あの世の入口で
エアード・ブルーマスター
「ここは…?」
気がつくと、変なところにいた。
地面の代わりに雲があるし、空の色は変だし、それでいて花畑があったりなんかするし…
「確か、さっきまでシチルにいたよな? 俺は…」
辺りを見回して、少し考える。
この場所について、一つだけ思い当たった。
「…もしかして、ここはあの世か……?」
何処かでピンポーン♪という音が聞こえたような気がした。
「ま、あんな無茶やれば死んで当然か…」
ぼやきながら道らしき物を進んでいく。
自分が死んだと言うこと自体は、別段驚かない。
200年以上も生きてきたんだ。
いつかこんな日が来るだろうとは思っていた。
「最後に約束が守れて…よかったな」
そう言って、少し笑みを浮かべる。
あの場所なら、自分の死体は見つからないだろう。
紗耶や水菜も、俺は何処かで生きてる、と思ってくれるはずだ…
何も心配はない…
「えーい! 何を悠長に死んどるかぁっ!!」
小雪ナックル!
激しい衝撃がエアードの体を突き抜けていく。
声もあげられぬまま空高く飛んだ体は、真っ逆さまに地面に落ちる。
「が…がはっ……」
そこでようやく声を出すことが出来た。
「い、今のは…まさか…」
体を起こし、先ほどの一撃が来た方向を見る。
そこには予想通りの人物――寒空小雪が立っていた。
「まったく…なんであっさりとこっちに来ちゃうかなぁ?」
小雪は怒り半分呆れ半分といった表情でエアードを見る。
ちなみに、右手には先ほどの攻撃に使ったメリケンサックが握られている。
「まあ…あの状況じゃ仕方ないと思うけど…」
やれやれ…といった感じで溜め息をつく。
「なっ…見てたのか……?」
「そりゃあ幽霊だからね〜、色々見れるよ……たとえば、誰かが副官と×××したり、元敵将と浴室で×××してるのもね……」
小雪にジト目で見つめられ、エアードは目をそらす。
「見てたんならわかるだろうが…俺があの場で紗耶を救うには、あれしかなかったってことが…」
エアードは小雪を見つめる…
「私が言いたいのはそこじゃなぁーいッ!」
小雪スイング!!
袖口から釘バットを出し、エアードにフルスイングをお見舞いする。
エアードの体がくの字に折れ転がっていくが、気合いでなんとか立ち上がり抗議する。
「こ、殺す気かぁぁっ!」
「大丈夫だよエアード…既に死んでるんだからこれ以上死ぬことはないって♪」
「あのなぁ……(−−;」
「ま、それはさておき……」
小雪はあっさりとそれまでのことを無視する。
「私が言いたいのはね…なんであっさりと死ぬことを選んだの? ってこと」
「……?」
理解できてないエアードを見て、小雪は呆れた顔をする。
「つまりね、『どうしてあっさりと死を受け入れたのか』ってこだよ」
小雪は先ほどまでとは違い、真面目な顔になる。
「どうして生に執着しなかったの? 『死にたくない』『まだやりたいことがある』とか、未練はなかったの? …あそこには、エアードが死んだら悲しむ娘がいるんだよ?」
「ッ! そ、それは…」
「『死体が見つからないから大丈夫』…とか思ってるんじゃない? そんな考え、甘すぎるよ」
「ぐっ……」
考えを読みとられ、何も言えなくなる。
「私の時は…さ、『死』しか選択肢がなかったよ…」
そう言って、小雪は寂しく笑う。
「でもね…エアードは違う。エアードは、生きようと思えば生きられたんだよ」
「………………」
「それにね…紗耶って娘もエアードを犠牲にしてまで生きたいとは思ってないよ。エアードが死んだと知ったら、きっと後悔する」
エアードは苦い顔をする。
「だったら…どうしろってんだよ……いまさら…」
「手はあるよ♪」
「…………………………は?」
ひどくマヌケな顔をして、エアードは笑顔の小雪を見る。
「小雪…俺は死んでるんだよな?」
「うん、死んでるね」
「じゃあ、どうしようもないじゃねえか(−−;」
「死んでるけどね…完全に死んでるわけじゃない。100分の99死んでるって状態かな」
「(そ、それは完全に死んでるのと変わりないのでは…)」
「向こうからエアードに呼びかけてる力もあるし…エアードに生きる意志があるなら、私の力で戻してあげられるよ。さっ、どうする?」
「……………」
既に、答えを言う必要はなかった。
「それじゃ、いくね」
「ああ、頼む………!?」
小雪はいきなり、エアードと唇を重ねた。
「なっ、こ、小雪!?」
エアードは一瞬のことに驚くが、小雪はそのまま構えをとる。
小雪キック!!!
…………………………
「エアード…しばらくは、こっちに来ちゃ駄目だよ…」
既にエアードの姿が消えたその場所で、小雪は優しい笑みを浮かべた。
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