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『バレンヌ皇帝陛下と歴代当主様』

(0)注意

 本文章は「THE CONSUMER」に掲載された拙文『俺の屍を越えてゆけ』レビューの付録文書を再編集したものである。


(1)本文

 私が『俺の屍を越えてゆけ』の攻略を開始したのは、2000年春のことである。
 この時、ゲームの合間の暇潰しにコンピュータゲーム関連のサイトを見て回っていたところ、とあるサイトで以下のような趣旨の意見が書き込まれているのに出くわしたのである。

『Romancing SaGa 2』と『俺の屍を越えてゆけ』は非常に良く似たゲームである。
どちらも、複数世代に跨ったプレーを想定しており、能力などの継承も行われる。
しかし、前者は色々とけなされているのに、後者は絶賛を浴びている。
この2つのソフトの間には、どうしてこんなに評価に落差があるんだ?


 お気付きかもしれないが、この書き込みは『Romancing SaGa 2』のファンサイトで行われていた。

 ここで、『Romancing SaGa 2』について簡単な解説をしておきたい。
 『Romancing SaGa 2』は1993年にスクウェアが発表したRPGであり、バレンヌ帝国の歴代皇帝と七英雄と呼ばれる人々との間の戦いを、数千年規模で描き出した作品である。技の「閃き」のルールが初登場した。戦闘バランスは歴代『SaGa』シリーズの中でも屈指の難易度を誇り、最終戦闘では「【クイックタイム】が無いと勝てない」と泣き叫ぶプレーヤーの姿も多々見られた(もっとも、【クイックタイム】無しでもどうにか勝てるらしいが)。
 この作品では、歴代皇帝は「伝承法」と呼ばれる秘術を使い、皇帝の記憶・精神を相続していった。そして、プレーヤーが名前を自由に決定できる人物が最終皇帝となる。最終皇帝が死亡すればゲームオーバーとなる。ただし、「伝承法」による記憶・精神の相続において、血縁関係という要素は完全に欠落している。帝国に仕えている家臣達の中から1人を選出し、彼(彼女)に記憶・精神を授けていく方式であった。

 『Romancing SaGa 2』と『俺の屍を越えてゆけ』の評価に差があるとすれば、皇位継承/世代交代のルールの位置付けに差が見られることに、その一因を見出せるであろう。

 『Romancing SaGa 2』の場合、「伝承法」による皇位継承とは、血縁とは無関係の機械的な作業であり、バレンヌ帝国を強化するためのプロセスの1つに過ぎない。最終皇帝が死亡しない限りゲームオーバーとはならないため、「皇帝を殺して次の皇帝を強化する」という手法が横行していたのである。
 なぜそれが可能なのかというと、実は、新皇帝の技能レベルは、(1)死亡した前皇帝の技能レベル(2)新皇帝の持つ技能レベルを比較し、より高い数値を採用するという方式が採られているらしいからなのである。更に言えば、技と術の使用回数を規定する術ポイントと技ポイントの上限は、それぞれの技能レベルによって直接決められていたのである(術ポイントの場合は[最も高い技能のレベル]×3+[残り2つの技能レベル])。異なる職業を渡り歩くようにして皇位継承を繰り返せば、皇帝は簡単に強化できたのである。なお、伝承法によって相続されるのは歴代皇帝の記憶と経験であり、純粋な戦闘データ……という位置付けも可能である。
 また、皇帝の死もあっさりと描かれており(遺言なんて書くわけではない)、その死に対して感慨をさほど抱かないのが実感である。逆に、皇帝の死を淡々と描くことによって、「組織の為に身を犠牲にした」皇帝の悲哀が深まり、その死が歴史の1ページに過ぎないという冷厳な事実が示されていると言えなくもない。


 一方、『俺の屍を越えてゆけ』の場合、ゲームのメインテーマに世代交代が据えられている。交神の儀がそれに相当する。ここでは主人公一族(人間、ただし人間と交わることができない)と神が「交わる」ことによって子供が生まれるのであるが、この作業が戦略的に不可欠(1世代あたりのプレー時間が短いため、世代交代を重ねないと一族が全く強化できずにゲームオーバーとなる)になっている。世代交代を続ける点では『Romancing SaGa 2』と同じなのだが、この作品の場合、世代交代は「血の継承」とイコールであり、数百年単位の年代ジャンプが平気で行われる(ジャンプ年数は戦闘回数と同じ数だけ、上限は250)『Romancing SaGa 2』とは大きく異なっている。
 キャラクターの死もしっかりと感情的に描き出されている。それぞれのキャラクターは死の間際で遺言をボイス付きで話し、その異様なまで短い生涯(寿命は2年以下)を閉じていくのである。この臨終のシーンが加えられただけでも、『俺の屍を越えてゆけ』は『Romancing SaGa 2』と大きく異なる。また、世代交代には「血の継承」という要素が絡むので、「伝承法」による機械的な作業とは異なった感慨をプレーヤーに与えることになる(特に、自分の名字を一族に付けた場合は)。その気持ちを特に強くさせるのが、年表と家系図の機能である。これらは迷宮探索の計画性を担保し、交神の儀において間違って同じ神と連続して交わる事故(虚弱体質の子供を産む原因になる)を回避するための機能でもあるが、一族の歴史を振り返る度に、「ああ、ここまで来たんだな」という感慨をプレーヤーに与えることになる。これは『Romancing SaGa 2』には無い機能である。
 『俺の屍を越えてゆけ』は個人ではなく一族全体が主人公というゲームであり、「血(及び遺産)の継承」がメインテーマである故、世代交代も感情的に描かねばならなかったのだろう。


