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『マンネリなギャルゲーに飽きた方へ Part1』

(0)注意

 本文章は「THE CONSUMER」に掲載された『Prismaticallization』レビュー及び『この世の果てで恋を唄う少女』(SS版)レビューなどの修正稿を含んでいる。


(1)この文章を用意した意義

 日本を中心に世界各地へ広がりつつあるゲーム文化。多数のゲームが存在しプレーされている中で、(株)スクウェアが発表するソフトと同じくらいに好悪が分かれているジャンルが存在する。それは恋愛SLGないしは恋愛ADVのジャンルに属するゲームである。ゲーマーの間では、揶揄・誹謗・中傷などの意図も含めて「ギャルゲー」と呼ばれている。知人から聞いた話では、「ギャルゲー」という単語は、そもそも今日とは全く異なる使われ方を意図して作られた単語らしいのだが、そのようなややこしい背景事情は面倒なのでこの際無視する。

 さて、結論から申し上げると、私はこの種のゲームが必ずしも好きではない。ただし、その理由は「女性との恋愛を楽しむ」という基本コンセプトが気に入らないからではなく、似通ったゲームシステムの作品が多いように感じられるからである。端的には、それはヴィジュアルノベルのことを指している。18禁の恋愛ADVではもっとも中心的なゲームシステムであるヴィジュアルノベルであるが、私はそういったゲームを見ていて、「わざわざゲームにして売り出す必要性がどれくらいあるのか?」とふと疑問に感じてしまうことがある。
 これは単純な感性と好みの問題なのかもしれないが、女性達が大勢登場したり18禁CGが多数用意されていたりするゲームをプレーするとしたら、ストーリーやCGよりもゲームシステムが優れている作品や、ごく普通のギャルゲーと比べて奇抜なストーリーやゲームシステムが用意されている作品のほうに高い評価をつけてしまうのである。
 そこで、ここでは、発表されているギャルゲーの中から、上述した2つの条件に合致した「ちょっと変わった(!)恋愛(?)ADV(!)」というものを紹介していきたい。

 なお、ここに選んだのは、APRIL FOOLが独断と偏見で選び出したソフトである。皆さんがここに並ぶソフトを購入しプレーして「こいつは損した」と嫌な気分になったとしても、私は一切責任を取らないのでそのおつもりで。面白そうかどうか不安に感じられる方は、知人からソフトを借りてプレーされることを推奨する。

 また、新しく「面白いギャルゲー」を発見した場合は、内容がその都度更新されていく。
 ただし、その基準はあくまでもゲームシステムの面白さ/斬新さを優先させるのでそのおつもりで。

 また、RPGやSLGなどはここでは取り扱わない(こことは別に紹介する予定)。このページでは、ジャンルをADVのみに限らせて頂くのでそのおつもりで。

 今回紹介するのはこの3本!

(1)『Prismaticallization』
(2)『この世の果てで恋を唄う少女』
(3)『遺作』


(2-1)「ザ・サークレイドアドベンチャー」  ──『Prismaticallization』

 1999年10月にArc System Worksが発表したADV。

 夏の避暑地に「快適な環境で受験勉強を」との名目で連れて来られた主人公・的場荘司(男性)。
 彼がクラスメイト(女性)と共に到着した先は、主人公の知人(2人/どちらも女性)が経営する別荘。
 既に別荘には2人の女性が到着しており、男1人と女5人による共同生活が始まった。
 ところが、翌朝、主人公は奇妙なオブジェを拾ったことがきっかけで、不思議な感覚にとらわれる。
 「この光景、『昨日』見たんじゃないのか?」と。
 彼が迷い込んだのは、ある1日が永遠に循環し続ける繰り返される世界だった。
 果たして、主人公達はこの循環世界から脱出できるのか?

 ──というストーリである。

 さて、世間一般には「サークレイドアドベンチャー」と呼ばれている本作品であるが、その評価は各レビュアー毎に大きな落差がある。

 ある人は「世紀の傑作」と褒め称え(褒め殺しの間違いか?)、
 またある人は「停滞気味の恋愛ADVに対する挑戦状」と評価し(私の意見はこれである)、
 別の人は「アイデアは良かったが中身は不完全」と批判し(この意見にも十分納得できる)、
 極端な人からは「ギャルゲーマーの期待を裏切った最悪のクソゲー」と言われる始末(そこまで言うことも……)。
 どの評価が適切なのだろうか?

