シチルにて〜お萩戦争〜 中編

パンドラ

結城将軍作のお萩を喰った途端、行動を停止したパンドラ
兵士達が何事かと見つめる中、パンドラが少し動いた。
ゆっくりとだがだんだん滑らかに動いていく。

もう一口お萩を口にして、ゆっくりと味わいながら思案するパンドラ
1分以上もそうしていただろうか。お萩を飲み込んだパンドラは顔を上げ
「……………………………おいしい…………………………………私のよりずっと」
「はぁ?」周りでは兵士達が脱力している。ずっこける者も多数
「いや、違うか……………味が良いのは前から分かってたし」
更にもう一口、額に皺を寄せて吟味
「でも、味だけで無く何というか………………………………心に染みる味【感嘆】」
「はぁ……そのぉ…何というか」(「何て返せば良いんだこの場合?」「知るか」)

期せずして料理人モードに突入したパンドラに兵士達は戸惑いを隠せない。
小声で相談したりしているが、解決策は見いだせない様だ。
これが始めてでは無いが、何度見ても反応に困るのは変わらないらしい。

戦士である以前に、料理人や医者でなのがパンドラ、最近は医者は引っ込んでるが
呆れている兵士達を余所に、精神が復帰したパンドラはいきなり行動に出た。

机上のお萩をまとめて包んでいく。泡を食った兵士達は止めようとする。
「何してるんですか!?パンドラ将軍」それを交わしながらパンドラが言う。
「私が全部食べます!私の技術向上の為に、ありがたくお萩は頂いていきます。」
「んな、無茶な」「横暴ですよ」「非道い。【涙】」「自分が喰いたいだけでしょう?」
「うん、そうかも知れない。」呆然とする者多数、場を沈黙が覆う。
こういう場では、言い切った者の勝ちである。兵士達はただ唖然とし続けている。


「(お萩を全てまとめて、背負う。)じゃ、そう言う事で〜〜♪」
お萩を抱えてパンドラが逃走する。大荷物を抱えているとは思えない早さだ。
「ああっ追え〜、追え〜。」「何て早さだ………やっぱり人間、私欲に走ると強いな」
「感心してるなっ!。おいっ誰か馬を…………」「もう米粒みたいだ、見失うぞ」

凄まじい早さで逃走していくパンドラに対して駿馬を駆って対抗する兵士達、
早さでは不利と見たパンドラは悪路を迷走する事で切り抜ける。
「道が悪いぞ、泥に足を取られるな!」「草むらに隠れて沼がある。はまるなよ」
「ぐぁ〜、はっ蜂の群だ。逃げろ〜」何て会話が繰り返されながら延々追いかけっこ


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パンドラは必死だった。
大荷物を抱えての馬との追いかけっこ
少しでも気を抜けば、容易く追いつかれる。
ただひたすら、全力を尽くす。万全とは言えない身体が悲鳴を上げる。

延々、走り続ける。何処まで逃げたのか…………
身体に反して、心は穏やかですらあった。心に掛かった靄が晴れていく
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パンドラの逃走から数十分が過ぎた。既に日は高く、もうすぐ10時である。
草原の中で、文字通り満身創痍の兵士達は途方に暮れていた。
「もう、影も形も見えないですねぇ……………………はぁ【疲】人間じゃないですねぇ」
「並の人間じゃ無いのは知っていたケド、これは以上だよな」
「なんで戦場であの動きをしないんでしょうかね?ゲリラ戦しかければ、
敵兵の百や二百は簡単に討ち取れそうな気がしますけど」
「殺しは好きじゃないそうだしなぁ。殺さない訳じゃないらしいが……
『下の大量虐殺なんて趣味じゃない』だそうだが………優しい・・・のか?」
「優しかったら、部下のお萩を奪って逃走なんかしないと思うが」
「それもそうか」

途方に暮れたまま話し続ける。
ただ、意味が少なそうな会話を続ける。
例え無駄だとしても話し続けていないと空しくなるのだろう。

「帰るか?」
「………そうだなぁ」
「ああ、・・畜生・・・・俺のお萩【涙】」
「お前だけのじゃ無いけどな」
そんな事を言いながら帰路に就く兵士達………………その背中が小さく見える。

(2002.09.24 / 2002.09.28)


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