前略 母上様 3月6日にシルクス警視庁によって逮捕された《7番街の楽園》の従業員達のことは御存知でしょうか? タンカード教徒の男性によって摘発されたこの8人の方は、ナディール教団に参加していたという疑いが掛けられ逮捕されました。既に起訴されてしまい、エブラーナに護送中だとも聞き及んでいます。 しかし、最近、神殿を訪れる人々の間に、「あの8人は冤罪だった」という良からぬ噂が流れ始めています。一介の聖職者であり、犯罪捜査や異端審問に関しては全くの素人である私には、人々の噂が本物であるかどうかは確認できません。ですが、もしもこの噂が本当だったとしたら、これは善を尊ぶバソリー様の教えに反する行為が行われていたことになり、見過ごせなくなるのではないでしょうか? バソリー様の敬虔な使途である私には、無実の人が苦しんでいる姿を無言で眺めるという真似はしたくありませんし、バソリー神殿の最高司祭であられる母上様にもそのように振舞って欲しくはありません。 何とかして、無実の人達を救って差し上げる機会を作って上げられませんでしょうか? 無理なお願いかもしれませんが、どうかお願い致します。 バソリー様の御加護が、母上様にもあらんことを。 草々 4999年3月11日 スーザ・ルディス・テンペスタ |
デスリム・フォン・ラプラス様 突然の御手紙で申し訳ありませんでした。しかし、教授が務めておられる異端審問所に関する重大な問題が浮上し、このことがシルクス帝国の国益に関係する可能性が極めて高いため、やむを得ず筆を取った次第であります。 私がお話したいのは、3月6日に逮捕された《7番街の楽園》の従業員達に関する話でございます。彼らが既に起訴され、現在はエブラーナに向けて護送中であることは、教授もご存知のことだと思われます。ところが、この8人に対して冤罪の可能性が浮上してきたのです。詳しいことは後発の手紙でお知らせしますが、シルクス警視庁、内務省、バソリー神殿の間では、以下の事実を理由にして、8人が冤罪である可能性が高いと結論付けました。 ●告発人の全てがタンカード神殿に所属または関係していたこと ●書類手続きにおいて、通常のタンカード神殿では考えられないような瑕疵が見られたこと ●上記の内容を指摘して警視庁が摘発を渋っていたところ、タンカード神殿側から政治的圧力が掛けられたこと ●《7番街の楽園》周辺の聞きこみ調査では、8人が有罪だと判断するに足る証言は1つも得られなかったこと タンカード神殿側に何が発生したのかは全く分かりません。単に書類手続きが珍しく杜撰だったのかもしれませんし、彼らが8人の殺害を意図して冤罪を仕組んだのかもしれません。しかし、いずれにせよ、この8人は異端審問に掛けられるべきではない人物であり、起訴と異端審問所への送致は間違った判断であると信ずるものであります。 そこで、ラプラス教授にお願いがあります。教授のお力添えを以って、異端審問所で8人に対する正当な審理が行われるようにして頂きたいのです。彼らは無罪である可能性が高く、正当な審理が行われれば彼らが無罪であることは必ずや立証されるものと信じております。我々が8人の釈放のために尽力できるのならばそうしたいところなのですが、我々には「バディル勅令」という名前の足枷が存在し、思うような行動が取れないのが現実であり、教授のように異端審問所の内部で働いておられる方々のお力がどうしても不可欠なのです。無理なお願いだとは重々承知しておりますが、何卒よろしくお願い致します。 最後になりましたが、異端審問所書記室の皆様の御健康と御活躍を祈りつつ、筆を置きたいと思います。 乱筆乱文の程はどうか御容赦下さい。 4999年3月15日 「財の賢者」テュッティ・ナフカス
追記 手紙の内容はできる限り秘密にして下さい。 |