 私がこのゲームに手を付けたのは、「ギャルゲーの外観をしていながらギャルゲーマーの間で賛否が分かれている」ゲームの中身に興味を抱いたからである。

 では、本作品で論争の的となっているポイントを掻い摘んで説明したい。

(a)声優を起用していないこと
 「音声はついていて当たり前」という今日のギャルゲーでは、声優無しというのはかなり珍しい。私はこの点に不満を感じることは無かったのだが、恋愛ADVゲーマーを中心に、声優の起用を求める意見が多かったようだ。
(b)特殊なゲームシステム
 本作品はこのようにして進行する。

●まず、「第1日目」(ゲーム上では第0日目扱い)のイベントを見る。
●これが約30分ほど続いてから、ゲーム本体である循環する毎日が開始される。この循環する毎日において、主人公は目の前で発生した出来事をオブジェに記録(最大で5つ)し、「記憶として保持」することになる。1回の循環ループは10分以内(早ければ2分程度)で終了し、そのまま次の日が開始される。
●以降の循環で、今まで保持されていた記録が解放され、「過去」の循環では見られなかった新たな事件が引き起こされる。
●ゲームをクリアするためには、この「記録→解放→新たな事件の発生」を繰り返す必要がある。新たな事件を何度も起こし続けると、循環世界から脱出してゲームクリアとなるわけである。
●ゲームオーバーは存在しない。クリアできない限り、循環に囚われたままの日々が続くことになる。

 この一連の流れの中で、プレーヤーに対しては「主人公が出来事を記録する」という行動のみが要求されている。逆に言うと、ゲームを進める為の方法論が他に全く提示されていない。プレーヤーが選択できるのは「記録するか否か」の二者択一のみである。
 このシステムには異論も多いが、世界観や主人公の置かれている状況を考えれば、これ以外の方法でのゲーム進行は困難であったと思われる。また、「記録する」という「能動的」な行動が重要である点にも着目したい。女性達からの質問に対して受動的に受け答えを行い、その結果によってストーリーが変化する一般的な恋愛ADVとは大きく異なっている。

追記(2000年12月24日):ゲーム性という観点から本作品を分析すれば、この作品は「記録→解放→新たな事件の発生」の対応関係を把握し、これを使って循環世界の中で発生する事象をコントロールする点がゲームの中心となる。プレーの感覚としてはテキストを使ったパズルゲームと言えるであろう。実に独創的であり、またゲーム的な構成である。
(c)学術用語と敗北主義的独白の乱舞
 本作品では、登場人物達の間で行われる会話と、主人公の独白の中で、以下のような語句が飛び出してくるのである。

「既視感」「脳内処理の混乱」「錯覚」「脳腫瘍」「アルツハイマー」「ニーチェ」「再帰的な環状の世界」「カオス」「因果律」
「ノエマ」「ノエシス」「コギト・エルゴ・スム」『不思議の国のアリス』「学生生活というモラトリアム」
「誰もいない場所で木が倒れれば音はするのか」「所詮、人は変化だけしか認めることができない」
「変化しなくなった世界、というものは、有り得るのだろうか」

 これらは一部に過ぎない(キッパリ)。
 また、的場荘司の行う独白が、笑いたくなるほど後ろ向きなのである。何しろ、ジャンケンでグーを出して敗北したことを理由にして、「自分が保守的な性格の人間である」云々というような内省を始め、しまいには、「始めから相手(=ジャンケンの対戦相手)の策略にはめられていた」という結論に思い至ってしまうのである。
 だからといって彼らの独白・会話が不要かというと、それは誤りである。自己認識と時間の連続性・回帰性について2人が行っている哲学的・科学的洞察は、作品内に生み出された循環世界の謎を読み解く鍵であり、本作品を理解するためには必要不可欠なアイテムである。
(d)ただし、CGとパッケージはギャルゲー
 中身は恋愛ADVとは程遠いのに、ゲームのパッケージやCGはまさにギャルゲーそのものである。笑みを浮かべミニスカートの尻を突き出す様(パッケージイラスト)を見たら、誰がどう見ても「これはこてこてのギャルゲー」だと思ってしまうはずである。しかし、中身は正反対。
 この落差の激しさは確信犯的である。


 お約束の「お」の字も出ないような、極めて独自色の強いゲームである。案外、世間一般のギャルゲーを知らなかったり嫌っていたりする人間のほうが素直に楽しめるのかもしれない──そう思ってしまうのである。