 『Romancing SaGa 2』と『俺の屍を越えてゆけ』は、似ているようで実は全く異質なのかもしれない。


(2)付記

 『Romancing SaGa 2』と『俺の屍を越えてゆけ』は似ているようで実は異なる。
 しかし、これだけでは2作品に対する評価の差の説明にはならない。世代交代の扱いに質的な差が見られることは間違い無い事実であるが、評価の落差の激しさの理由としては不十分と考えられる。
 では、『Romancing SaGa 2』の評価が低い理由とは一体何か?

 これは私見になるが、「『Romancing SaGa 2』というソフトが評価の落差の激しいソフトである」ことが原因になっているのではないだろうか。この点は、前作『Romancing SaGa(1)』との比較において際立っている。両者を簡単に比較してみるが……

『Romancing SaGa(1)』『Romancing SaGa 2』
世界観ファンタジー世界、南半球
キャラデザイン小林智美氏が担当
BGM伊藤賢治氏が担当
主人公1人のみ(8人から1人を選択)歴代皇帝(レオン〜最終皇帝)
主人公の設定変更自由強い制限(最終皇帝の名前と性別のみ)
パーティー最高6人
編成は自由(シナリオによる制限あり)
最高5人
編成は自由(支配領地による制限あり)
シナリオ選択比較的自由支配領地による制限
技の習得武器1個単位
戦闘終了時にランダム
武器系統単位
閃き及び技道場
成長HP及び能力値
成長判定は運任せ
HP及び技能レベル
技術点(=経験点)の存在
陣形グリッドにキャラクターを配置複数(最高で15種類)の陣形から選択


 両作品で最も決定的な違いといえば、シナリオにおける自由度と内容の差であろう。『Romancing SaGa(1)』では、全てのイベントを無視してオールドキャッスル(ここでラストダンジョンの情報を入手できたと思う)だけに行くという荒業が可能だったのに対し、『Romancing SaGa 2』では、ラストダンジョンを出現させる為に相当数の必須イベントをこなさなければならなかったのである。シナリオの攻略順番という観点から言えばフリーシナリオであるといえるが、「イベントを黙殺する」自由が広く認められていた前作とは大きく異なる。また、『Romancing SaGa(1)』の主人公は終始一貫して1人だけであるが、『Romancing SaGa 2』では年代ジャンプ毎にパーティーメンバーが根こそぎ変更されるのである。『Romancing SaGa 2』では色々なパーティーを試すことができるというように、戦闘面での自由度・多様性は『Romancing SaGa(1)』より向上しているが、「パーティーに愛着が湧きにくい」という批判があがることも多く、これが『Romancing SaGa 2』批判の一因となっている。
 ゲームとしては『Romancing SaGa 2』のような方法論も良いと思うのだが、これが「フリーシナリオの最高傑作」である『Romancing SaGa(1)』の続編として発表されたことが「不幸の始まり」だったように思われる。自由度が抑えられたストーリー展開、戦闘システムの抜本的改正、主人公は「複数」、LPのルールによるシビアな生死判定──『Romancing SaGa(1)』に慣れ親しんだ人が『Romancing SaGa 2』をプレーした時のショックの大きさは相当なものがあったのではないだろうか。『Romancing SaGa(1)』の熱烈なファンから見れば、色々な変更が加えられた『Romancing SaGa 2』というのは出来が良くないように感じられることも多いと聞く。
 かく言う私は『Romancing SaGa 2』から『SaGa』シリーズに入った人間なので、「『SaGa』=『LP』『豆電球』」という固定概念が染み付いたのである。それに、攻略順番が自由でありながらメインシナリオに筋が通っている『Romancing SaGa 2』『Romancing SaGa 3』のようなシナリオが「普通のフリーシナリオ」だと考えていた。だから、『Romancing SaGa(1)』をプレーした時に、逆に「不必要なまでに自由過ぎる」と違和感を感じたのであるが……。

 この辺の事情も、「処女作」である『俺の屍を越えてゆけ』とは異なっているようだ。


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関連リンク

MARSAlfa SystemSCEI(『俺の屍を越えてゆけ』製作元)

俺屍応援委員会(『俺の屍を越えてゆけ』公式ファンサイト)

SQUARE(『SaGa』シリーズ製作元)

-THE CONSUMER(原文掲載先)


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