
「第7チーム所属のリデル・ベントです」捜査官が答えた。「あなたやセントラーザよりも1期早く警視庁に入りました。現在は巡査を拝命しております。初めまして」
「こちらこそ初めまして」リデル・ベントから差し出された手をデニムは堅く握り締めた。
「実は、セントラーザとは幼馴染なんです」
「そうなんですか?」デニムが意外そうに訊ねた。
「そうなの」セントラーザが答えた。「幼い頃から良く一緒に遊んでたの。で、こうして今は職場も一緒ってわけ。今は別々のチームに属しているけど、宝石盗難事件では一緒のチームに参加して頑張ったのよ」
「へえ、そうだったのか」
「そういう間柄なんですよ。10年以上の長い付き合いになりますね」
「だから、私はリデルのことは色々と知ってるけど……いい人よ。私が保証するわ」
「それは過大評価だよ」リデル・ベントはセントラーザの言葉に苦笑いした。「仕事の話をしてる最中だったのに、いつのまにか私用の話をしてしまっている……結構不真面目な人間だよ」
「では、そろそろ話を元に戻しませんか?」デニムが提案した。
「そうですね」リデルは頷いた。「8番街のほうでは何か分かったのでしょうか?」
「いくつかはね」セントラーザは懐からメモを取り出した。「まず、フェールスマイゼンをキーシング夫妻に売っていた、フラマリス・ソロンというお医者さんから話を聞いたわ。その人が、シルクス帝国の民間人では、フェールスマイゼンを取り扱っていた唯一のお医者さんだったの」
「唯一?」カルナス警部補が訊ねた。
「ええ」彼女に代わってデニムが答えた。「ソロン博士以外にフェールスマイゼンを販売しているのはファルーザ神殿とタンカード神殿だけです。製造過程を国家機密にしたいという思惑や、神殿外での製造がほぼ不可能であるということがその理由になっていますが、まあ、実際にはこの薬を国家の専売にするのが目的でしょう。ソロン博士がフェールスマイゼンを両神殿から卸し入れて販売できるのは、彼こそがフェールスマイゼンの発明者だったからなんです」
「なるほどな」
「で、話を戻すけど、この薬を買う時にはソロンさんに書類を出さなきゃいけないらしいの。それで、1月以降にフェールスマイゼンを購入した人物の書類を借りてきたわ。セリスちゃんの件と関係無いかもしれないけど、気になったからソロンさんから借りちゃったの」セントラーザはそう言いながら床に置いていた袋を開け、中から繊維紙の束を取り出した。「これがその必要書類よ」
カルナス警部補は声を小さくして訊ねた。「おい、押収礼状は大丈夫なのか?」
「任意提出だ」サーレントも同じ位小さな声で答えた。「書類は後でソロン博士に返す」
「それは分かった。……でも、これを何に使うつもりだ?」
「簡単だ。誰がこの薬を買ってるのか、そして書類を偽名で書いた奴がいるかどうかを調べる。もしかしたら、偽名で書いた奴が見つかって突破口が開けるかもしれんだろ?」
「言われてみればその通りだな……」カルナスは腕を組んで頷いていた。
「それはそうとして、その他に情報はあるのでしょうか?」ベントが訊ねた。
「他にキーシング夫妻の知り合いも調べたわ。例の痩せ気味の中年男性が親族や知人にいるのかどうかを調べるためにね。でも、こちらはまだ収穫があがっていないの」
「該当者がいなかったのですか?」
「その逆でした」デニムが答えた。「中年男性で痩せ気味の人物が13人も見つかったのです。同業者である武器商人やその使用人、息子達や娘が通っていた知識神シャーンズ神殿の司祭など色々いますよ。まあ、これは夫妻に思い出してもらった人達の分ですから、更に増えるかもしれません。ついでに言うと、この人達の中に犯人がいるとは限りませんし」
「先は長い、ということね……」
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