 
(2-2)並列世界の旅  ──『この世の果てで恋を唄う少女』

 1996年にelfがPC98用に発表した18禁ADV。1997年にSegaSaturnに18歳以上推奨ソフトとして移植された。
 この物語は、大きく分けて3つのパートから構成される。

(1)プロローグ
(2)ゲーム本編となる並列世界
(3)ストーリー全体の「解決編」となる異世界編


 このうち、(1)と(3)は完全な一本道ADVである。本作品の目玉となっているのは(2)の部分であり、ここで「A.D.M.S.」なる新種のゲームシステムが導入されているのである。私がこのソフトを高く評価しているのは、専らこのA.D.M.S.の存在による。
 そもそも、このA.D.M.S.というゲームシステムとは、

 Auto Diverge Mapping System──「オート分岐マッピング・システム」

のことである。英語として誤っている("diverge"は動詞の原形)ような気がするが、それはレビュー本体とは関係無いので無視する。このA.D.M.S.の下では、以下のようにしてストーリーが進められる。

(a)主人公の行動によってストーリーが進められていく。
(b)主人公が辿ってきたストーリーは、リフレクターデバイスを使うことによって表示される宝玉マップと呼ばれる画面で表示される。
(c)通常のデータセーブとは別に、宝玉を使った宝玉セーブも可能。宝玉を使う(その場所に「残す」)と宝玉マップ上にマークが現れ宝玉セーブが行われる。そのマークをクリックすることによって主人公がその時間軸・場所へワープし、宝玉が「回収」される。設定的には、リフレクターデバイスと宝玉を使うことによって、主人公は並列世界を自由に動き回るという「特権」を手に入れたことになる。
(d)ストーリー上の分岐に差し掛かっている場合、主人公が持っているリフレクターデバイスが青白く点滅し警告を発する。
(e)ゲームの目的は宝玉8個(SSでは10個)を全て回収すること。

 さて、本作品におけるA.D.M.S.の役割は大きく分けて2つ存在する。

(x)アドベンチャーゲームにおけるストーリー分岐のマップ表記
 主人公がどの世界のどの場所にいるのか、どの場所/世界でセーブしているのかを地図のように表記するのである。RPGでいうところのオートマッピング機能がADVにやってきた……という解釈でも問題無いようである。ADVとしては非常に規模の大きい本作品では、A.D.M.S.のようなヒント表示機能が必要不可欠である。
(y)「並列世界を自由に行き来する」という感覚の体験
 通常のADVでは、複数のセーブが可能になっている。しかし、一度セーブしたデータをロードしたとしても、それは既に進めたシナリオをやり直すことに過ぎないし、セーブしてからロードするまでの行動は全て水の泡となってしまう。たとえあるADVが並列世界を舞台にしていたとしても、この方式のデータのセーブ・ロードしかできなかったとしたら、それは単なるマルチエンディングのストーリーと同一であり、「並列世界を舞台にした」という設定があまり活かされないことになる。
 ところが、A.D.M.S.に搭載されている宝玉セーブというのは、単なるデータの保存ではなく、文字通り「その場所へワープする」ものである。当然、ここまでのシナリオで獲得したアイテムや、宝玉の回収・配置状況もそのまま受け継がれる。こうすることによって「並列世界を自由に行き来する」感覚が生み出され、並列世界という特異な設定をじっくりと味わうことが可能になるのである。


 また、A.D.M.S.とは直接関係無いが、本作品のゲームシステムで欠かすことができないのが、宝玉以外のアイテムである。ゲームの解決に必要となる宝玉以外のアイテムは多数存在するのだが、アイテムの配置場所は巧みに計算されており、Aの世界のイベントを解決するのに必要なアイテムがBの世界に配置されているということも珍しくない。
 いずれにせよ、A.D.M.S.が並列世界とマルチシナリオを心行くまで楽しむ為に用意され、期待以上の効果をあげていることは確かである。また、単なるフラグ潰しの作業だけでクリアできるほど簡単なゲームではないことも確かであり、プレーヤーの頭脳と根気が試される作品である。
 どちらにせよ、私好みである。

 1996(1997)年発表という一昔前のゲームであるが、ゲームのスケールの大きさとシステムの斬新さは今日でも十分に通用する。

 
(2-3)木造校舎に巣食う「悪魔」との頭脳戦  ──『遺作』

 1995年にelfがPC98用に発表した18禁ADV。後にWindows95版も発表されたので、今日でもプレーは可能だと思われる。

 とある町の有名私立高校に通う主人公。彼の夏休みは例年と同じように、平穏無事に過ぎていくはずであった。ところが、ある日、彼は謎の手紙を受け取るのである。それにはこう書かれていた。
「登校日の午後5時に旧校舎5階の音楽室に来て欲しい」と……。
 悪戯ではないかと考えたが、結局は旧校舎へと足を向ける主人公。しかし、旧校舎の音楽室に手紙で呼び出されたのは主人公だけではなかった。5人の女子生徒と2人の男子生徒、そして1人の女教師も同様に手紙によって呼び出されていたのである。
 彼らは誰が手紙の差出人なのか疑いながらも、とりあえずは音楽室から出ようとする。ところが、開いていたはずの音楽室の扉はいつの間にか施錠されていたのである。
 こうして、木造5階建ての旧校舎を舞台にしたサスペンスが幕を開ける……。

 ゲームのジャンルとしてはADVだが、恋愛の要素なんてキレイサッパリ消えてしまっているように感じられた。ゲームの中心となるのは、主人公達を殺害しようと企む「遺作」──パッケージに書かれている中年男性と、彼に立ち向かおうとしている主人公との「頭脳戦(?)」である。主人公は建物内に散らばっているアイテムを駆使して旧校舎からの脱出を図るわけだが、脱出への道程の最中に些細なミスを犯したり、姿を見せなくなった人間を無視したりすると、一行の中から「犠牲者」が現れるのである。

 本作品の最大の見所は、建物内に転がっている無数のアイテムをどのように使っていくか、ということである。ただ、単にアイテムを手に入れて使えば良い……という単純なものではなく、アイテムを発見するプロセスや、入手したアイテムの使い方に頭を使うようになっている。ダンジョン内にヒントは殆ど転がっていないので、1回目プレーではフラグ潰しの単純作業を許さない頭脳戦が求められる。それに、グッドエンドを見る為の条件(1人も犠牲者を出さずに脱出する)が案外と難しく、私が攻略情報無しでプレーした時も、3回目でようやくグッドエンドを見ることができたのである。
 恋愛要素が無いわけではないのだが、主目的は旧校舎からの脱出であり、主人公と女性との恋愛沙汰(グッドエンディングを迎えた場合、途中の選択肢によって2人のうち1人が選ばれる)は遠いお空の彼方。純愛物を思わせるCGはエピローグでしか拝めない(本編でのCGは全て陵辱物)。CGなど好みが分かれる要素はいくつか転がっているが、頭を使うADVとしてはかなり良くできた秀作なので、一度プレーされてはいかがだろうか。

 ちなみに、「遺作」と親戚である「臭作」という人物が登場する続編も発表されている。詳細は知らないが、こちらも頭脳プレーが要求される陵辱物18禁ADVだと聞いている。こちらの情報は機会を見つけ次第お届けしたい(攻略サイトを覗いたほうが早いような気がするが……)。


(3)最後に

 さて、「私が気に入ったADVのギャルゲー」なるものをピックアップしてみた。……今、改めて振りかえってみて気付いたのだが、「いわゆる典型的な恋愛ADVが1本も無い」! ……そういうコンセプトで書き始めた文章だから、当然の帰結なのかもしれないが。しかし、『Prismaticallization』が恋愛ADVだとは口が裂けても言えないし、残りの2本は恋愛や18禁要素を抜きにしても楽しめる作品だし、それを考えると「ツボにはまった」恋愛ADVはまだ1本もプレーしていないような気がするなあ……。この調子だと、こことは別に「面白い恋愛ADV求む!(ただしヴィジュアルノベル限定)」という告知でもしなきゃならなさそうである(後に実行に移してしまった)。

 文章が長くなってしまったので、次の作品からは別ページにて紹介する予定である。

 なお、『マンネリなギャルゲーに飽きた方へ』及び『面白いヴィジュアルノベル求む!』については、読者の皆様からの御意見も積極的に載せていきたい。


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関連リンク

-Arc System Works(『Prismaticallization』発表元)

-株式会社エルフ(『この世の果てて恋を唄う少女』『遺作』発表元)

THE CONSUMER(原文掲載先)

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